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  入選
 「青い魔法の中で」森田 愛梨(東京・女子学院高等学校 2年生)
 「夜、アイスを買いに。」日名 祥也(岡山・津山工業高等専門学校 3年生)
 「あの夏の空へ」菊池 大和(岡山・津山工業高等専門学校 2年生)
 「ソーダ日和」小田 彩瑛(岡山・津山工業高等専門学校 2年生)
 「下る日」髙松 葵(愛媛県立今治西高等学校 2年生)
 「メルト」馬塲 杏奈(東京都立上野高等学校 3年生)
 「打上花火」西原 大智(愛媛県立今治西高等学校 2年生)
 「頬」林 香澄(埼玉県立浦和第一女子高等学校 3年生)
 「桜の雨」加藤 湊人(兵庫・灘高等学校 3年生)
 「鎮魂歌(一九四五年八月六日)」富田 隼ノ介(東京・渋谷教育学園渋谷高等学校 2年生)

 

入選 「青い魔法の中で」 森田 愛梨(東京・女子学院高等学校2年生)

ぼくの席は
1番後ろで
1番窓際にあって
1番空が青くみえる。

 

授業のチャイムが鳴る前に
教室の窓をすこし開けて
広い世界と5センチ繋がると
今年も夏が来た、って安心する。

 

前はペンを走らせてすらすら
隣は机につっぷしてすやすや
すぐ気が散ってあちこち目移り
ぼくはノートの余白でふらふら
ふっと耳をかすめた先生の声
てふてふは「ちょうちょう」と読みます。

 

なんだって?
おねがい、せめて
ずっとだいすきな言葉だけは
ぼくからあふれる音だけは
すなおでまっすぐでいてほしいのに!
なんてね、
うそめいてみたり
ほんとうだったり。

 

窓の向こうに目をやると
雲の連鎖と晴れた中学棟
その視界のはしっこを飛んでいる
小さな黄色いちょうちょを見つけた
毎日楽しく過ごしていたら
あっというまに羽化しちゃったんだって。

 

やっぱり、ぼくこわいよ
青い魔法がとかれたあとのこと
ぼくも、ちょうちょも、せんせいも
きっとだれもしりたくないから
なにもわからずにおわっちゃいそうで
いつかは、
ぼくもちょうちょみたいに
空をてふてふしちゃうのかな。

 

 

ぼくのこころは
過去に未練で
未来に臆病だから
いまに愛をそそいで生きている。

 

先生が後ろを向いた隙に
手帳の表紙に挟んだ便箋
きみの言葉をこっそり開いて
あの夏の匂いを、ゆっくりと思い出す。
 

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入選 「夜、アイスを買いに。」 日名 祥也(岡山・津山工業高等専門学校3年生)

夜は出かけたくなる
夜風が冷たい
「寒いね」と話しながら
アイスを買いに行く二人。
点滅する青信号に急くことはなく。
途切れることを知らない会話は
そのまま飛んでいってしまいそうだった。

 

帰りにホットスナックを食べながら帰って、
「あの店員さん感じよかったよね」なんて。
夜風が冷たい
「寒いね」と話しながら
笑っている二人。
信号はことごとく青になって。
その時だけは不安を忘れた僕らは
止まることなんてなかった。
何も怖くなんかなかった。
 

 

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入選 「あの夏の空へ」 菊池 大和(岡山・津山工業高等専門学校2年生)


夏が嫌いだ
部屋の温度が一度でも上がると苛立つ自分が醜く見えて
ろくに外も出歩けないことがこんなところでも自由を奪われていると感じて
それでも夏にしか見られないものがある
不気味なほど真っ青なキャンバスに貼り付けられたように浮き出てくる雲が僕らの真上に広大に広がるあの夏の空である
この空を冷房の効いた涼しい部屋で見つめることが夏の唯一のいいところである
夏は子供を大人に、大人を子供に変えるような不思議な魔法がかかっているとどこかで聞いた覚えがあるが
神も仏もお腹が痛いのにトイレに行けない時しか祈ったことがない自分でさえそんな非科学的なものを信じてしまうほど納得してしまった
そんな空を窓際の席で見つめている
日の光が当たって冷房の効いた教室であるのに汗をかいてしまう
 「ちょっとは、休んでくれよ」
この時代に似つかわしくないほどの働きを見せる太陽に伝えてほしいから僕はあいつに悪態をつく
あの夏の空へ
 

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入選 「ソーダ日和」 小田 彩瑛(岡山・津山工業高等専門学校2年生)

近年じゃ珍しくもない猛暑のせいで
君と手を繋ぐことすら許されない
でもいつか この暑さが過ぎていっても
君のそばにいられない日が来るんだろ

 

生活の 全てをそつなくこなしていく君のこと
ちょっと好き
そつなく生きている生活の中の
少しの歪みに耐えられなくて
親に渡せなかったプリントだらけの僕の部屋で
涙を流した君のことは
もっと好き

 

一人で帰る夕方は 息をする暇もなかった中学時代をおもいだす
君がいないとおもいだす
この町で 流したくない涙の味を
唯一知っていた君と僕
君はいつだってそばにいてくれるのに
僕は何が孤独なんだろう

 

僕と君は すべてが全く違っているのに
似ている部分が多すぎて
勝手に比べて 勝手に落ち込んでしまうから
君も そうで あってくれたら……

 

近年じゃ珍しくもない猛暑でも
手を繋ぐことをやめられない僕たちは
テストの点数で勝負して
僕が負けたら君にソーダを奢る約束をした

 

