コロナ禍により例年どおりの文化祭ができなかった南山高校男子部(愛知)では、同校初の試みとなるオンライン文化祭「飛翔祭」(2月19日~3月19日)を開催しました。1年B組42人は、なんと校内に縄文時代の竪穴式住居を制作。生徒が縄文人に扮して、当時の生活を再現する動画を公開しました(現在は非公開)。代表生徒に、この企画を実現するまでの歩みを聞きました。(中田宗孝、学年は昨年度)

オンライン開催の企画に行き詰まって…

―文化祭で竪穴式住居。珍しい取り組みですが、なぜ挑戦しようと思ったのでしょうか?

木原レン君(以下、木原) 昨年9月にオンライン文化祭の開催が決まり、クラスで動画の内容を考えることになりました。ですが、良い案がなかなか出ず、正直行きづまっていたんです。

クラスの文化祭委員を務めた世古口君(左)と木原君

そんなとき、僕と担任の先生が、あるクラスメートの机の中から企画会議に提出されなかった企画書を見つけたんですね。そこには薄い文字で「竪穴式住居づくり」とだけ書いてありました。そのアイデアを目にしたとき、僕の中で「そんなアプローチの仕方があるんだ」と一筋の光がさした感じがして、竪穴式住居を作ってみようと思ったんです。

―意外なきっかけで決まったんですね。

木原 そうですね(笑)

そのアイデアをクラスメートに持ち掛けてみると、とても驚かれました。と言うのも、他のクラスは料理対決動画や面白動画の企画だったのに対し、僕らは屋外での竪穴式住居づくり。かなり異質です。

とはいえ、企画のインパクトは強く、「挑戦してみたらきっと良い思い出になるんじゃないかな」という空気は、クラスのみんなも抱いていてくれたように感じました。そして、僕らクラスの文化祭委員8人が中心となり、昨年10月から竪穴式住居の制作に取り掛かりました。

設計図を作り建築、日本史の教科書参考に

―どうやって作るか、見当もつかなさそう……。

木原 インターネットで調べてみると竪穴式住居に関する情報が多くあるんですよ。有名YouTuberが竪穴式住居づくりに挑戦している動画も見つけました。不安もあったのですが、それらを見て、「自分たちでも作れなくはないな」という気持ちになったんです。

世古口侑己君(以下、世古口) クラスメートを、竪穴式住居を建てる「建築班」、制作風景の撮影や縄文人の生活の映像制作を行う「ドラマ(動画)班」に分けたんです。木原君は企画全体のまとめ役で、僕は建築班のリーダー的役割を担いました。

竪穴式住居は、校内駐車場の端にある土の空き地に建てることに決まりました。

―まずは何から始めましたか?

世古口 土壌の整地・開拓です。この段階からとても苦労しまして……普段はただの空き地なのでとにかく地面が固い! 建築予定地のあちこちを70㌢ほど試し掘りすると、小石がたくさん埋まってました。

竪穴式住居の設計図は、僕を含む建築班の有志でチャレンジ。日本史の教科書やインターネット検索の情報を参考にしながら、形を決めていきました。ただ実際には、設計図どおりにいかないことも多くて、そんなときは建築現場でみんなで話し合いながら作っていったんです。

世古口君が作成した設計図

―揃えた材料は?

世古口 主に支柱となる4本の木材、約25本の竹、たくさんのわらです。木は購入し、竹は校内の竹やぶから調達。わらは、数人のクラスメートの親戚の農家から提供していただきました。

骨組みが完成。制作過程を撮影し、編集した動画を文化祭期間中に公開した

木原 昨年10月から始まった竪穴式住居づくりは、ほぼ毎日、放課後から2時間ほど作業にあたりました。休日に集まっての作業も何度もあります。そして、約2カ月半で完成に至ります。

初めての竹切り体験で苦戦

―大変だったことはありましたか?

世古口 そうですね……すべての作業で苦戦しました。竹を切るのも初めての経験だったので(笑)

でも作業を重ねるたびにみんなも次第に慣れていき、最終的にはのこぎりで竹を切る係、不要な竹の枝を切る係、竹を建築現場まで運ぶ係と、クラスのチームワークを発揮して作業が効率良くなりました。

竪穴式住居の大きさは、対角線の長さ6.2メートル、高さ2.5メートル

木原 ドラマ班も気がついたら竪穴式住居づくりに参加してましたね。つい建築に没頭しちゃってました(笑)。ウチのクラスは“元気すぎる”のが取りえなんです!

