新展示にあわせて始まった実験教室(会員限定、事前申し込み)では、iPS細胞を観察したり、さまざまな細胞に分化させたりする実験にチャレンジできる

2012年の山中伸弥教授(京都大学)のノーベル賞受賞以降、iPS細胞などを活用する再生医療への期待が高まっている。一方、再生医療には課題も多い。こうした状況を踏まえ、日本科学未来館(東京)は3月20日、生命のコーナーをリニューアルし、再生医療やiPS細胞を考える展示を始めた。展示に携わった研究者らによる発表会を高校生記者が取材した。
(文・写真 砂崎良)

再生医療の実用化進む

再生医療とは、体のさまざまな部位に分化できる「幹細胞」を用いた医療のこと。iPS細胞は、普通の細胞から作った「人工多能性幹細胞」だ。

未来館の展示「細胞たち研究開発中」を総合監修した浅島誠先生(東京大学名誉教授・発生生物学)によると、再生医療とは「薬を用いても治せない病気や損なわれてしまった機能を、細胞そのものから治す、または機能回復させる医療」のこと。角膜移植や血管再生などで実用化されている。

中でも普及しているのが人工皮膚の移植だ。かつては「全身の80%をやけどした患者は助からない」といわれたが、現在は人工皮膚を移植することで多くの患者が助かっているという。

研究者と一般人の認識に差

山中教授が所長を務める京大iPS細胞研究所も展示を監修した。同研究所の広報を担う和田濱裕之先生は「研究者の関心は『仮説を証明できるか』だが、一般の人にとって重要なのは『自分が治療を受けられるか』だ」と、両者の認識の違いを指摘した。また「『iPS細胞なら何でも治せる』かのような印象を持つ人が多い。幹細胞研究を正しく理解してほしい」と語った。

展示は、短いストーリーを通じiPS細胞をめぐる近未来を当事者の視点で体験できる。

高校生記者インタビュー

生物の学び方は?

高校生記者2人が、浅島先生と和田濱先生に聞いた。
(聞き手・前田黎、林香織)

――生物を学ぶ高校生へのアドバイスをお願いします。

浅島 教科書で勉強するだけでなく、本物に触れることが大切。自然を見たり、実験をしたりして物質の面白さ、科学の面白さに触れること。例えば「なぜ花は咲くのか」「なぜ地震は起きるのか」と率直な疑問を持ち、答えを知り、感動することが重要です。理科だけでなく、いろいろなことを学ぶのも大事です。

和田濱 自分が興味のあることを見つけて、一生懸命やること。科学はどんどん変化していて、この先どんな知識が必要になるかは分かりません。だから今もてはやされていることを学ぶより、自分が好きなものをやった方がいいです。

――再生医療に関心がある高校生は何を勉強すべきですか。

浅島 最新の情報に飛びつくのではなく、まず基礎科学をしっかりやることが大切です。科学の進歩は非常に早いが、基礎ができていれば考えることができ、判断ができます。

――科学の情報を正しく受け取るには。

和田濱 見聞きしたことに飛びつくのではなく、深く考えることが大事です。1つの情報源に頼らず、本などいろいろな媒体を通じて情報を受け取るようにしましょう。