今宮歌舞伎は、ダンスのキレやパワフルさはもちろん、顔の表情にもこだわる(白井撮影)

今宮(大阪)ダンス部が、3月に米国であった2つの国際大会で優勝した。披露したのは、歌舞伎をモチーフにした創作ダンス。大がかりな舞台装置で雅(みやび)な世界観を出しながら、約4分半のパワフルなダンスで観衆を魅了した。
(白井邦彦)

 
「古典芸能」を元気に踊る
 
 屏風(びょうぶ)のような舞台装置の脇から、羽織袴(はかま)のダンサーたちが舞台に現れたと思えば、間髪入れずにハイテンポなダンスが開始。フィナーレには化粧を施した大男が登場し、歌舞伎特有の「にらみ」を効かせる。
 
 「今宮歌舞伎」は、和洋折衷の独特の世界観が特徴だ。3月に新3年生を中心に約40人が渡米し、「ミスダンスドリルチームインターナショナルUSA」と「アメリカンダンスドリルインターナショナル2015」の2大会に出場。ダンスの完成度に加え、手作りの衣装や舞台装置も高い評価を受け、優勝した。
 
 過去、孫悟空や大阪名物くいだおれ太郎などを題材にユニークな作品を作り上げてきた。顧問の春名秀子先生は、歌舞伎をテーマにした理由をこう話す。「米国ではカウボーイなど伝統的な題材を扱うチームもある。日本でそれにあたるものを考えた時、歌舞伎に思い当たった」。古典芸能の雅な世界観を崩さずに、今宮らしい「元気とパワーを発信するダンス」を作り上げるのに苦心したという。
 
ピンチを全員で乗り越えた
 
 昨年8月の全国高校ダンスドリル選手権でも、舞台装置を使って演技するショードリル部門で1位に輝いた。だが、実は2カ月前の大阪大会後に大幅な変更があったという。
 
 当時のキャプテン渡辺夕貴(3年)は「出場予定だった部門がなくなり、新しい部門では演技時間が約2倍に。一から構成を見直す必要に迫られた」と明かす。体力面での強化も求められた。森田望友(3年)は「走り込みや筋トレもしたが、時間がなかったので、学校ではとにかく体力の限界まで踊り続けました」と言う。
 
 衣装や背景といった道具も変更に。道具係の大谷晟(3年)は「3つの背景を瞬時に変える約10メートルのオブジェ(3面パネル仕様)を作ることになった。全国大会までの2カ月間ずっと作っていた(笑)」と振り返る。作業は連日、夜遅くまで続いた。
 
 そんな陰の努力に応えようと、最後に登場する大男役の森田かりん(3年)も毎日「にらみ」の練習を繰り返した。「見てくださる方の厄を落とす意味を持つにらみは、失敗できない大事なもの。家でずっと鏡とにらめっこをしていました(笑)」。苦労の末に完成した今宮歌舞伎は、遠く米国の地でスタンディングオベーションの称賛を受けた。「あの感動を後輩にも味わってほしい」と、渡辺は引退した今も、後輩の指導を続けている。
 

 TEAM DATA  1998年創部。部員111人(3年34人、2年36人、1年41人。女子105人、男子6人)。練習は週6日、そのうち2日は大道具作りが中心。世界大会で優勝5回。今年の新チームは部初の「ミリタリー」といわれるジャンルに挑戦中。