田村優太さん(兵庫・兵庫高校2年)は、授業中のノート取りや自宅での勉強といった、普段の高校生活の中で万年筆を愛用している。大人の愛用品のイメージもある万年筆を手にした動機やその魅力を聞いた。(文・中田宗孝、写真・学校提供)

書き心地にほれ込んで

万年筆にめぐりあったのは中学2年生のころ。当時、普段づかいしていたボールペンの書き心地が自身の感覚と合わなくなったという。「ボールペンのペン先が滑りすぎると感じるようになったんです。ペン先が『ダマ』になることも多く、書き出しが良くなくて使いにくいなと」

学校で万年筆を使う田村さん。授業でのノート取りは、必ず万年筆というわけではなく、「すぐに消し書きのできる鉛筆やシャープペンも多用します」

元々、筆記用具のレビュー動画をよく視聴している文房具好き。試しに万年筆を購入して使ってみると、その書き味に心が躍った。「ペン先の滑りが自分にとてもフィットしたんです。ペンを寝かせてもスムーズに書けるし、書き出しのカスレもほとんどない。これはボールペンの代わりになると思い、それからは万年筆を重宝するようになりました」

授業でも愛用

中学3年生ごろから「ペン先調整」を自らの手で始めたのを機に、万年筆の奥深い世界に誘われた。ペン先調整とは、ヤスリなどで万年筆のペン先を研磨して、主に書き味や字幅を変化させる手法のこと。「ペン先の調整をすると、自分の書き方にあった好みの1本にカスタマイズできるんです」

学習用に、遊び用に、どんな万年筆に仕立てあげたいのかを思い描きながら、あらかじめ使いつぶした「2000番のヤスリ」でペン先を繊細に削っていく

高校生の今も授業で万年筆を使い続けている。「シャープペンやボールペンと比べると、やはり万年筆は利便性の面で劣ると思う。ですが、使い勝手の良さを越えた楽しさがある」

「暗記」がはかどる勉強面での思わぬ効果も実感。「覚える用語などを万年筆にオレンジのインクをつけて書き、暗記用の赤シートで隠しています。ボールペンだと僕の場合、赤シートで隠してもノートに筆跡がうっすら残ってしまうんです」

48本所持、7種のインクを使い分け

現在48本の万年筆を所持しており、よく使うのは「PILOT(パイロット)の『カスタム』シリーズ」だ。「手にすると少し後ろに重心のかかる感じが僕的には書きやすい。力を入れずに書けるので、長時間ペンを走らせていても疲れません」

万年筆初心者にもおすすめだと言う。「このシリーズは字幅の展開が多く、軸(手で持つ辺り)の太さは万年筆ブランドの中で平均的。バランスの取れた実用性の高い1本です」

愛用の万年筆の一部。(写真左から)「PILOT(パイロット)カスタムヘリテイジ912」、「PLATINUM(プラチナ)#3776センチュリー」、「PELIKAN(ペリカン)M1005シュトレーゼマン」、「TWSBI(ツイスビー)ECO」

万年筆選びの基準は重さと太さ。「重量は30g以上。僕の握り方だと、軽いと力が入りすぎるので。太さは13㎜欲しい。この2つはこだわってます」

万年筆用のインクには、さまざまな色と種類がある。定番カラーの黒色ひとつとっても、濃淡の異なるインクが多種出そろう。田村さんは、7種のインクを用途によって使い分けており、「一般的なマーカーでは難しい、細いラインを引くときにも万年筆」と話す。

コンセプトカフェで魅力発信

3月、田村さんは同級生グループと授業の一環で万年筆をコンセプトにした屋台カフェ「NAGATA pen café」を駅前に出店。この取り組みは、兵庫高校の最寄り駅である神戸電鉄「長田駅」の魅力向上を目的に行われた。同校の生徒たちは、地域の洋菓子店や文房具店などの協力を得ながら、企画立案から携わった。万年筆をテーマにしようとアイデアを出したのは、田村さんだ。「カフェ運営がもっと楽しくなると思ったので、メンバーに『どうかな?』と」。

イベント当日は「万年筆の試し書きコーナー」を担当し、訪れたおよそ40人に万年筆の魅力を伝えた。「まずは実際に手にとって書いてもらう。そして、色々なタイプの万年筆の書き心地を比べてもらいました」

「NAGATA pen café」では、500円程度で購入できる「preppy(プレピー)」など、用意した万年筆を来場者に紹介した

3回目となる今回のイベントでは、地域の文房具店の協力を得て、約20種の万年筆を借りられたという。参加者たちからは、「書きづらいと思っていた印象が変わった」「想像してたガリガリとした書き味ではなかった」といった好感触の声が上がり、田村さんは「万年筆に対する先入観をなくし、多くの方に興味を持ってもらえたと思う」と、手ごたえを語った。

独学でペン先研ぐ技術磨く

理想の1本を追い求めて日々、独学で万年筆のペン先調整の技術を磨いている。そんな田村さんは「誰かの万年筆のペン先を、その人が満足いくよう研げるようになりたい」という思いを抱いている。学校の友人の万年筆を軽く調整したことはあるそうだが、依頼者の細かい要望に合わせたペン先調整を施した経験はまだない。

これまで何度も調整に失敗し、自らの万年筆を壊してきたと明かす。「今年に入ってからも2本壊しました(苦笑)」。それでも田村さんは、過去の失敗をバネにペン先を丁寧に削り続ける。試行錯誤を繰り返しながら、来るべきそのときに向けて。

訂正:路線名について、「神戸鉄道」から「神戸電鉄」に訂正しました。(2023.6.6 18:00)