「なんで私のお母さんなのに、他の子のために私が我慢しなければいけないの?」
工藤美有紀さん(長野・文化学園長野高校3年)は、小学生の頃に感じていたさみしい気持ちを振り返る。工藤さんの父は教員。母は、保育士として第一線で働き、育児や家庭より仕事を優先してきた。
居てほしい時に母がいない…さみしさを知ってほしい
8月に行われた全国高校総合文化祭の弁論部門に出場し、働く母親のもとで我慢を強いられる子どもの声を聴いてほしいと訴えた。
参観日など、学校に親が来ることはなかった。週末も土曜保育や部活指導が当たり前。「親に対し反抗する日々が続いていました」。その後、母が仕事を辞めようか悩んでいたと知った。「母親と仕事の両立は甘くない、現実は厳しい」
現在、働き方改革が進み、母親の働き方に合った保育ができる支援事業を国が打ち出すなど、制度は少しずつ母親が働きやすいように変わろうとしている。だが、「子どもたちの声は届いていない」と工藤さんは考える。「母親の仕事内容を見直して社会進出を促進しようとするなら、子どもに聞くべき。私は子どもの考える働く母親の理想像を大切にしたい」
母親が働けば「どこかで誰かが犠牲になる」
工藤さん自身、将来は第一線で仕事をやりたいと思っている。「『母親』をしている人が働くためには、保育園に子どもを預けなければならない。でも保育園の先生の子どもは、家に帰っても一人になってしまう」。そんなジレンマに対して「制度が整っても、きっと変わらない。どこかで誰かが犠牲になってしまう。子どもを守ってくれる人にも子どもがいて、その子どもが家で苦しんでいる。その子の悲しさや悔しさを知ってほしい」
子どもは些細な声掛けで救われる
父親はどう家族をサポートするとよいか、工藤さんに意見を聞いてみた。教師で部活指導なども行い、多忙な日々を送る父の背中を見てきたという。「でも母が皿洗いしている間に話し相手になってくれたのは父でした。父だからこれをしないといけない、反対に母だからこれをしないといけないと分けて考えるのは違うと思うんです」
では、働く母親が子どもにできることは何なのだろう。工藤さんは日常の些細な会話の大切さを強調する。「毎日おいしいお弁当を作ってほしいとか、そういうことを望んでいるのではなくて。5分でも10分でもいいんです。親と一緒にご飯を食べてお話しする、『空がきれいだった』って日常の些細なことを話す、そういう時間がどれだけ大切か…」
世の中の母親に「働いているから子どもを苦しめている」とは考えてほしくないと思っている。「実際に母には『宿題何やっているの?』など、声をかけてくれてもらっていたから、嫌な思い出以上に楽しい思い出もたくさんあるんです!」(文・写真 野村麻里子)