データネット実行委員会(ベネッセコーポレーション・駿台予備学校共催)による2025年度大学入学共通テストの「地理総合,地理探究」の問題分析は次の通り。
― 扱われた知識は基本的なものが多かったが、初見の資料からひもとく必要があった。難易はやや難化―
第1問と第2問が「地理総合/歴史総合/公共」の『地理総合』との共通問題。複数の資料や初見の資料が用いら れた設問が多く、設問の主題をとらえる力や、具体や理論をあてはめて論理的に考察する力が求められた。基礎的 な知識に加え、自然現象のメカニズムや産業・貿易の背景を踏まえた考察を要求する設問もみられた。昨年の地理 B よりやや難化。
大問数・解答数
大問数は、昨年の地理 B の5から6に増加した。解答数 30 個は、昨年の地理 B から変 更なし。第1問と第2問が『地理総合』との共通問題であった。
出題形式
すべての設問において地図、統計表、写真など、多様な資料が扱われた。
出題分野
第1問・第2問は地理総合からの出題であった。地理探究では、自然環境、産業、地誌など各分野から出題された。
問題量
昨年の地理B並。
難易
昨年の地理Bよりやや難化。
大問別分析
第1問「食料の生産や消費」 (13点・易)
『地理総合』の第1問と共通問題。世界の各地域の食料の生産や消費について、自然環境などと関連させて出題された。基礎的な知識をもとに資料を読み解く問題が中心であった。問1は図に示された食や健康に関する指標を考える問題。指標が高位となっている日本や中東、北アフリカの共通点を考えることがポイント。先進国と発展途上国それぞれの食料をめぐる現状や課題を理解できていれば解答できる。問4は食料問題について、各地域の農業や食品流通のあり方についての知識が求められる問題。
第2問「愛知県東三河地域の地域調査」 (12点・やや易)
『地理総合』の第2問と共通問題。高校生が豊橋市の中心部の市街地拡大について立てた仮説をもとに展開された。問2は製造業の立地特性に関する問題。工業立地の基本的な考え方を踏まえ、資料を丁寧に読めば解答できる。問4は人の移動と地域性に関する問題で、各地点の地形的な特徴を踏まえた、総合的な考察力が求められた。表1だけではなく大問中の他の設問の資料も活用して、隣県との結びつきの強さを把握できるかがポイント。
第3問「世界の自然環境と自然災害」 (20点・やや難)
初見の資料が散見され、既習の知識をどのように活かして考察できるかという確かな理解が求められた。なじみのない資料が複数扱われたため、資料をひもとくことに難しさを感じた受験生も多かったであろう。問1は正規化植生指数の分布を判別する問題。どのように考えていくか戸惑った受験生も多かったと思われるが、正規化植生指数は「植物による光合成の活発度を示す」ということから、植生の多少を想起することができたかがポイントであった。問5は、いくつかの緯度帯における上昇気温別の面積割合を判別する問題。気温の上昇幅と北半球と南半球の海陸割合の差異を結びつけて考えることが要求された。「海氷面積の増減が気温上昇に影響を与える」ことから、北極海での海氷の減少と関連させることが解答の一助となった。
第4問「エネルギーと産業」 (21点・標準)
判断のカギとなるポイントが明確な問題が多く、資料を丁寧に読み取ることができれば、比較的取り組みやすい大問であった。問2はウェーバーの工業立地論から醤油製造、石油製造、ワイン製造の立地特性を考える問題で、原料指数の視点から考える必要がある。資料で示された水が普遍原料であることに着目して考察したい。問5は新しい形態のサプライチェーンが題材となった。ファブレス企業に関する知識と、国際分業に関する視点を用いた考察を要した。問6は3か国における最終財と中間財にわけて指数化された貿易収支に関する問題。アメリカ合衆国と中国の製造業や貿易の特徴を踏まえて考察することが求められた。
第5問「産業構造の変化に伴う都市の変容についての探究」 (17点・標準)
単に統計上の数値のみでなく、取り上げられた地域における時代ごとの産業構造をイメージし、近年の変容を多角的にとらえ、考察する力が求められた。問1は三大都市圏と地方圏における工業用地の面積の推移とその背景について考える問題。工業用地の面積というなじみの薄い事項に、戸惑った受験生もいたであろう。問2は日本の首都圏に位置する二つの市区に関して、人口と土地利用のそれぞれの変化から市区を判別する問題。都市の変容についての既習の知識と資料から読み取った特徴を結びつけて考察することが要求された。
第6問「インド洋周辺の地誌」 (17点・標準)
インド洋周辺について、自然環境、国家間の輸出額と移民数、歴史的なつながりを背景とした宗教や社会・経済などの観点から出題された。なじみのない国が多いことに加え、広い範囲が題材となったため、戸惑った受験生も多かったであろう。取り組みやすい問題と判断に悩む問題との差異が大きい大問であった。問1はサイクロンの上陸頻度を判断する問題。熱帯低気圧が赤道上では発生しづらいということを想起できれば判断できる。問3は国家間の結びつきとして輸出額と移民数が扱われ、アラブ首長国連邦、インドネシア、シンガポールを判別することが求められた。受験生にとっては国家間の関係性が想起しづらく、図の特徴から各国を判別することに時間を要した。各国の総人口や産業構造の特徴に関する知識が習得できていないと、判断が難しかったであろう。
【参考】過去5年の「地理B」の平均点(大学入試センター公表値)
- 2024年度 65.74点
- 2023年度 60.46点
- 2022年度 58.99点
- 2021年度 60.06点
- 2020年度 66.35点