Q 今年のノーベル化学賞を吉野彰さんが受賞することが決まったね。

A スウェーデン王立科学アカデミーが10月9日、大手化学メーカー「旭化成」の名誉フェローである吉野さんと、米国の大学教授2人に2019年のノーベル化学賞を授与すると発表した。共同受賞する3人は、リチウムイオン電池の開発で主導的な役割を果たしたことが評価された。

Q リチウムイオン電池とは?

A プラスの電極に「リチウム」を、マイナスの電極に特殊な炭素を使った充電式電池だ。軽くて何度も充電できるのが特徴だ。

吉野彰さん(2019年10月10日、日本化学会で開かれた記者会見)

Q 受賞の対象になった研究とは?

A 共同受賞者のマイケル・スタンリー・ウィッティンガムさんがリチウムを電極に使う電池を始めて作ったが、発火などの危険があった。もう一人の共同受賞者のジョン・グッドイナフさんらは「コバルト酸リチウム」をプラスの電極に使うと、電圧が高く寿命が長い電池をつくれることを発見したが危険性は解決できていなかった。吉野さんはこの研究成果に注目し、プラスの電極にコバルト酸リチウムを、マイナスの電極に特殊な炭素を使うことで、現在まで使われる軽くて安全なリチウムイオン電池の原型の開発に成功した。1985年のことだ。旭化成はリチウムイオン電池に使われる材料で高いシェアを誇るという。

Q リチウムイオン電池はどう活用されているの?

A 小型で多くの電気をためられるため、携帯電話やスマートフォン、パソコンなどに欠かせない存在だ。より多くの電気を安全にためられる電池を電気自動車や太陽光発電に活用することで、地球温暖化対策にも貢献すると期待されている。

Q 吉野さんの経歴は? 高校時代から化学が得意だったの?

A 1948年に大阪府で生まれた。小学生時代に科学者ファラデーの著書「ロウソクの科学」を読んで感動し、化学の面白さを知ったという。大阪府立北野高校時代も化学が得意科目で、卒業後に京都大学工学部に入学。石油化学を専攻した。学部4年間、大学院修士課程の2年間を修了後、1972年に旭化成工業(当時の社名)に入社し、世界を相手に新しい技術を生み出す研究に打ち込んだ。

Q 小さいころから化学一筋なんだね。

A 大学の教養課程(1・2年生)時代は考古学の研究会に入り、発掘現場に通い詰めたそうだ。出土した土器という証拠を基に仮説を立てて検証する作業は、研究開発に似ていて、その後に役立ったと、振り返っているよ。

Q ノーベル賞は日本人が多く受賞しているね。

A 2018年に京都大学の本庶佑特別教授が医学生理学賞を受賞したのに続いた。日本からの受賞は、米国籍で受賞した研究者2人を含めると27人目だ。化学賞を日本人が受賞するのは2010年以来9年ぶり8人目。企業に所属する研究者が受賞したのは、2002年の田中耕一さん以来だ。

Q 授賞式はいつあるの?

A 12月10日にスウェーデンのストックホルムで行われる。賞金900万スウェーデンクローナ(約1億円)で分ける。吉野さんは2013年度に、エネルギー分野のノーベル賞とよばれる賞を受賞しており、その報奨金を日本化学会に寄付して環境、資源分野を支援する制度をつくった。ノーベル賞の賞金も制度継続に使いたい考えという。