正智深谷高校(埼玉)の文化祭「葵祭」(9月14、15日開催)で、3年5組35人が遊園地でおなじみのアトラクション「バイキング」をイチから手作りした。企画代表の生徒らに、完成までの過程などを聞いた。(文・写真 中田宗孝)

海賊船に乗った気分に

校内中庭に設置した4人乗りのバイキング。高さ3㍍、幅6㍍の大きさだ。海賊船をイメージした乗り物の底面に固定した2本のロープを、生徒たちが綱引きのようにそれぞれ引っ張ることで振り子運動させる。

「せーのっ!」の合図でロープを引くと、乗り物がダイナミックにスイング。ぐわんぐわんと前後に揺れ動き、スリル満点だ。バイキングを動かす3年5組の生徒は、着ぐるみや女装などのコスプレをして「遊園地感」を演出。自分たちも高校最後の文化祭を満喫した。

バイキングが急角度に上昇し、スリルは最高潮に!

建設会社からアドバイス

昨年の文化祭でも同じメンバーで屋外アトラクション「逆バンジー(器具を使って地上からジャンプして楽しむ遊具)」に挑戦した。「私たちのクラスはクラス替えがありません。どんなアトラクションを作れば昨年を越えられるかを考える中で『バイキング』が挙がったんです」(小針千穂さん)。バイキングは、同校で製作前例のない大型アトラクションだったが、昨年のクラス企画を成功させたことで自信を深めていた。「作る僕らも、お客さんも楽しめるものになると思いました」(加島惇大朗君)

地域の建設会社を訪ねて、バイキングの構造設計や必要な資材などの助言を仰いだ。生徒たちの設計では、バイキングの乗り物を支える支柱を垂直に立たせる案だったが、指摘を受けて変更した。「三角形になるように支柱を組んだ方が、支柱に加わる力をより吸収できる、と。私たちは理系のクラスなので、建設会社の方に教えていただいた物理の話も理解できました」(小針さん)

その時、ブランコが製作のヒントになると教えられ、生徒たちは公園へ。ブランコの構造を、バイキングを揺れ動かす仕組みに生かした。「ロープで乗り物を吊すアイデアを思いつきました。ロープの“たるみ”がバイキングの滑らかな動きと揺れをつくるんです」(加島君)

ブランコのように吊り下げられた海賊船が前後に激しく揺れ動く

前日に完成「楽しすぎた」

8月から製作を始めた。ここでも昨年のアトラクション製作の経験が役立った。「去年はビス1本打つだけでも時間が掛かっていたんです。今年は自分たちも驚くほど作業が早かった」(加島君)。「3日間を想定してた作業が半日で終わったこともあったよね。昨年は男子中心の作業でしたが、今回は女子も工作に協力できました」(小針さん)

三角形に組んだ支柱の強度は十分にあったが、安全性をより高めるため、支柱を埋め込む地面の穴にコンクリートも入れて固定した。文化祭前日、バイキング完成の瞬間はクラスが湧いたという。「自分たちが作ったバイキングに乗ったり動かしたり。みんな笑顔。楽しすぎました」(加島君)

同文化祭では初の試みとなった3年5組のバイキング。カラフルな支柱も目を引く

納得いくまで話し合う

準備中には、クラスメートの意見が割れる場面があった。そんな時は、クラス全員で納得いくまで議論を重ねて、問題を解決してきた。「僕らのクラスは何か問題が起これば話し合いを念入りにします。自分の意見をクラスメートにしっかり伝えて、考えをみんなと共有する」(加島君)。担任の西谷泰実先生は、「クラス内の問題だけでなく、彼らはさまざまな場面で話し合いを大切にしてます」と話す。

例えば、6月に開かれた生徒総会。総会に向けて同クラスは、学校行事に取り組む姿勢やスマートフォンの規制などの校則を変えるため、クラス内で徹底的に議論したという。「生徒手帳の学則を確認したり、法律を調べたり。校則を変えるにはどうしたらいいか、3カ月以上準備して臨んでました」(西谷先生)

小針さんは話し合うことの大切さを話す。「LINEの文面だけでは伝わらないことが絶対にある。(顔と顔を向かい合わせて)みんなに直接語りかけて、伝わることがあると思うんです」。生徒総会で提案した要望は、他の生徒たちの反響を呼んだという。

西谷先生は、「私の元にも『3年5組、すごいな』といった生徒の声が聞こえてきました」と、自クラスの頼もしさを語った。同校文化祭で実例のないバイキングの製作を成し遂げた3年5組。加島君は「クラスの絆で昨年を越えるアトラクションが出来た。最後の文化祭、やりきりました」と誇った。