小説家になりたい。そんな夢を高校生のうちにつかんだ坪田侑也君(神奈川・慶應義塾高校3年)。中学校の夏休みの自由研究で執筆したミステリー小説が文学賞を受賞し、高校生になってプロの小説家デビューを果たした。普段はどのようにして執筆をしているのか、アイデアを生み出すコツは何か。これまでを振り返りながら、教えてもらった。(文・写真 中田宗孝)

中学校の自由研究で小説を自作

幼いころから本が好きで、小学校時代は図書委員の活動時間に小説を書いて過ごしていた。中学校では、生徒自らがテーマを決めて取り組む夏休みの自由研究で、3年間にわたり自作の小説を提出した。

中3の夏、中学時代の集大成として書きあげた一作が、小説家デビュー作「探偵はぼっちじゃない」となった。

著書を手にする坪田君

同作は、中3の男子と、彼の通う中学校の教師それぞれの視点から物語がつづられる青春ミステリーだ。

作中、主人公の中学生が同級生たちを「陽キャラ」「陰キャラ」と区別する描写がある。

「学校生活の中で、僕自身、相手の行動や発言に合わせてしまう瞬間があったんです。体よく自分を取り繕うというか……」。中学校での人間関係、雰囲気を小説の世界で表現しているという。「自分がその時感じた心情は、主人公のキャラクターに取り入れています」

読んだ同級生に「面白い」と絶賛され、舞いあがった。「彼や彼の家族は読書家。彼の両親も僕の小説を読み、『著名な作家の昔の作品のようだった』と、それぞれ長い読書感想文まで書いてくれたんです」

同級生から文学賞への応募を勧められ、同作は「ボイルドエッグズ」の新人賞に輝いた。

坪田君が中学生の時に書いた小説(坪田君提供)

アイデアはスマホでメモ

高校生になると、出版を目指して同作の書き直し作業に没頭した。

作中の主要人物の一人である男性教師の生い立ちをがらりと変えるなど、全編にわたり大幅な加筆を行い、当初の倍のボリュームになった。2019年3月、高1の終わりに渾身(こんしん)のデビュー作として刊行された。「自分の本が本屋さんに並んでいるのを実際に目にした時は、本当にうれしかった」と笑う。

現在は、次回作を鋭意執筆中だ。登下校中は小説のプロットなどを考える時間。小説に使えそうなアイデアがひらめくと、スマホでメモをこまめに取るのが習慣になっている。

「自分の生活圏外にいる人々をよく観察しているかも知れません。例えば、僕は男子校に通っています。学校外で、ふと見かけた女性のしぐさなどを参考にすることがあります」

スマホにメモする小説のプロット&アイデアメモ(坪田君提供)
 

小説読んでリフレッシュ

授業中に勉強に集中するのも小説のため。「小説執筆に多くの時間をあてたい。そのぶん、授業では先生の話をしっかり聞こうと意識しています」

放課後になると、学校の図書室や街の喫茶店を利用して、パソコンに向かい物語を紡ぐ。執筆のかたわらには、今読みかけの本を2冊必ず置くようにしている。「書く手が止まったら、小説を読んで気分をリフレッシュさせます」

同作の登場人物が「小説の教科書は小説」と語る一節があるが、「これは実体験でもあります」と明かす。文学賞受賞後、祖母が読み終えた本を手にする機会が増えた。「恋愛やお仕事モノなど、幅広いジャンルの小説を読むようになった」という。

小説執筆を軸に高校生活を過ごしている

部活にのめり込む同級生から刺激受け

高校生活で経験する出来事すべてが小説を書く源となっている。「僕自身が高校生。高校生としての生の声、等身大の心情を小説にして届けることが僕の持ち味になると思います」

身近な同級生の存在からも創作意欲をかき立てられている。「スポーツをするために寮生活を送ったり、遠方から新幹線に乗って毎日通学したりする友人たちがいます。部活に一生懸命のめり込む彼らの姿にも、すごく刺激を受けます」

クラスメートの存在が執筆の原動力に

自身は、小説に専念するため、中学から励んでいたバレーボール部を高1の終わりに退部したが、バレーに対する思い入れは強い。「(趣味程度に)実は今でも週1くらい、バレーをやっているんです。いつかバレーを題材にした青春小説を書きたいです」