世古口 まっさらな土地に竪穴式住居の骨組みができてくると、クラスのみんなの期待感が高まってきて、作業中の会話も弾んだよね。

くぎやネジは一切なし、細部までこだわり

―こだわった部分を教えてください。

世古口 くぎやネジは一切使っていません。縄で竹と木を直角に結ぶために「角縛り」という特殊な結び方をしているのですが、この技術はYouTubeの動画を参考にして習得しました。

他にも竪穴式住居の天井部分もこだわりました。天井に空洞をつくり、縄文時代の竪穴式住居にも見られる排気口を再現したんです。

―完成した竪穴式住居に対する周りの反応は?

世古口 建築現場の近くに教職員の駐車場があるんです。帰宅する先生たちが「すごいなぁ」と、毎回声を掛けていただきました。他のクラスや部活動中の生徒たちも見学に来てくれて、僕たちも誇らしげに作業していました(笑)

木原 友人たちからは竪穴式住居を完成させたことに驚かれ、僕らの企画動画を視聴した家族には「高校生でこれを作ったのはすごい」と言ってもらいました!

縄文人の生活を再現ドラマ化

―縄文人の生活を物語仕立てで紹介する動画も制作しましたね。

木原 はい。撮影するにあたり、縄文人の生活様式をあらためて調べました。縄文時代は稲作ではなく狩猟が主流なこと。当時の貝塚から分かるように木の実を採って食べていたこと。そんな縄文時代の生活を、数人のクラスメートが縄文人になりきり、再現ドラマとして紹介しています。

世古口 僕らが制作した竪穴式住居は、4人入っても余裕のある広さ。内部には半径1㍍、深さ60㌢の大きな円形の穴を掘りました。これは当時の床(地床炉)を再現しています。

竪穴式住居の内部に作った床

―しっかり衣装も用意して。

木原 縄文人役のクラスメートには、麻の布で作った当時の服装「貫頭衣」を着て演じてもらっています。

真冬でこの服、縄文人ってスゴイ

―撮影を終えて感じたことを教えてください。

木原 再現ドラマを撮影したのは昨年12月末で、貫頭衣1枚だと凍え死ぬんじゃないかというほどの寒さだったんです(苦笑)

縄文人の一日の再現ドラマより

厚着をしている撮影者側の僕でも寒い(笑)。演者のクラスメートは貫頭衣の下にヒートテックを着てはいるのですが、それでも「寒くてキツイ……」と話してました。貫頭衣だけで冬を過ごしていた縄文人は本当にすごいなと。

世古口 現代と比べて服装も質素で、食料も多くない。生活が大変そうだなと感じました。それと僕は、撮影動画の編集も担当したんですが、編集中に縄文人を演じるクラスメートの様子に笑っちゃいました。撮影中は毎回爆笑だったんだよね? 

木原 そう。縄文時代の夫婦を演じるために、クラスメートの1人が(女性用の)長髪のかつらをかぶっていたのですが、その姿に笑いが止まらなくなっちゃって(笑)

たくさん笑って、数え切れないほどNGを出してしまったんですけど、楽しく撮影できました。

縄文人になりきる生徒

努力が形になった、僕たちの集大成

―動画の完成版を見た時の感想は?

木原 1月にクラスのみんなで完成した動画を鑑賞したんです。この企画に取り組んで一番盛り上がった瞬間でした。クラス内の雰囲気がとても良かったのを覚えています。

世古口 頑丈な竪穴式住居をつくることができて、自分たちの努力が形になった。うれしさが込みあげてきました。1人ではとてもできない企画だったので、1年B組の集大成のような作品になったなって。

木原 2020年度はコロナ禍でクラス一丸となって取り組むような行事がなかったんです。

世古口 オリエンテーション合宿や体育祭も中止になって……。

木原 だからオンライン文化祭の企画で、クラスのみんなで試行錯誤しながら一つの目標に向かえたのは良い思い出になりましたね。

1年B組のみんな

―みなさんが制作した竪穴式住居は今後どうなるのでしょうか。

世古口 昨年12月に完成してから2月の文化祭開催まで、雨からわらを守るためにブルーシートをかぶせるなど、竪穴式住居の細かなメンテナンスもしてきました。思い入れのある制作物なので、ずっと残しておきたい気持ちはあります。

木原 劣化が著しくなるまでは保存しておきたいよね。実際には、壊すのか残すのか、まだ未定です。僕らは勝手に、1年B組の竪穴式住居を「南山文化遺産」と呼んでいます(笑)。なので、社会科の授業などで使っていただければなと思っています。