今年は新型コロナウイルスの影響により部活動の大会や学校行事の中止が相次いだ。筑波大学附属高校(東京)は、全国の高校に先駆けて文化祭のオンライン化を決定し、10月17・18日の開催に向けて準備を進めている。従来の文化祭の形態を大きく変える、同校生徒たちにオンラインに希望を見出した経緯を聞いた。(中田宗孝、写真・画像は学校提供)

ZoomやYouTubeを活用

筑波大学附属高校の「桐陰祭Online」(10月17・18日開催、常設展示は同文化祭公式サイトにて10月10日から31日まで公開中)は、校内で行っていた文化祭をネット上へと移した、同校にとって初の試みとなるオンライン文化祭だ。

文化祭当日、生徒たちは各自のスマホやPCから「桐陰祭Online公式サイト」にアクセス。プラットフォームの役割を担う同サイトで文化祭のプログラムを確認し、クラスや部活団体による催しが行われる外部サイトへと訪れる仕組みだ。

文化祭のイベント会場として「YouTube」や、テレビ会議システム「Zoom」などを活用。YouTubeで演劇が披露されたり、Zoomでクイズ大会を行ったりと、さまざまなオンライン企画を実施する。

桐陰祭Onlineの全体マップ
 

 

委員長「どうにか開催してやろうと」

「桐陰祭」実行委員長に就任した岩田楽君(3年)は、委員会メンバーと昨年10月頃から来秋の文化祭に向けた準備を着々と進めていた。

しかし、新型コロナウイルスにより3月初旬から学校が休校となり、委員会の活動はストップ。岩田君は「4月に入って休校の延長が決まった時点で、例年どおりの文化祭はできないだろうと感じました」と振り返る。

休校を受けて部活動も休部。端艇部(ボート部)の主将も務める岩田君は、4月に行う予定だった自らの引退試合が中止となった。「すごく熱を入れて部活に打ち込んでいたので悔しい……。だからこそ、文化祭はどうにか開催してやろうという気持ちになりました。開催形態を模索する中でオンラインのアイデアが浮かんだんです」

「桐陰祭」実行委員の岩田君(左)と後藤君

バーチャルイベントサービスでビジョン開ける

だがオンライン文化祭の案は、当初、委員会の他のメンバーから好感触を得られなかった。副委員長の後藤光正君(3年)は、「これまで通りの文化祭への未練もあって、岩田君の提案に前向きではなかったんです」と話す。

そこで岩田君は、バーチャルイベント開催サービス「Cluster」を利用するアイデアを再提案して、活路を切り拓く。「実際に『Cluster』を使ってみると、僕自身もオンライン文化祭へのビジョンが一気に広がったんです。これなら文化祭ができると」(後藤君)

オンライン文化祭では「Cluster」で校舎を再現する。アカウント登録すると、アプリから文化祭の企画に参加できる

先生「生徒がやりたいなら絶対に中止にしない」

一方、教員側の文化祭責任者の山田研也先生は、休校中に文化祭実行委員会の生徒たちとZoomで連絡を取りあう中で、彼らの文化祭に駆ける情熱にふれた。

「岩田君はじめ実行委員の生徒たちは、文化祭の開催をあきらめていませんでした。生徒が熱意を持ってやりたいと思っているなら絶対に中止にはしない。私自身、オンラインの案を詳しく聞いて、実現の可能性を感じたんです」(山田先生)

実行委員会は、オンライン文化祭の概要を書面にまとめて学校側に提出。5月の教員会議を経て、「桐陰祭online」として正式に開催が決定した。

オンライン文化祭で開催する「クイズ大会」

ライブステージも再現

桐陰祭onlineのイベント会場の一つとなる「Cluster」は、オンライン上で大規模なバーチャルイベントを開催できるサービス。スマホやPCなどから数万人が同時接続でき、これまで同サービスを利用したeスポーツの大会や音楽フェスが行われている。

委員会メンバーは、「Cluster」の提供するバーチャル空間「ワールド」を利用して、桐陰祭のイベント会場の制作を進めていった。この「ワールド」内では、自分好みのイベント会場を作ることができ、制作者のオリジナリティあふれる空間をデザインできるのが特徴だ。

岩田君は「ここでなら従来の文化祭企画の一部を再現できると同時に、オンラインならではの試みもできる」と、自信を深める。また「ワールド」の空間で、別撮りの実写映像を流せるという。「ライブハウスのような会場づくり、光の演出もできるので、軽音楽同好会のライブを企画しているんです」(岩田君)

バーチャル空間に広がるきらびやかなライブステージ

オンラインならではのメリットも

委員会メンバーたちは、オンライン開催のメリットを感じつつあるという。

従来の文化祭では、大掛かりなステージ設営や装飾づくりのため、準備段階から校内の広い場所の確保が必要だった。文化祭直前の準備日まで使用できない場所もあったが、ネット空間が作業場になったことで、問題が一つクリアになった。

「プレイベントを行えるのもオンラインの利点です」と後藤君。プレイベントを実施することで、運営方法やシステム面のトラブルを事前に改善でき、万全の体制で本番に臨める。

教室をイメージしたバーチャル空間

5月、桐陰祭Onlineのプロモーション映像をYou Tubeに公開すると「PVを見た友人から『ワクワクしてきた』と、ポジティブな声をもらいました」(後藤君)。来年以降にも繋がるような文化祭のカタチを確立すべく奔走を続ける中、委員会メンバーたちは、今年の桐陰祭のスローガンを「文化祭革命」と掲げた。

これは僕らの革命

「(新型コロナウイルスの影響で多くの活動が制限される)このような状況での高校生活を意義あるものに変えられるはずだと僕は思うんです。オンライン文化祭の取り組みは、この今を変えてやろうという僕らの『革命』。新しい文化祭の実現まで、みんなと一緒に立ち向かっていきたい」(岩田君)