国立大学協会が2022年1月28日に決めた「2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度」の基本方針は次の通り。

2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度-国立大学協会の基本方針-

一般社団法人 国立大学協会

はじめに

国立大学は、その創設時から我が国の政策・施策を支える高等教育機関として、世界最高水準の教育・研究の実施や重要な学問分野の継承・発展と、地域と国を支える人材を輩出する役割を担ってきた。こうした中で、2020年から始まった我が国における新型コロナウイルスの感染拡大は、経済や社会構造の激変のみならず、大学教育や入学者選抜の在り方にも大きな影響を与えることになった。ウィズコロナ・ポストコロナ時代が到来しつつある社会情勢の中で、我が国ではデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進み、教育分野においてもデジタル化とICTの活用により、データ駆動型への転換が求められている。

これからの予測困難な時代の中で、大学においては専攻分野についての専門性を有するだけではなく、学力の3要素を基盤とした幅広い教養と、論理的思考力を持って社会を改善していくことのできる能力、Society5.0時代に向けた数理・データサイエンス・AIの知識を持った人材の育成が必須となる。その中において、国立大学は2022年度より第4期中期目標・計画期間を迎え、これまでにも増して世界の発展に貢献できる人材の育成はもとより、地方創生や地域に密着して活躍しうる人材の育成の中核を担っていく。高等学校教育、大学教育及び大学入学者選抜の三位一体の改革が進められる中、国立大学は、大学入学者選抜が受験生やその関係者だけでなく、社会との重要な接点の一つとして捉え、今後も様々な属性や特性のある学生に広く門戸をひらき、さらに多様な能力・適性、興味・関心等を多面的・総合的に評価する入学者選抜を行っていくとともに、知識・技能を受動的に習得する能力を重視する教育から、能動的な学びや一人一人の個性及び学びのプロセスを重視する教育へと我が国の教育システム全体を未来に向けてさらに進展させていく。

国立大学協会は、「大学入試のあり方に関する検討会議」および「大学入学者選抜協議会」などの場で、文部科学省や関係団体と共に大学入試改革に係る議論を行ってきた。2022年度から新たな学習指導要領による教育を受けた高校生が、2024年度に実施する大学入学者選抜を受験することとなり、2021年7月に文部科学省から「令和7年度大学入学者選抜※に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告」及び「令和7年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」が公表された(※令和 7 年度大学入学者選抜…2024 年度(令和 6 年度)に実施する 2025 年度(令和 7 年度)入学者を対象とする選抜)。これらを踏まえ、2024年度(2025年度入学者選抜)以降に実施する国立大学の入学者選抜制度に関して、以下の基本方針を明らかにする。

1.2024年度以降の国立大学入学者選抜制度の基本方針

(1)大学入学共通テストと個別学力検査等の組み合わせ

国立大学は、その理念と目的の達成のために、単に特定の教科・科目の学力を有するのみならず、高等学校等における基礎的教科・科目の普遍的履修を基盤とし、大学における総合的な教養教育や専門基礎教育を受け、さらに進んで先端的学術分野の成果を修得しうる学生を求めている。このため、これまで国立大学は一般選抜においては、それぞれのアドミッション・ポリシーに基づき、第一次試験として大学入学共通テスト(原則5教科7科目)を課した上で、第二次試験として、学士課程教育を受けるに相応しい資質と能力を測るための個別学力検査等を実施してきた。

国立大学においては、このような一般選抜での大学入学共通テストと個別学力検査等の組み合わせは、大学入学者の学力水準を保証するとともに、多面的・総合的な評価により、高い意欲・関心を有する多様な学生を受け入れるために極めて有効かつ適切な方法であり、今後とも堅持する。

(2)「大学入学共通テスト」

6教科8科目の原則

高等学校においては、2022年度から新学習指導要領が年次進行で実施され、事象を情報とその結び付きの視点から捉え、情報技術を適切かつ効果的に活用する力を全ての生徒に育む必履修科目として、「情報Ⅰ」が設けられることとなった。2024年度に実施される大学入学共通テストからは、この新学習指導要領に対応した教科・科目が出題され、特に、大学入学共通テストの出題教科に新たに「情報」が加わることは、大学入試センター試験を含め初の教科の追加となる。

