真剣なまなざしでDNA型鑑定を行う(警視庁提供、採用サイトより)

事件現場に残された数々の資料を科学的に分析して、捜査の裏付けや事件解決の糸口を見いだすのが科学捜査研究所の仕事だ。通称「科捜研」とも呼ばれる研究機関では、どのような業務を行っているのだろうか。警視庁の科学捜査研究所に所属する研究員に仕事内容を聞いた。(中田宗孝)

スピードより「確実性」

──業務内容を教えてください。

私は警察署などからの嘱託を受けて「DNA型鑑定」を行っています。事件現場に残された多種多様な資料からDNA型を検出したり、被疑者のDNA型と一致するかどうかを見極めたりします。鑑定をするには専門の資格が必要になります。私はまだ資格がないので、鑑定補助者として先輩方から教わりながら鑑定に携わっています。

──心掛けていることは。

一般的に、研究者は研究の結果を誰よりも早く発表するスピード性が重視されますが、私たちに求められるのは「確実性」。DNA型鑑定は、人生を左右する重大な責任が伴います。失敗は許されません。先輩方からの「一番重要なのは正確であること」というアドバイスを心掛け、「事件の被害者や残された遺族のために」という気持ちで仕事に向き合います。

日々、科学論文を読み、見聞を広げることも意識しています。最新の科学技術がどこまで進んでいるかを常にチェックし、鑑定技術の向上に役立つように常に勉強を怠らないようにしています。

──やりがいは。

関わった鑑定が被疑者摘発や犯罪の立証につながり、捜査員から解決の連絡をもらった時にはやりがいを感じます。

実験の思考法が役立つ

──高校・大学時代はどう過ごしましたか。

ウニの卵割、花粉管の伸長、タマネギの根の先端の細胞分裂といった実験や研究を行う、生物の授業が好きな高校生でした。その中でも興味のあった動物の生理・生態分野をより深く勉強できる農学部に進学しました。

獣医学を専攻し、性転換する遺伝子改変マウスを使いながら、哺乳類の雄・雌の決定がどのように行われているのかを探ることをテーマに研究に取り組んでいました。就職活動の際、学んだことを早く社会に役立てたいと思い、科捜研を希望しました。

──科捜研を目指す高校生にアドバイスをお願いします。

科捜研の仕事は、学生時代に学んだ勉強や実験とはまったく異なります。研究員になって、初めて取り扱う機器もたくさんあります。ですが、高校・大学時代の科学実験で身に付けた思考法は役立っています。まず、どんな実験をするか計画を立てる。実際に実験を行う。その実験結果から考察し、次に取り組むべき実験を検討する。このような科学実験の基本的なサイクルや思考法は、現在の仕事と通じるものがあります。

料理が好きで、昼食は手作り弁当を持参する(野村麻里子撮影)

どんな鑑定技術があるの?

科学捜査研究所では、最新の機材を駆使しながら科学捜査を行っている。その一部を紹介する。(写真は警視庁提供)

繊維鑑定

対象者の指に付着している第三者の衣類などの繊維片を鑑定。類似の繊維が見つかれば犯行の裏付けとなる

ポリグラフ検査

対象者の血圧や脈拍などを同時測定する装置を使い、生理変化から対象者しか知り得ない情報を知っているか明らかにする

不明文字鑑定

年月の経過により肉眼で読めない文字、故意に塗りつぶされて見えなくなった文字を精密機器で検出する

科学捜査研究所に入るには

DNA型鑑定を行う「法医」、火事の出火原因や銃器鑑定を行う「物理」、薬物鑑定を行う「化学」、筆跡鑑定を行う「文書鑑定」など、それぞれの専門分野に特化した研究員が所属する。各分野の研究員の出身学部・学科は、法医は理学部化学科や薬学部薬学科、物理は理工学部物理科や工学部機械システム工学科、化学は理学部化学科や工学部工業化学科、文書鑑定は理学部地理学科や人文学部人間情報学科など。理系学部の出身者が多い。