まずはこの写真を見てほしい。
……何だか、どこかで見覚えがありませんか?
のり、消しゴム、ハサミ……この巨大でリアルな文具たちは、柴島(くにじま)高校(大阪)のあるクラスが文化祭の代替行事で作った渾身(こんしん)の作品です。なぜ、どうやって作ったのか、生徒たちにインタビューしました。(中田宗孝、写真は学校提供)
身近な文房具を巨大化、インスタ映え狙う
巨大文具のオブジェを作ったのは、柴島高校の1年3組の生徒41人です。
昨年は新型コロナウイルスの影響で、全国的にさまざまな学校行事が中止、縮小を余儀なくされました。柴島高校も例外ではありません。
文具の巨大オブジェは、中止になった文化祭の代替行事として昨年11月に開催された「文化的行事『Kunijima Days』」のクラス企画なのです。
「BIGブングテン」と題した展示企画。これまでの学校生活でなじみのある文房具たちをダンボールで忠実に作るだけでなく、実物よりも15~20倍に巨大化させました。
鉛筆、消しゴム、ノートといった数々の巨大な文房具オブジェが広がる空間には、「インスタ映え」を図った撮影スポットも設けています。
昨年9月、担任の山口真弓先生を交えたクラスの話し合いにより、展示企画の制作物が「巨大な文房具」に決まりました。
「僕らにとって身近な文房具を巨大化させる。そんな意外性のあるアイデアが『いい!』と意見がまとまりました」(文化祭係の宮城彬良君)
再現度にこだわり「ハサミは実物みたいに動かせます」
クラスの文化祭係7人が中心となり、巨大な文房具の制作が始まりました。
制作は、美術を教える山口先生の助言を受けながら、ダンボールで小型の試作品を作り、それをもとに実際に展示する大きな文房具オブジェを完成させていく手順で進められました。
「私が最初に試作したのは『ハサミ』です。試作品が一つできたら、その文房具を大きくするための設計図(展開図)を書いていきます。まずは自分がハサミ(のオブジェ)の作り方を覚えて、クラスのみんなに具体的な制作方法を伝えました」(文化祭係の新田紬芹さん)
巨大化させる文房具の再現度にもこだわりました。ハサミは実物同様、チョキチョキと刃の部分を動かせるように仕上げています。
セロハンテープは、ビニールで代用したテープを引っ張ると伸ばすことができる、約2週間かけて完成にたどり着いた新田さん自慢の作品です。
そして、ボンドや消しゴムは、着ぐるみのように装着できる形状にする工夫も光ります。
「展示する消しゴムを作っているとき、なんかかぶれそうやなって。顔が見えるように一部をくりぬいてかぶってみたら、意外とよくて(笑)」(新田さん)
こうして15を越える巨大な文房具が次々とできあがっていきました。
体育祭も合宿も中止……クラス企画は初めての大きな行事だった
放課後や土曜日を使って、クラス総出で文房具オブジェの制作に励みました。
実は、新型コロナウイルスの影響で、新1年生として経験するはずだったクラス合宿や体育祭、多くの学校行事が中止になっていました。そのため、今回の企画がクラス一丸となって取り組む、初めての大きな行事だったのです。
宮城君は「普段からみんな仲良くて、誰とでもしゃべりやすい雰囲気があるクラス。なので、クラスメートたちと何か一つのことをやってみたいという思いがあったんです」と、打ち明けます。
校内の廊下の一角に広がる談話スペースに、巨大な文房具オブジェを設置してみると、「自分たちの想像を超えるよい展示物ができた」(新田さん)。「『これはイケるぞ!』と手応えを感じたよね」と宮城君。
クラス全員で作りあげた展示物は、準備期間の段階から「これはすごい!」「3組、やってるね!」と、他クラスの生徒や先生たちから注目を集めていたそうです。
当日は写真撮影に大盛り上がり
文化祭の代替行事、当日。新型コロナウイルス感染予防の観点から、在校生と教職員のみで催しが行われる中、1年3組の展示企画「BIGブングテン」は盛況を博しました。
見学に訪れた生徒たちは、身長を優に超える長さの鉛筆を手に持ちながら、巨大な消しゴムの上に友人たちと座りながら、それぞれ自由に写真を撮って楽しんでいたそうです。
3組の生徒たちは、展示物の案内係や撮影係に奔走。新田さんは力作の消しゴムをかぶって校内を歩き、企画の宣伝をしてまわりました。宮城君は「自分たちの企画を一番満喫したのは僕らかも」と、笑みを浮かべます。
「行事が終了して片付けの時間になっても、クラスのみんなが文房具と一緒に写真を撮り続けていたんです。とても名残惜しそうに。その様子はずっと僕の心に残るだろうし、この企画をやって本当に良かったと思えた瞬間でもありました」
文房具でクラスの絆が高まった
行事が終わり通常の学校生活に戻りましたが、3組の教室は以前と景色が変わりました。
教室内には、「BIGブングテン」で制作した油性ペン、スティックのり、画びょうなどのオブジェが今も残され大切に飾られています。
そして、山口先生が生徒たちへのサプライズで用意した行事中の記念写真も多数掲示してあります。
授業中、巨大な文房具を目にした各教科の先生が「生徒主体でここまでの展示物が作れたのはすごい」と、口々に伝えてくれるそうです。そんな称賛の言葉を誇らしく感じる3組の生徒たち。2年生に進級するとクラス替えのため、現在のクラスメートと過ごす日々は残りわずか。それでも宮城君は、本音をポロリとこぼしました。
「こんなに心温かい人たちがそろったクラスはこれまでなかったなって……。僕は3年間このクラスがいいと思っているんです」と。