国立大学においても、これからの社会に向けた人材育成の中で、文理を問わず全ての学生が身に付けるべき教養として「数理・データサイエンス・AI教育」が普及しつつある。そのような状況の中で、高大接続の観点からも、「情報」に関する知識については、大学教育を受ける上での必要な基礎的な能力の一つとして位置付けられていくことになる。

よって、2024年度に実施する入学者選抜から、全ての国立大学は、「一般選抜」においては第一次試験として、高等学校等における基礎的教科・科目についての学習の達成度を測るため、原則としてこれまでの「5教科7科目」に「情報」を加えた6教科8科目を課す。

なお、2024年度に実施する入学者選抜での経過措置問題を含む「情報Ⅰ」の活用の方法等について、各大学は、速やかにホームページを活用して公表するなど、受験生に対して十分な説明を行う。

(3)個別入学者選抜

 ①「一般選抜」

 各大学は個別入学者選抜において、それぞれのアドミッション・ポリシーに基づき、受験生一人一人の能力や経験を多面的・総合的に評価する入学者選抜に改革する必要がある。改革の実現に向けては、大多数の受験生を対象とする「一般選抜」の改善が大きな鍵となる。国立大学は、「一般選抜」において、「知識・技能」を基盤とした「思考力・判断力・表現力」、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の評価をより重視するため、次のとおり改善を図る。

 ⅰ)高度な記述式試験の実施

 国立大学としては、各大学がそれぞれのアドミッション・ポリシーに基づき作題し、全ての受験生に個別学力検査等で論理的思考力・判断力・表現力を評価する高度な記述式試験を課すこととする。ここでいう高度な記述式試験とは、例えば、複数の素材を編集・操作し、自らの考えを立論し、さらにその過程を表現する能力を評価できる問題であり、既に個別学力検査等において記述式試験を実施している大学にあっても、そのような能力をより適切に評価するため作問の改善を図る。教科・科目を含め、その具体的な内容・方法については、各大学・学部の主体的な判断に委ねられるが、各大学・学部が募集要項等において出題意図、求める能力等を明確にした上で受験生に課す

 ⅱ)調査書や志願者本人が記載する資料等の活用

 各大学は、それぞれのアドミッション・ポリシーに基づき求める人物像や能力等を踏まえ、高等学校における学習活動や課外活動等の実績及び学習意欲等を含めた学力試験によっては測ることのできない能力や態度をより適切に評価するため、調査書や志願者本人が記載する資料、面接等を活用する方法を検討し、実施可能なものから順次導入していく。また、併せて各大学・学部は、調査書等をどのように活用するのかについて、募集要項等に明記する

ⅲ)分離分割方式の継続

 一般選抜の個別入学者選抜の日程を前期日程(2月25日から)と後期日程(3月12日以降)に分離し、募集人員をそれぞれに分割するという現行の分離分割方式は、国立大学の受験生に複数の受験機会を提供するとともに、各大学・学部のアドミッション・ポリシーに基づく選抜方式の多様化や評価尺度の多元化の実現に大きく貢献してきた。また、具体的な運用においては、各大学の方針に基づく自由度を高めるため、募集人員の分割を各大学の裁量に委ねる、分割比率の少ない日程の募集人員に総合型選抜・学校推薦型選抜等を含めるなどの「弾力化措置」を設けている。近年、「弾力化措置」に基づき、一部の国立大学で後期日程の募集人員を総合型選抜・学校推薦型選抜に振り替える動きはあるものの、国立大学の入学者選抜制度として社会に長く定着してきた本方式を大きく変更することは、高等学校教育への影響や受験生への混乱も懸念されるため慎重であるべきである。

 よって、今後も従来どおり試験日程を前期日程と後期日程に分離して設定するとともに、募集人員の分割については各大学の裁量に委ねる等、これまで実施してきた以下の「弾力化措置」を含めた本方式を維持することとする。

