昨年4月に創部したばかりの長崎・長崎北高校学芸部演劇班。文化部の全国大会である「全国高校総合文化祭」の演劇部門に結成から1年未満で初出場を決めた。メンバーはわずか3人でのスタートだった。どんな練習に取り組み結果を残すことができたのか。座長を務める海見天武君(3年)が快進撃の舞台裏を語ってくれた。(中田宗孝、写真は学校提供)

手探りでスタートした練習

―みなさんの学芸部演劇班は、昨年4月に結成された新しい部活です。活動を始めたきっかけを教えてください。

「部活で演劇をやりたい」と思っていた学芸部顧問の先生が、部内に演劇班を立ち上げたんです。それに興味を持った僕と、当時2年生の青木貴広君(3年)が参加したのが始まりです。

座長の海見天武君(3年)

それまで僕は部活をしていなかったのですが、中学の頃にちょっとだけ演劇経験があり、「この機会にもう一度やってみたい」と思ったんです。青木君は、顧問の先生から熱い視線を注がれて、断りきれずに参加したようで……(笑)

その後、生徒1人を加えた3人のメンバーで、学芸部演劇班として演劇大会に出場することを目標に掲げて練習に取り組んでいきました。

―練習も手探りで始めたと思います。どんな練習を行っていたのですか。

県内の強豪演劇部が主催したワークショップにみんなで参加し、腹式呼吸での発声などの練習法を学んだんです。それを僕らの普段の練習に取り入れ、ひたすら反復しました。

コロナ禍で…マスクをして稽古

とはいえ、まだ台本ができてなかったので、基礎練習をやったら顧問の先生を交えてたわいのない雑談で1日を終えるなんて“ゆるい日”もありました(笑)

日常の中の「面白い60分」を舞台に

―みなさんが上演した演劇作品「アルキメデス・スリッパー」(作:長崎北高校学芸部と福田耕)ができるまでを教えてください。

この作品は、バス停を舞台に高校生たちが繰り広げる会話劇です。到着の遅れるバスを待ちながら、男子生徒らが学校生活や趣味についてコミカルに語り合います。

顧問の先生が「アルキメデス・スリッパー」の基になる、2ページくらいの台本を創作しました。それを先生と僕らで物語やせりふを膨らませていき、完成させました。

僕らは活動当初から創作する作品のコンセプトを「日常の中の面白い60分を切り取って舞台にする」と決めていたんです。なので、部活中にみんなで面白おかしく雑談した時の内容も作品内に盛り込みました。

劇中、僕の演じる高校生が先生に怒られたエピソードを再現する一人芝居があるのですが、これは実話。実際に数学の課題提出を忘れて先生に怒られました(苦笑)。そして、練習をつんで仕上げた作品を昨年9月の文化祭で初上演しました。

高校生のリアルな姿を追求した

―みなさんの上演作は審査員から高く評価され、地区大会、県大会を突破し、九州大会でも最優秀賞に輝いて全国大会出場の切符を手にします。この出来事を班員はどう感じていたのでしょうか。

うれしさと驚きの連続でした。大会に参加することが僕らの目標だったので、どの大会でも気負いを感じることなく「練習どおりにやってみるか」くらいの気持ちで本番に臨んでいたんです。

「アルキメデス・スリッパー」の一コマ。新たな班員が加入し、劇中の登場キャラも増えた

演技についても、役を演じてはいるのですが、自分の素の性格とかけ離れた別人を演じるわけでないので、難しく考えずに毎回楽しく演じていました。場内からの笑い声を力にして、練習以上の演技ができた時はうれしかったですね。

全国大会なんてまったく思いもしなかったので、九州大会の帰りにメンバーと「最優秀賞とっちゃたよ。マジか……」みたいな会話をしたのを覚えています。

―演劇を始めて1年にも満たない中、なぜ全国大会まで行けたのでしょうか。

練習時も大会でも心掛けたのは「面白い劇をしよう!」ということです。僕らの普段の言葉遣いをせりふにし、友達の前で見せる面白い立ち振る舞いを舞台上で再現しようとしました。演技力が未熟なぶん、高校生のリアルを追求したんです。

演劇班のメンバー

だから僕らの作品は、いい意味で演劇作品っぽくない、等身大の高校生によるナチュナルな会話の掛け合いが面白い劇になったと思います。もしかしたら、その点を評価していただけたのかも知れません。

―初出場の全国大会の舞台となる「2020こうち総文」は、新型コロナウイルス感染拡大の影響によりWEB開催となり、演劇部門も作品動画の公開のみとなります。全国の舞台での実演ができなくなってしまったことをどう受け止めていますか。

コロナの影響でしばらく部活ができない状況でしたので、この中で全国大会を開催するのは正直厳しいだろうと覚悟していました。ショックもありましたが……同じくらい「しょうがないのかな」というあきらめの気持ちもあります。見方を変えれば、1つの公演がなくなっただけなので、次の公演に向けて努力していこうと思っています。

2019年創部。演劇班員7人(3年生2人、2年生3人、1年生2人=今年7月の取材時)。練習は週5日。学芸部は演劇班と文芸班に分かれ活動する。2019年、演劇班は「九州高等学校演劇研究大会」で最優秀賞を受賞し、「2020こうち総文」の初出場を決めた。