マイファーム専務取締役の浪越隆雅さん

かつて農地だったが、今は手つかずの荒れ地となった「耕作放棄地」は、日本全国に約40万ヘクタール(東京都の約2倍の面積)も存在する。これらの土地の再生に取り組んでいるのが、株式会社マイファームだ。専務取締役の浪越隆雅さんは「人と農をつなぐ」仕事を通じて、農業の新たなモデルを開拓している。
(文・写真 安永美穂)

全国100カ所に体験農園

マイファームが目指すのは、「地産地消」ならぬ「自産自消」ができる社会。自分が食べるものを自分で作ることができるように、人々が気軽に「農」に触れられる場を提供している。

 耕作放棄地を一般の人向けの体験農園に造り替える「マイファーム農園事業」を、全国100カ所以上で展開。体験農園を利用して農業を志すようになった人が学ぶ「アグリイノベーション大学校」も開校し、直営の農場では同校の卒業生も活躍している。直営農場で採れた野菜を売る直販店も持ち、小規模の農家向けに新しい販路も開拓する。そして、それらの野菜を食べた人々が「農」に興味を持ち、休日に野菜作りを始める──。

 この「自産自消の循環の輪」を広げることで、耕作放棄地を農地として再生していこう、というのがマイファームの考え方だ。

経験ゼロから稼げる仕組みを

浪越さんは主に、体験農園の運営を手掛けたり、農業を始めたい人や始めたばかりの人に生産や経営のノウハウを伝えたりする仕事に取り組んでいる。

 同社に入社する前、「イチゴ農家になりたい」と思って自治体に相談に行ったものの、「必要な設備をそろえるだけで1000万円はかかるから難しい」と言われて断念したことがある。「実家が農家ではない人が就農しようとすると、壁に直面することを身をもって体験しました。それならば、世の中の農業全体がうまくいくモデルを作りたいと思い、この会社に入りました」

 浪越さんは、日本各地で「農」に関わる人々をサポートする中で、農業が「稼げる仕事」として成り立つようにすることの重要性をあらためて感じたという。

 例えば、以前は貧しい農村だった地域でも、価格が高い時に野菜を出荷する仕組みを整えたことで、売り上げを大きく伸ばしたケースもある。「かつての自分のようにゼロから就農を目指す人でも、知恵を絞り、きちんとした仕組みを作れば成功できる」と語る。
 

1200万人を農業でつなぐ

よりよい「農」の仕組みを作るには、さまざまな立場の人を「つなぐ」仕事が重要になる。「耕作放棄地を抱えて困っている人と、家庭菜園を始めたくても畑がない人をつなぐ。生産者と消費者をつなぐ。全ての人を笑顔にできて、農業の発展にも貢献できる点にやりがいを感じます」

 同社は、2020年には国内で「自産自消」に携わる人を1200万人にすることを目指す。農に親しみ、自ら畑を耕す人が増えれば、農地として再生される耕作放棄地も増えていく。

 「農業は『高齢の人の仕事』と思われがちですが、実際には若い人が高校の文化祭のようなノリで楽しく取り組んでいるケースも多い。自社農園などを持つ企業に勤めれば、会社員として給与をもらいながら農業を仕事にすることもできます。農業に携わる人が増えれば、40万ヘクタールの耕作放棄地をゼロにすることも夢ではない」と浪越さん。

 「高校生の皆さんが将来を考えるとき、『会社に入る』のと同様に『農業をやる』ことが普通の選択肢になればうれしいですね」

 

 

浪越さんの歩み

 高校時代  香川・丸亀高校で学ぶ。バンド活動をやりつつ、ミカンの収穫期には近所の農家を手伝う。

 大学時代  東京理科大学理学部在学中に1年間休学し、ガイドブックを持たずにアジア・ヨーロッパ・北米を旅する。農村に滞在した際はバナナの収穫などを手伝った。

 大学卒業後  人材サービスの会社に新卒で入社後、農業に魅力を感じて就農を志すが挫折し、2011年、マイファームに入社。農園の草刈りから始め現在に至る。



 企業データ 

株式会社マイファーム

 2007年に創業。従業員は正社員19人(アルバイト74人)。京都に本社を構え、東京、名古屋にもオフィスがある。農学やビジネスなどを学べる「アグリイノベーション大学」では、これまでに約500人の農業のプロを育成。農産物の販路開拓をサポートする「流通イノベーション事業」にも力を入れ、生産者と消費者を直接つなぐ小売店や農園レストランも手掛けることで、「自産自消の循環の輪をつくる」という新たな農業のモデルを発信している。