今年から大阪府立藤井寺工科高校で教壇に立つ山下明先生は、大学在学中、工業高校向けの教科書(電気基礎)を一人で執筆し、文部科学省検定済教科書として発行した。「工業高校出身者だからこそ書けた」と山下先生は言う。 (文・写真 木和田志乃)

子どもの頃から工作など物を作ったりすることが好きでした。卒業したら就職するつもりでいたので、就職率の高い大阪府立西野田工科高等学校に進学しました。高校では無線・電気技術研究部に入っていました。「生徒の自主性を尊重して、あまり口を出さないけれども見守る」というスタンスで指導してくださった顧問の先生に憧れ、2年生のときに「私も学校の先生になろう」と決心し、大学進学を志望するようになりました。

その後、推薦入学で大阪市立大学工学部に進学しました。高校では就職の採用試験のために面接を練習する時間が設けられていたので、それがそのまま入試の面接に役立ちました。小論文は国語の先生に見てもらいましたし、各教科の先生に問題集選びから協力してもらい、わからないところは積極的に質問するなどして勉強しました。高校の先生方には感謝しています。

大学入学後、さまざまな科目を勉強していく中で、電磁気学の教え方が高校と大学では違うことに気付きました。そこで、大学での教え方を基にした、高校の電気基礎の教科書を自分で作ろうと思いました。

私は、文字や図表を配置して本のページをレイアウトする組版ソフトが使えたので、執筆から組版、検定手続き、修正、見本発送など、すべて一人でこなしました。2年生の4月から執筆を始め、検定申請し、検定意見に沿って修正し、検定を通すまでに2年近くかかりましたが、電気を学ぶ上で最低限の知識が得られる内容になっていると思います。

練習問題を豊富に載せていながら、それまでの教科書の4分の1程度のページ数に抑える工夫もしました。この教科書は北海道の高校で採択されています。工業高校と大学で得た知識や技術を生かすことができたからこそ、この教科書を書くことができたのだと思います。工業高校出身者は、大学の工学部で専門科目を学ぶ基礎は高校時代にできていて当然です。そのため、専門科目が面白いのはもちろん、それ以外の多くの講義で視野を広めることができました。語学留学や英語での観光ガイドボランティアなど、専門分野以外での活動範囲や趣味も広がりました。専門以外に大学で視野を広げることができたことが今になってとても有意義だったと思っています。

私は、この春、工業高校の教員になりました。工業高校に在学しているみなさんには「学校の授業を大切にしつつ自分の好きなことを見つけてほしい」と願っています。大学にはいろんな人がいて、いろんな講義があります。進学するのであれば専門を深めるのは当然ですが、いろんなところに視野を広げてほしいと思います。高校で学んだことを自信に思えるように、悔いの残らないような学生生活にしてほしいと思います。