データネット実行委員会(ベネッセコーポレーション・駿台予備学校共催)による2022年度大学入学共通テストの「倫理」の問題分析は次の通り。
― 高校生が思想を深める会話を中心に全体が構成された。難易は昨年よりやや難化 ―
各大問の出題分野は昨年同様であった。形式は従来のリード文がなくなり、おもに生徒の会話文などで構成された。思想家の考え方の理解をもとに、具体的場面を提示し、現代の倫理的諸課題について考察する問題がみられた。易しかった昨年と比べて難易はやや難化。
大問数・解答数
大問数4、解答数33個は、昨年から変更なし。すべての大問で「倫理、政治・経済」との共通の設問が出題された。
出題形式
問題ページ数35は、昨年と比べて変更なし。文章選択問題が増加(15→19)し、組合せ問題が減少(18→14)した。組合せ問題では、昨年なかった8択が1問出題され、さらに、昨年2問あった正誤組合せ問題が3問に増加した。昨年同様、図版や原典資料などが扱われた
出題分野
昨年同様、特定の分野に偏ることなく幅広く出題され、第1問で源流思想分野、第2問で日本思想分野、第3問で西洋思想分野、第4問で青年期分野と現代の諸課題分野が現代の思想と合わせて出題された。
問題量
昨年並。
難易
昨年よりやや難化。
大問別分析
第1問「真理と議論について」 (24点・標準)
源流思想分野からの出題。問2は、儒家と墨家に関する正確な知識が求められた。墨子の節葬についての踏み込んだ理解の判断に迷った受験生もいたであろう。問5はマルクス・アウレリウスの『自省録』を読み取り、空欄に入る内容を答える問題であった。問8は、各選択肢の記述は受験生にとっては目新しいものであるが、会話文の空欄の前後の文脈に着目できたかどうかがポイントであった。
第2問「日本思想における『理想』」 (24点・やや易)
日本思想分野から、各時代・分野にわたって幅広く問われた。問3は、図版を使用した出題であり、図1の明恵が華厳宗であることの判断は難しかった。念仏・往生が浄土宗であることが手がかりとなったであろう。問4は本居宣長が説いた真心の内容を、身近な具体例で考察する問題。真心の内容を正確におさえていたかで差がついたと思われる。問7は、純粋経験についての深い理解が求められた。
第3問「考えることの大切さ」 (24点・やや易)
西洋思想分野から、知識を求める設問と思考力を求める設問がバランスよく出題された。問6は、ヤスパースの「限界状況」と「実存的交わり」についての正確な理解が求められた。問7は、デューイの思想の知識と資料を読み取る力の両方が必要であった。各選択肢の文章量が増え、解答に時間がかかったと思われる。問8は会話文を踏まえ、レポート内の空欄に当てはまる内容を選ぶ問題。会話文の内容を正しく読み取り、整理する力が求められた。
第4問「未来世代に対する義務と責任」 (28点・やや易)
青年期分野と現代の諸課題分野から出題され、現代の思想と絡めて幅広く問われており、会話文の内容をしっかり捉えることが必要であった。問1は環境問題についての出題。会話文やメモの内容を丁寧に読むことが求められた。問4は環境と人間存在のあり方を絡めた問題で、メルロ=ポンティとレオポルドの考え方を理解しておく必要があった。問8は、コールバーグの資料が用いられ、行為の道徳的判断を具体的な事例に即して考えられたかどうかがポイントであった。
過去5年の平均点(大学入試センター公表値)
- 2021年度 71.96点
- 2020年度 65.37点
- 2019年度 62.25点
- 2018年度 67.78点
- 2017年度 54.66点