  •  <募集人員分割に関する弾力化措置>
  • ○ 各大学は、募集人員を原則として前期日程と後期日程に分割する。
  • ○ 募集人員の分割を行う単位は原則学部とし、分割の比率は各大学の裁量に委ねる。
  • ○ 前期日程又は後期日程のうち分割比率の少ない日程の募集人員に代えて、「総合型選抜」・「学校推薦型選抜」に募集人員を置くことも可能とする。

②「総合型選抜」・「学校推薦型選抜」

国立大学はこれまでも自主的な取組により、総合型選抜・学校推薦型選抜など多様で個性的な入学者選抜を実施してきた。「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」においても、達成すべき喫緊の課題として「優れた資質・能力を有する多様な入学者の確保と受入環境の整備」を掲げ、特に近年は、各大学において特色ある総合型選抜・学校推薦型選抜の導入が相次いでいる。

加えて、2021年度のコロナ禍での入学者選抜において、総合型選抜・学校推薦型選抜は選抜時期の柔軟化や、様々な課題も指摘されながらもオンライン面接などが一般選抜に比べ実施しやすく、感染症や大規模自然災害等の非常事態への耐性が高いことが示された。また、18歳人口の減少に伴い、将来的には選抜という視点に加え、マッチングの視点が重要視されることも考えられる中で、各大学において多様に実施される総合型選抜・学校推薦型選抜は、その重要性を増していくことになる。

これらを踏まえ、今後とも、「学力の3要素」を多面的・総合的に評価するため、一定の学力を担保した上で、調査書等の出願書類に加えて、小論文や面接、プレゼンテーションなど多様な評価方法を活用し、これら学力試験以外の要素を加味した「総合型選抜」・「学校推薦型選抜」などの丁寧な入学者選抜の取組を加速・拡大する

また、それにより蓄積されていく経験とノウハウを「一般選抜」を含めた全ての入学者選抜に波及させる取組を推進していく。

③多様な背景等を持った受験生の受入れ

文部科学省の「令和7年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」では、入学者選抜についてはこれまでの『「一般選抜」とそれ以外』から『「一般選抜」「総合型選抜」「学校推薦型選抜」』の3つの入試方法に再整理されることになった。各大学において実施していた社会人選抜、帰国生徒選抜等については、この3つの入試方法のいずれかの中で実施する。また、様々な要因により進学機会の確保に困難が認められる者や、各大学で入学者の多様性を確保する観点から対象になると考える者への選抜の工夫を行う場合には、各大学の判断の下、3つの入試方法の中で個別の選抜区分を設けることや、受験資格、受験方法等の多様化・柔軟化等により、適切に評価を行う

④総合的な英語力の評価

我が国の社会や経済のグローバル化が急速に進展し、国際的に人材の流動性が高まる中、英語によるコミュニケーション能力の向上が課題となっている。高等学校学習指導要領では「読む」「書く」「聞く」「話す」を総合的に育成することが求められ、大学入学者選抜においても、「読む」「書く」「聞く」「話す」の総合的な能力を適切に評価することが、グローバル人材育成を含めた大学教育改革に繋げるためにも重要である。

国立大学においては、各大学のアドミッション・ポリシーに基づき、様々な方法により総合的な英語力の評価を行う。なお、英語民間資格・検定試験等を活用する場合には、家庭環境や居住地域により、資格・検定試験等を受検することの負担が大きい入学志願者を考慮し、同一の募集単位において英語民間資格・検定試験等を活用しない募集区分の設定や、個別学力検査等の成績との選択的利用など、受験機会の公平性・公正性の確保について可能な範囲で配慮を行う。

2.大学入学者選抜制度の継続的検討

高大接続システム改革の最大の眼目である全ての受験生を対象として、「学力の3要素」を多面的・総合的に評価する選抜への改革に向けては、今後乗り越えなければならない課題も多い。国立大学協会としては、今後、文部科学省や大学入試センター等と連携を図りながら、特に次の点について継続的に検討を行い、実効性のある高大接続システム改革が着実に実現されるよう取り組んでいく。

