ノーベル賞のパロディーとして米国の科学雑誌が1991年に創設した「イグ・ノーベル賞」。毎年ユニークで笑いにあふれる、理系分野などの研究の業績をたたえるものだ。今年は「生物学賞」に日本人らの研究が選ばれた。日本科学未来館で科学コミュニケーターを務める田代修平さんに、全10分野のうち3分野の研究内容を解説してもらった。(中田宗孝)

 
田代修平さん【たしろ・しゅうへい】
日本科学未来館の科学コミュニケーターとして、先端の科学技術研究の動向調査や展示フロアの解説などを行う。

<生物学賞>雄・雌逆の昆虫を発見

「生物学賞」に選ばれたのは、北海道大学の吉澤和徳准教授、慶應義塾大学の上村佳孝准教授が海外の研究者たちと取り組んだ共同研究です。雌が雄の体内に筒状のペニスを挿入する「雌雄逆転の交尾」を行う虫がいることを明らかにしました。

この虫の名前はトリカヘチャタテムシ。2014年にブラジルの洞窟で発見された体長約3ミリの虫です。雄の上に覆いかぶさった雌が、自らのペニスを使って交尾をし、一度の交尾期間は約2、3日(約40~70時間)と長時間に及ぶことも突き止めました。

一般的にペニスは「体内受精を行う動物の雄の交接器」とされています。ですが、雌のペニスが発見されたことで「世界中の辞書が書き換えられるのでは」と、吉澤准教授は話していました。なぜこのような生態なのかは、今後研究を進めるそうです。

日本人のイグ・ノーベル賞の受賞は、07年から11年連続、通算受賞回数は23回。外科医の天野篤さんも、心臓移植をしたマウスにオペラ「椿姫」を聞かせると生存期間が延びる研究で「医学賞」を受賞しています(13年、共同受賞)。受賞者が相次ぐ背景には、研究分野の幅広さがあります。

トリカヘチャタテムシ(右)とその交尾の様子(上)。赤く色が付いているのが雌のペニス(北海道大学提供)
 

<物理学賞>猫は固体かつ液体?

体長より小さいコップや箱にすっぽりと収まる猫。この行動から「猫は固体かつ液体では?」と、インターネット上で交わされていた議論に着目したフランスの研究者が、物理学的に徹底分析。老いた猫の方が、子猫より液体としての流動性が高いと証明しました。受賞者は日本の「猫カフェ」にも言及するなど、猫好きから研究につなげた様子がうかがえるのも面白い。

<解剖学賞>男性高齢者の耳はなぜ大きいの?

イギリス人医師が、206人の成人男性の協力を得て耳の長さを測定したところ、1歳年をとるごとに平均0.22ミリ伸びていたことが判明しました。耳が成長して伸びるのではなく引力で伸びると結論。ただし、1人の人物の耳の大きさを長期間かけて研究したものでなく、どうして男性高齢者の耳が大きくなるのかまでは言及されていません。