代替わりを済ませ、心機一転。声楽アンサンブルコンテストに向けて練習に励む部員たち

郡山高校(福島)合唱部は、10月の第85回NHK全国学校音楽コンクールで金賞と最高位の内閣総理大臣賞、第71回全日本合唱コンクール全国大会(高校の部Bグループ)で金賞と最高位の文部科学大臣賞を受賞した。自分たちの音楽に真摯(しんし)に全力で向き合うことに集中した結果、2つの日本一を手にした。 (文・写真 青木美帆)

基礎の徹底と細かいブラッシュアップで美しいハーモニーが築かれる

評価意識せず「楽しむ」

高校合唱界の二大コンクールで最高位に立った。当事者たちは、さぞ賞への強い気持ちを持って練習に励んできたのだろうと予想していたが、気持ちよく裏切られた。「全国で金賞を取るという目標は特に立てていません」と部長の佐藤竜聖君(3年)は話し、他の3年生たちもうなずく。

部長の佐藤竜聖君(右)と副部長の寺内愛香さん(3年)

その代わり、彼らは別の目標を立てた。県大会に向けて練習中だった8月末、音楽の表現に悩んでいた部員たちに顧問の佐藤朋子先生が「もっとコンサートのように楽しんで歌ったら?」と声を掛けた。「先生の言葉を受けて突き抜けられた」と佐藤君。八代歩夢君(3年)も「人から評価されることを意識せず『自分たちが曲を楽しみ、お客さまを楽しませるために歌おう』というモットーを立てられたのは、大きなことだった」と振り返る。

下級生も意見出し

もう一つの目標として掲げたのは、垣根のないコミュニケーションだ。昨年のNHKコンクール東北大会。全国行きを絶たれて涙に暮れた帰りの車中で「学生指揮者」を務める八代君と井野瞳子さん(3年)は「下級生が意見を言えるような環境をつくろう」と誓い、各パートリーダーに伝えた。アルトのパートリーダーを務めた女子生徒(3年)は「曲を聴いて課題を見つける力は、学年や歌の技術とは関係ない」という持論から後輩からも意見を求め、誰でも気軽に提言できる環境づくりを心掛けたという。

真剣なまなざしで歌と向き合う

先生ともガチンコ議論

垣根のなさは顧問と生徒にも共通だ。全体の通し練習が終わると、パートリーダーたちの意見を吸い上げた学生指揮者2人が、曲の解釈や表現について佐藤先生と議論を交わした。「ガチンコで話した後は、演奏がガラッと変わる。面白かったです」と佐藤先生はうれしそうに話した。

発声練習する生徒たち

今年は、試験や定期演奏会の日程もあって、コンクールに向けての練習スケジュールは例年に比べてタイトだった。かけられる時間が少ないという危機感、そして何より音楽を楽しもうという思いの表れから、部員たちは高い集中力を持って日々の練習に励み、朝から夕方までほぼ歌い通しとなる土日も休憩中や帰り道に歌を口ずさんだ。

「歌うことが好き」。それが何よりの原動力だった。「全速力で走って、走り切って1年を終えた。そんな実感です」と佐藤君は笑った。

偉業を達成した3年生の部員たち
【部活データ】部員52人(3年生13人、2年生22人、1年生17人)。NHKコンクール金賞は3年ぶり。新部長の佐藤向日葵さん(2年)は「キラキラした思いがお客さまに伝わる演奏がしたい」と抱負を話す。