(1)高度な記述式試験の開発・調査書等の活用

個別学力検査等における高度な記述式試験や調査書等の活用は、各大学において、それぞれのアドミッション・ポリシーに基づき、主体的に工夫・開発することが基本である。調査書については、「令和7年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」において、「各教科・科目の観点別学習状況の項目」について「条件が整い次第可能な限り早い段階で調査書に項目を設ける」とされた。今後の文部科学省での検討状況を注視しつつ、各大学においても、観点別学習状況が記載された際の活用方法を検討する。

なお、調査書の電子化については様々な場で議論が行われており、大学の入試業務の効率化、電子出願の一層の拡大に資することが期待されるものであるが、一方でセキュリティリスクやデータ管理の在り方などの検討の必要性が指摘されている。今後は、国立大学協会としても調査書の電子化の議論を踏まえ対応ていく。

(2)個別入学者選抜の実施時期等

 前述の通り、現行の分離分割方式は、受験機会の複数化、選抜方式の多様化、評価尺度の多元化等の観点から当面維持することとするが、今後の総合型選抜、学校推薦型選抜等の普及・拡大の進展に伴い、前提となる状況が大きく変化することも予想される。さらに、丁寧な入学者選抜を実施するためには、十分な選抜期間を確保する必要がある。また、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として、大学の秋季入学への移行についての議論が活発化したが、大学の入学時期だけを変更するにとどまらず、初等中等教育の卒業時期や企業の採用スケジュールなど、我が国全体の社会制度の見直しが必要である。国立大学においては、総合型選抜、学校推薦型選抜等の一般選抜とは異なる枠組みを活用することで、入学時期の弾力化に対応しつつ、個別入学者選抜の実施時期の在り方について、引き続き検討する。

(3)入学定員管理の在り方

入学者選抜において、いわゆる「1点刻み」による選抜から脱却し、「入口管理」から「出口管理」への転換を図るためには、現在の厳格な入学定員管理の在り方を見直すことも必要であり、教育の質の保証を担保しつつ、例えば、収容定員の枠内で入学定員の自由度を付与する、あるいは一定の要件を満たした大学については定員管理をある程度緩和するなどの弾力的な運用を可能にするような制度を国に対し求めていく。

(4)外国人留学生選抜の在り方

高大接続システム改革においては、外国人留学生選抜の在り方について議論されていないが、グローバル化の進展の中で外国人留学生の受入れ拡大は喫緊の課題である。例えば、複数の国立大学が連携して外国人留学生を選抜し、受入れ希望大学を調整するなどの外国人留学生受入れシステムの構築について検討する。

(5)ICTを活用した入学者選抜

 新型コロナウイルス感染症への対策として、2021年度入学者選抜においてオンラインでの面接や実技試験が実施され、感染症対策のみならず、遠隔地の受験生に対しての受験機会の提供といった面や、当日の試験場設営が不要なことなどの業務負担の軽減としても有効性が認められ、入学者選抜手段の新たな可能性が示された。一方で、受験生、大学双方でのインフラ整備や、オンライン面接等を実施するための新たな業務の負担、不正防止対策などの面で課題が指摘されている。今後は各大学における好事例や実施上の課題の収集と共有等を行い、CBTを含めICTを活用した入学者選抜の推進の可能性について検討する。

(6)各大学における入学者選抜体制の強化

 各大学における多面的・総合的な入学者選抜の推進のためには、専門性の高いアドミッション・オフィスの整備及びアドミッション・オフィサーの育成が不可欠であり、各大学の取組を情報共有しその普及方策を検討するとともに、国からの財政支援を求めていく。

将来的には、各大学はアドミッション・ポリシーに基づく特色ある多様な選抜を行うという理念を維持しつつ、例えば、試験問題の共同作成等を含めた各大学の業務負担軽減や、受験生の利便性、流動性に配慮し統一的な出願システムを構築するなど、各大学が連携・協働できる部分は共通化するという観点から、入学者選抜体制の改革を検討する。

                                     以 上