つぼた・ゆうや 2002年、東京都生まれ。中学3年生の時に執筆した青春ミステリー小説「探偵はぼっちじゃない」で、第21回ボイルドエッグズ新人賞を受賞。同新人賞は、過去には映画化された万城目学著「鴨川ホルモー」などがある。

探偵はぼっちじゃない(KADOKAWA、税抜1600円)

中学3年生の緑川はある日、不登校の同級生から小説執筆を頼まれる。一方、新米中学教師の原口は、周囲から認められようと躍起になるのだが……。「作品の中に『夢にしがみついている姿って、一番人間らしいな』というせりふがあります。自分で書いた言葉ではあるのですが、心にすっと染み込んでくる、好きなせりふです」(坪田君)

 

中学3年生の緑川はある日、不登校の同級生から小説執筆を頼まれる。一方、新米中学教師の原口は、周囲から認められようと躍起になるのだが……。「作品の中に『夢にしがみついている姿って、一番人間らしいな』というせりふがあります。自分で書いた言葉ではあるのですが、心にすっと染み込んでくる、好きなせりふです」(坪田君)

Q&A 好きな言葉は「若いうちは修行の期間」

Q.小説家を目指したきっかけは何ですか?

A.小2の時に読んだ児童小説「踊る夜光怪人」(はやみねかおる著)がきっかけです。先の読めない展開に引き込まれました。物語の終盤、すべての謎が解明した時は、本当に驚いたし、読後の爽快感もあった。僕もこんな物語を書いてみたいと思ったんです。

 

Q.小学校時代に書いた小説はどんなものですか?

A.長い物語はまだ書けなかったので、短編小説を書いていました。星新一さんのショートショートの影響を受けた作風でした。

 

Q.「探偵はぼっちじゃない」の創作秘話を教えてください。

A.夏休みの課題として学校に提出した時のタイトルは「星と緑のミステリー」だったんです。作中に登場する2人の中学生、緑川君と星野君からこのタイトルにしました。「探偵はぼっちじゃない」には、緑川君の書いた小説「作中作(小説内小説)」があります。作中作は「星と緑のミステリー」になかったのですが、中学の国語の先生に「作中作が書かれていたらもっと良かった」と講評を受けて、書き加えました。

 

Q.「探偵はぼっちじゃない」に、有栖川有栖著「46番目の密室」やハリイ・ケメルマン著「九マイルは遠すぎる」といった実在の小説家の名前や、既刊のミステリー小説を登場させた意図は?

A.僕が読んで本当に面白かったミステリー小説で、僕の本を読んだ読者の方にも興味を持ってもらえたらと作品の中に入れました。「九マイルは遠すぎる」は、米澤穂信さんが自著のあとがきにこの作品をオマージュしたと書いていて、気になり読んだ一冊なんです。

 

Q.小説家になる夢をかなえた坪田君のように、夢を実現させるためにはどうすればよい?

A.高校生のうちに、ひたむきに打ち込める自分の好きなことを見つける。好きなことを見つけられただけで幸せだし、素晴らしいこと。好きなことが直接的にじゃなくても何らかのカタチで自分の将来につながっていくと思っています。

 

Q. 最近読んで面白かった本は?

A.三浦しをんさんのエッセイ「悶絶スパイラル」です。小説家の方の日常生活に触れると、(同じ小説家の)自分も頑張らなきゃという思いにさせてくれます。

 

Q.好きな教科は?

A.国語や世界史、化学です。

 

Q.好きな食べ物は?

A.ラーメン。学校の行き帰りに使う沿線には池袋駅があり、そこでおいしいラーメン屋を探しています。通う学校の最寄り駅も、多くのラーメン屋でにぎわう場所なので、あちこち制覇しました(笑)。

 

Q.好きなミュージシャンは?

A.サザンオールスターズ。親がサザンのファンでよく車で流れていて、自分の中に深く根ざしている音楽です。特に「君こそスターだ」という曲が好きです。

 

Q.感銘を受けた言葉は?

A.ドラマ「半沢直樹」などの演出家で、うちの高校のOBでもある福澤克雄さんが、学校で講演をしたんです。その際に福澤さんが話した「若いうちは修行の期間」という言葉が響きました。若いころの福澤さん自身の経験を踏まえて語ってくれて、焦らず、好きなことにひたむきに打ち込む大切さを教えてくれました。