「文章力に自信がない」「どう論じればいいのか分からない」と大学入試の小論文の書き方に苦手意識を持つ高校生は多い。小論文対策に励む際の大事なポイントや上達へのアドバイスを、駿台予備学校で論文科講師を務める松井賢太郎先生に聞いた。(構成・中田宗孝)
Q.学部ごとに小論文の対策は変わるのですか?
A.学部で変わる「原理・原則」を把握しよう
小論文で出題された問題を理解し、的確に論じられるようになるには、志望学部にふさわしい問題意識をもった人物になることだ。小論文を書くことは、各学部の教授と会話のキャッチボールをするようなものだと考えてほしい。各学部には、「原理・原則」と言われる基本的な考え方がある。志望学部の原理・原則を意識して小論文を書く必要がある。
学部によって考え方に違いがある
例えば法学部の小論文では、身体・財産・生き方といった、私のことは私が決める「自己決定(個人の権利)」と、みんなが関わる公共のことはみんなで話し合って決める「民主主義」といった「決め方の問題」が重要だ。
学部の考え方をベースにして問題を解こう
経済学には、人間はインセンティブに反応するという大原則がある。ある行動をすると得られるもの(便益)・失うもの(費用)がある。便益と費用を比較して、便益の方が大きければ実行に移すし、費用の方が大きければ実行しない。経済学は損得勘定をして、やる・やらないと決める人間の利己性を肯定し、それに働きかけて世の中をよくしようとする学問だ。
受験生のみなさんも知識として知っていると思う。だが、法学的・経済学的な発想で物事を深く考えた経験はあまりないのでは。このような各学部の原理・原則の視点を持ちながら小論文で書く内容を考えていくと上達につながる。
文学部の小論文では「異文化理解」の姿勢が大切だ。大昔の人が書いた文学作品や海外文学の研究をする。自分たちとは違う世界に属する異文化の人を理解するつもりで小論文の問題を読み解き、何を聞かれているのかを考えてみる。自分の物差しだけで小論文の意見を書いてしまうと的外れな文章になってしまう。
文学部の教授は、「孤独」とか「失敗」のように一般的にマイナスだと思うこともプラスの価値を持っていると考えている。自分の常識的な発想を一度見つめ直して、狭いものの見方から開放されて自由になることが勉強の意義である。これが文学部的思考だ。
専門知識は不要
全学部に共通して言えるのは、各学部の専門的な知識はあまり求められていない。小論文では、普通の高校生が聞かれて答えられる範囲内の問題が出題される。ただ、繰り返しになるが、聞かれたことの意味を理解する必要はある。
まつい・けんたろう
小論文の過去問題を実際に書いてみる実践重視の授業を実施。何度も書きながら自分なりの小論文の書き方を見つけられるよう導く