日本でおなじみの商品が海外でもヒットするケースが増えている。頰張ると、ジューシーな味が広がる菓子「ハイチュウ」もその一つ。現在、世界約20カ国でも販売されている。製造する森永製菓の宮井康太郎さんは、さらなる市場の拡大を目指して、タイでハイチュウのマーケティングを担当している。海外で日本の商品を売り込む上での工夫、必要な心掛けなどを聞いた。(野口涼)
日本のブランド印象良い
──タイでの認知度はどのくらいですか。
ハイチュウは現在、米国・インドネシア・中国・台湾に製造拠点があります。なるべく多くの国に同時に受け入れられる商品作りをしながら、各国の市場に特化した商品開発も行っています。
タイでは日本ブランドのイメージが良く、スーパーの棚に日本のお菓子がずらりと並んでいます。ハイチュウは10年程前から展開しており、今ではソフトキャンディーのトップブランドに近づいています。
12粒入りのハイチュウは、タイでは20バーツ(約70円)。平均年収が約140万円のタイでは、まだ少し価格が高いお菓子になります。今後、平均所得は上がるといわれていますので、これまで以上に多くの方に食べてもらえるようにしたい。
──具体的には、どんな仕事をしているのですか。
私はタイでハイチュウをさらに広めるべく、駐在事務所をサポートしています。商品のラインアップや味わい、広告などを工夫し、近い将来、お客さまから「ソフトキャンディーといえばハイチュウ」とイメージしてもらえるようになればと考えています。
どういう味・形態・品質・価格のソフトキャンディーが売れているかを現地のスーパーなどでリサーチし、アンケートなどの消費者調査で検証。その上で商品開発を行います。現状の工場で作れるのか、販売価格や売る方法など、考えるべきことはたくさん。現在、月に1回は現地を訪れ、毎回4、5日間滞在しています。
味や原料に配慮が必要
──文化の違いを感じることは。
昨年10月にタイの国王が死去しました。服喪のため、スーパーの売り場は数カ月にわたってモノクロの表示になりました。ハイチュウのテレビCMやキャンペーンなど、予定していた広告・販促も一気にストップ。消費も冷え込みましたが、打つ手はありません。タイにおける国王の存在の大きさを感じた出来事でした。
──他の国も含め、海外でハイチュウを展開するにあたって苦労することは。
海外向けの商品開発では、「味に対する感じ方」や「宗教に関わる食習慣」が国や地域、民族によって異なるため配慮する必要があります。原料や包装紙の表示など、食品に関する法規も国によってさまざまです。「この原料が使えないから、この味が出せない」といったことも頻繁に起こります。ハイチュウの「独特の食感とリアルなフルーツ感」という特長を守りつつ、現地に受け入れてもらえる商品をどう作るか、常に考えています。
道を切り開くのが楽しい
──心掛けていることは。
現地の方との商談で、あいまいな部分を残さないことです。言葉の壁があり、しっかりと聞き取れないとその内容を聞き流してしまいがちです。それが後に重大なトラブルにつながることも。「話し合いで何が決まったか」「こちらが知りたいことは全て分かったか」など、意識しながら話すようにしています。
──やりがいは。
海外で市場を新たに広げる仕事は、これまでに蓄積されたノウハウがありません。だからこそ、分からないことは自分で考え、道を切り開く楽しさがあります。うまくいかなければ別の方法を試し、立ちはだかる壁を突破していくことにやりがいを感じています。
意見伝える練習しよう
──将来、海外で働きたい高校生へメッセージをお願いします。
日本のように、空気を読みながら交渉の落としどころを探すといった商習慣は、海外では通用しません。一回一回の商談が真剣勝負。高校生の皆さんには、自分の意見をしっかり持ち、「こういう理由でこうしたい」と主張できるように今から練習してほしいと思います。
宮井さんのある一日
7:00 タイからのフライト、羽田空港着
9:00 空港でシャワーを浴びそのまま出社
10:00 タイでの消費者調査の結果を開発チームに共有し、新商品の方向性を検討
12:00 社内の食堂で昼食
13:30 シンガポールの来期取組みについて営業と打合せ
16:00 ハイチュウブランドの中期計画についての打合せ
17:30 メールチェック、出張報告書作成
19:00 退社
- 【会社概要】森永製菓
1899年創業。「おいしく たのしく すこやかに」を基本理念とする大手菓子メーカーで、ミルクキャラメルやチョコボールなど多くのロングセラー商品がある。現在は菓子・食品・冷菓・健康・海外の5つを柱に事業展開している。