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入選 「下る日」 髙松 葵(愛媛県立今治西高等学校2年生)


何が正しかったかわからなくなっていく月日
多くの選択肢とチャンスを失った一昨昨日
最後の希望すら失くしてしまった一昨日
生きたという実感を残せなかった昨日
予定がないからと暇と向き合う今日
僅かに残る逃場を増やしたい明日
体中の渦を取り払いたい明後日
日常から解放さたい明々後日
夢幻のように消え去る佳日
望まないが増えてく悪日
順番にやって来る忌日
私の番が廻りくる日
懐かしむのは往日
月火水木金土日
階段になる日
思い出の日
行く日
毎日

 

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入選 「メルト」 馬塲 杏奈(東京都立上野高等学校3年生)


木陰でアイスクリーム
ちょうど混ざった所が好き
バニラとマスカットの
甘酸っぱくて優しくて
すぐ食べなきゃ溶けちゃいそう

 

雨予報の天井に白い雲
サルスベリが青に映える
それを撮ってる君を横から
眩しい新緑に君が色
髪になびく風の鮮やか

 

小さいタヌキのお守り
君とおそろいの
埃かぶって私を見てる
私は知らないふり
ことばなんて嫌い
降って湧いたあの日

 

誰もいないオレンジの教室
ごめんねと君を呼んで
そんな明日を想像しては
灰になって叶わない
ことばは伝えるもの

 

もっともっと上手に

 

でもほら
心から溢れてくるのを

 

紡ぎ出すのがこんなに苦手
いまもほら
紙は白いまま止まったペン

 

君に届かないと
のどの奥で溶けてしまう
漠然たる、コトバ

 

いつかきっと君に、

 

単色ばかりのアイスクリーム
甘酸っぱい味が
まだ消えないうちに

 

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入選 「打上花火」 西原 大智(愛媛県立今治西高等学校2年生)

胸に響く鼓動と 腹に響く鼓動を
いっそ一緒くたに 打上花火の音のせいにして
花火を眺める横目で きみを盗み見る
花火をみつめるきみは ぼくの夏を盗んでいく

 

肺を満たすは 潮風と火薬の夏の匂い
こころを満たすは 浴衣のきみ
ぼくの口からこぼれそうな 夏も終わりの大博打

 

打上花火が うるさいから
多分この言葉は届かない
ぼくの臆病が 夏の後悔を ぜんぶ花火のせいにした
振り返ったきみの笑顔が 後悔を ぼくのせいにした

 

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入選 「頬」 林 香澄(埼玉県立浦和第一女子高等学校3年生)


おべんともってどこいくの、
大きくなっても聞かれるの
たった一粒 右頬につけて
どこにも行かない
ただ持っただけ

 

今期のトレンド 新色ですか、
私とキャンバス覗き込む
知らない間にお洒落してたの
筆先の乙女
染まる頬

 

この跡つけた犯人誰だ、
あなたは探偵 私は助手か
髪の毛踊ってまだ寝ぼけてる
頼りない助手
真相知る頬

 

拭かない方がかっこいいんだ、
夕立の前に光を浴びてた
スポットライトに当たるあなた
頬を伝うもの 一心に 光を受けてた
つっこみたいけどつっこまないよ
私が見たのは横顔だけ

 

一体中になに入れてるの、
優しいくせに 頑ななんだ
今はそっぽを向かせてよ
頬に触れる指先は
優しいけれどおせっかい
もう降参 

 

ずっと変わらぬ 素直な頬

 

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入選 「桜の雨」 加藤 湊人(兵庫・灘高等学校3年生)


東京に桜が降る
僕は雨の日みたいに傘を差す

 

傘に桜が積もって
段々と重くなっていく
いつか この手で支えきれなくなるんじゃないかと思っていると
ずさり と傘から桜が落ちる

 

桜は段々と激しさを増して
傘にかかる抵抗も増していく
いつか 傘がぽっきりと折れてしまうんじゃないかと思っていると
いつしか 桜の雨は止んでいる

 

それでも僕は傘を差し続ける
地に落ちた桜が一掃されても
いつか また降りだすんじゃないかと怖くって
いつも 桜の雨の夢を見ている

 

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入選 「鎮魂歌(一九四五年八月六日)」
 
富田 隼ノ介(東京・渋谷教育学園渋谷高等学校2年生)


夜よ更けよ、夜更けよ、
大河よ、萌ゆる閃光を疾く受けよ。
街よ、巷よこの永訣の夜を
裂いて、今こそ紺碧を穿て。
そなたが腑に貯蔵する原生林を、
無為の唄を聞かせてやるのだ:
時計仕掛けのやくざな音符は
淘汰され、星は朝を迎えるだろう。
自然に還ったこのうるわし街は、
この世界は、再び息を吹き返し、
軽快な音韻がこだますれば
ヒロシマは一つとなるだろう。
ふたたび青空が広がれば、
ふたたび緑は繁げれば、
ふたたび手は繋がれば、
夜が更けたその日には、
自由で太陽が眩しいだろう。
人間よ、悪夢から目覚めるのだ!
この戦慄にあたう恐怖の夜が廃絶され、
全ての人々は兄弟となり、
地球の誇らしい市民たちが
豊穣の新世界を開拓する。
広島よ、長崎よ、被爆者よ、
長い夜に魘されたすべての貴い魂よ、
いつか確実にできあがる明るい平和のゆりかごで、
愛が溢れる安心の星で、
やわな草叢を布団に、安らかに眠れ、
永遠に安らかに眠れ
(二〇二四年八月十五日、広島市中区にて)

 

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