「うさぎ追いし かの山」で始まる唱歌「故郷(ふるさと)」が発表されてから今年で100年になる。自分なりの故郷をイメージして、3番まであるこの歌の続きとなる「4番」を作詞したら……。そんな課題に東京・麻布高校の生徒が取り組んだ。

この授業は、首都大学東京の西島央先生を講師に招き、2009年から総合学習の時間に実施している。今年は1・2年生21人が受講。同校の生徒にとって「故郷」の歌詞にある風景は縁遠い。授業では、各自がイメージする故郷の写真を持ち寄り、感覚が近い者同士が班をつくって、作詞した。

7月12日には、保護者も見守る中、自作の歌詞を披露する「発表会」が開かれた。

生徒の多くが東京や近県に住むとあって、都会の風景や人から着想を得た作品が目立った。「朝が来たら働き 夜が来ても働く」「勤労真面目と言われて 誇り高きふるさと」。こんな歌詞が並んだ。

山崎諒太君(2年)と加藤陽大君(2年)の班は、6番まで作った。「フジヤマゲイシャハラキリ」「サラリーマン働くIT大国」といった歌詞をちりばめ「私たち今ここで振り返ってみよう 忘れがたきふるさと」と結んだ。「観光客から見た日本と、生活の場としての日本を対比して、『本当の豊かさとは何か』ということも問題提起したかった」と2人は話す。

そんな中で、生徒と保護者の投票で1位の評価を得たのは、「春に舞うは薄紅 冬に散るは風花」から始まる歌詞。川本杜彦君(1年)らの班が作った。川本君は「幼いころ、岐阜に住んでいたので、元の『故郷』の歌詞に共感できる。みんなの歌詞の視点が多様なのに驚いた」と話していた。
 西島先生と同校の担当、村本ひろみ先生は、他県の高校でもこの授業を実施してもらい、全国発表会を開く計画だ。村本先生は「同世代の生徒が『故郷』をどう感じているのかを知る機会がつくれれば」と話している。
 
◆生徒の作品の一部
4 映り変わるこの街/うつむきがち若者/なうも昔もここが住所/いつまででもさまよう
5 変わり映えないこの街/味気のない若者/二次も三次も両立/こんなあたしリア充
4 フジヤマゲイシャハラキリ/オモテナシと武士道/古き良き日本の美しい精神/世界に誇れる我が国

5 サラリーマン働くIT大国/東京を中心に発展/都市化は犠牲のうえに成り立つ/先進国日本の宿命
6 人々や街並みは変わりゆく/便利さと豊かさを追い求める/私たち今ここで振り返ってみよう/忘れがたきふるさと
4 春に舞うは薄紅/冬に散るは風花/望月誘う淡い郷愁/守りたまえ故郷

5 時に人は小さく/黒いカベの深さに/涙もさけびも聞き入れはせず/いつも同じふるさと
6 安らぎ生む並木道/色を添える花たち/時に追われる都市の隅にも/不変に咲く故郷

【写真】発表会では、生徒が歌詞を解説。東京藝術大学の大学院生や卒業生がピアノと歌唱を担当した