受験生と大学のマッチングを重視する「総合型選抜(AO入試)」。いつから何を準備すればよいのだろうか。誰でも受けられるのだろうか。押さえておきたいポイントについて、早稲田塾の中川敏和さんに聞いた。(安永美穂)

大学と受験生のマッチングを重視

―総合型選抜で評価されるポイントは?

総合型選抜では、「その大学が求める学生像と、受験生の能力や研究したい内容がマッチしているか」「その大学・学部で学びたいという意欲や熱意があるか」「基本的な学力があるか」「大学での専攻分野に関連した“とがっている”興味や知識があるか」などが評価のポイントになります。“とがっている”とは、周りと比較して飛び抜けていたり、強い信念を持っていたりするようなイメージです。

特に重視されるのは、その大学で研究できることと受験生が研究したいこととのマッチングです。同じ「法学部」であっても、法曹の養成に力を入れている大学もあれば、法学的視点を社会で活かすことを目的としている大学もあり、得意分野は大学ごとに異なります。

入学後にミスマッチに気づくことがないように、大学案内やシラバス(授業計画)、アドミッションポリシー(入学者受け入れ方針)を読み込んだ上で、大学・学部を選びましょう。

■アドミッションポリシーの例

  • 慶應義塾大学法学部

  • 慶應義塾の建学の精神を理解し、国際的な視野に立ちつつ、新しい社会を創造し先導する気概を持つ学生を求めている。入学する学生には、法学部の教育目標(カリキュラムポリシー)をよく理解し、そのカリキュラムの下で学習するために必要な学力、能力、そして意欲を有していることが求められる。(慶應義塾大学ウェブサイトより抜粋)
  • 上智大学法学部

  • 大学入学前までに身に付けておくべき学力を有することを前提として、国内外を問わず、現代社会に生起する問題や紛争、地球規模の環境問題などに関心を抱き、それを法学・政治学的な観点に照らしつつ、客観的かつ柔軟に考察し、みずからの意見を主張するとともに、相手の意見に耳を傾けられるような学生を求めています。(上智大学ウェブサイトより抜粋)

​「普通の」高校生でも大丈夫

―“とがっている”才能のない、“普通”の高校生でも受験してよいものなのでしょうか。

本人は“普通”と思っていることが、他者から見ると光り輝く個性であることは多いものです。そのような光り輝くものを将来の研究テーマとつなげて論じることができれば、どんな高校生でも総合型選抜で合格するチャンスはあると言えます。

「自分にはとびぬけた才能がないから無理」と決めつけずに、まずは自分が興味・関心のあるものを分析してみましょう。「自分はなぜそれに興味・関心があるのか」「その興味・関心を深めるプロセスでどんなことに取り組み、どのように成長してきたのか」「その興味・関心を出発点として、将来はどんな研究に取り組みたいのか」を掘り下げていくと、総合型選抜でアピールできることが見つかるはずです。

自分自身を振り返ることから

―いつから準備を始めればよいですか?

一言で言えば「思い立ったが吉日」。探究学習などで培われる学びへの意欲や志、思考力、リサーチ力などが問われる試験ですので、1・2年生で何らかの活動をしているとよいですね。

―何から準備をすればよいのでしょう。

まずは「将来やりたいこと」や、過去に「やってみたい」と憧れていたこと、自分がこれまで大切にしてきたことを書き出してみましょう。

例えば、「小さい頃はヒーローが出てくるアニメが好きだった」「警察官に憧れていた」のであれば、その人にとっては「正義」が一つのキーワードになりそうだということが見えてきます。「正義」というキーワードに着目して自分のこれまでを振り返ってみると「文化祭準備でもめごとが起こったときは仲裁に入った」といったエピソードが見つかるかもしれません。このようなエピソードから「自分は法学部で学べることに興味があるのでは」と分かれば、知っている大学の法学部のウェブサイトを見るなどして、興味を持てそうな研究テーマを探していくことができます。

自分自身を振り返ってみよう

―興味のあるテーマが見つからない人は?

いくつかの大学のパンフレットを取り寄せ、さまざまな学部のページを見ながら興味を持てそうな学問領域をピックアップしてみるのもよいでしょう。そして、「将来の夢・志・目標」と「研究テーマとして深めたいこと」を結びつけて語れるようにしておくことが重要です。

総合型選抜のスケジュール例
出願(9月1日以降)

一次選考…書類審査(志望理由書や活動報告書など)

二次選考…面接審査、小論文、講義理解テストなど

合格発表(11月1日以降)

■総合型・学校推薦型の代表的な選抜方法

  • ①書類審査

  • 志望理由書…志望大学で学ぶ意義と、その大学で学ぶ適性や学習意欲を記した書類。
  • ポートフォリオ、活動報告書…今までの経験や活動、資格などをもとに自分と大学のマッチングをアピールする。
  • 調査書…高校3年間の学習記録や生活記録が記された高校から発行される書類。
  • ②英語資格試験

  • 出願条件や判定条件に、英検、TOEFL、TOEICなどの民間資格試験を採用している大学も多い。
  • ③小論文

  • 課題論述型…与えられた課題について分析し自分の意見を述べる。
  • 文章読解型…文章を読みながら筆者の意見を読み取り、それに対する自分の意見を論述。
  • 資料分析型…表やグラフが提示され、その問題点や解決策を論述する。
  • ④面接

  • 質疑応答形式…個人形式、グループ形式の2種類。志望理由書やポートフォリオの内容質問や所作を見られる。
  • グループディスカッション形式…受験生数人でテーマに沿った討論を行う。
  • 口頭試問形式…文系学部なら文章を読み内容に関する質問、理系学部なら数学や科学の問題の解説を求められることもある。
  • プレゼンテーション形式…テーマが与えられ当日までに資料を作り発表する。

中川敏和さん なかがわ・としかず 早稲田塾 執行役員・本部長。1997年から東進、早稲田塾で一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜など、さまざまな大学受験指導を25年間行う。受験生の娘をもつ父親でもある。