【目次(TOP)】【最優秀賞】【優秀賞】【佳作】【入選】
- 佳作
- 「空蝉」阿部 花恋(愛媛県立今治西高等学校 2年生)
- 「もやもや」島田 道峻(東京・海城高等学校 2年生)
- 「なかよしクラブ」山口 莉緒(広島・AICJ高等学校 2年生)
- 「合唱」西川 まい(東京・白百合学園高等学校 2年生)
- 「空色の夢」馬場 瑛大(京都府立西城陽高等学校 2年生)
佳 作 「空蝉」 阿部 花恋(愛媛県立今治西高等学校2年生)
庭の一面がコンクリートになった
雑草だらけの魔のエリアが
無機質でクールな空間に様変わり
残ったサルスベリの根元に
小さな穴がひとつ
目線を少しずつ上げると
サルスベリではなく
すらっと伸びたグラジオラスに
小さなセミの抜け殻があった
これはニイニイゼミ
ほかのセミより小さいのに
街の喧嘩を搔い潜る鳴き声
ほかのセミよりも一番乗りで
地上に出てくる夏の知らせ
今頃どこかの木にとまり
誰かに夏を届けているのだろう
このコンクリートの下には
時が来るのを待っているセミがたくさんいる
満を持して地上を目指したセミが
予期せぬ壁に阻まれ
地上に出られないことを悟ったとき
その現実をどう受け止めるのだろうか
あきらめて土の中で一生を過ごすのか
それとも
もがいてもがいて
出口を探し続けるのか
どうか
諦めないで
サルスベリを目指して
もがいてもがいて
いつか夏を届けに来て
受賞者コメント
賞をいただけるとは夢にも思っていなかったので、知らせを聞いた時は本当に驚きました。クラスのみんなからは拍手をもらい、うれしかったです。
授業で詩の応募用紙をもらい、中でも注目度の高いこちらのコンテストに応募することを決めました。庭の敷地を囲っていた庭木の一画が取り除かれ、コンクリートが敷かれました。夏の始まりに、残った地面に小さな穴と、穴の近くで伸びているグラジオラスの葉にしがみついている蝉の抜け殻を見つけました。きれいに整地された庭に立つ私の足はすくみました。昨年まではなかったこのコンクリートの下に、無数の命がうごめいていることに気づいたからです。あの時に感じた恐怖と罪悪感を、そして、同じように大きな壁を感じてもがいている自分自身の心情を表現しました。読み手の方々に、あのときの私の時間を共有していただけるような言葉を選び、わかりやすく表現することを意識しました。なかなか自分がイメージする世界観に仕上がらず何度も直しました。一文字変えるだけでも印象が変わるので、言葉の奥深さを痛感しました。
心の中にある思いは、文字にする方が素直に表現できることも多いと思います。創作は、自分の気持ちの整理だと思います。今治市では、古くから地域文集「うしお」が毎月発刊されており、市内の小中学生の詩や作文・短歌・俳句を掲載しています。うしおに掲載されると校内で表彰されるため、市内の生徒たちは、毎月、作品を応募します。特に、詩が取り組みやすいため、私も小学一年生から中学三年生まで、作品を作り続けました。身近なことでも、クローズアップしたり、見方を変えることで、創作のテーマになり得ます。色々なことに関心を持つきっかけにもなります。
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佳 作 「もやもや」 島田 道峻(東京・海城高等学校2年生)
もやもやがあった
みんな辛そうだった
どこまでも彷徨って
溺れそうになったり
でも
もやもやを塗りつぶす
ような人はいなかった
迷って
見つけて
それが虚像だと気づくまで
どれくらいかかったんだろう
あたらしい世界では
もやもや
はなかった
聞けばものを知れて
探せばかたちが見つかる
それはそれは物質で
心地よかった
人がみんな笑顔だった
とても楽しそうで
みんな裁判が好きだ
犯罪っていうのは悪なんだよ
動機なんて知ったこっちゃないよね
あたらしい世界は
最近生まれたようである
なんでそう思うかって
とてもとても白い
壁だからだ
気になってしまった
白い壁に沿って進んでたら
ぶつかった
僕たちは囲われていたのか
誰も
ここは箱の中だ
という人はいない
見なかったことにした
受賞者コメント
自分の作品をこのように評価していただき、大変光栄に存じます。
もともと現代詩に興味があり、このコンテストを以前から存じ上げていたので応募させていただきました。成長して、世の中にわからないことが多くあり、自分の知見がまだまだ浅薄であることを理解したときに心の裡に生じた感覚を、既存の、言葉という枠組みに無理に嵌めずに言語として発現できないかと考えて創作を試みました。頭の中で浮かんだイメージを、論理とは別に忠実に言葉に再現しようと工夫しました。もっと多様な経験をして、より多くの視点を学びたいなと思うことができました。
創作は、自分の普段知覚し得ない意識と向き合わせてくれるものだと思います。読むにしても創るにしても、できる限り創作に関するものに毎日触れようと思っています。少し暇なときに少し創ってみる、など、ハードルを上げずに少しずつチャレンジしていけばいずれ多くの創作のたねが溜まっていると思うので頑張ってください。
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佳 作 「なかよしクラブ」 山口 莉緒(広島・AICJ高等学校2年生)
床に反射した彫りの深い顔立ち
タイルの隙間を指が這う
生ぬるい風が吹き込んで
地を這う低い声が囁く
皆さん 開会の挨拶をしましょう
無窮動のドレスコード
とっぷり暮れた曇った紺色
ペファークーヘンと化した女たち
うねる廊下が疎ましい
薄い唇を慎重に擦り
生まれ持った毒を拭い取ると
パチパチと弾けた火花に祝われる
合格通知をずっとここで待っているのに
分厚い皮膚が歪むばかりだった
踵も日に日に厚くなり
指だけが細く長いまま
青白いトロフィーを掴むために
精一杯声を張り上げた
偏在する猫の活動写真と
存在を否定された身体が
黙ってこちらを見ている
証明書を発行するのはまた次回にしましょう
時間ならいくらでもあるし
扉については一度も考えたことがない
マークシートと踊った夜
手紙をまさぐる不快な指先
全部無かったことにして俺たちは目くばせ
受賞者コメント
二年連続で賞をいただくことができてとても嬉しいです。昨年の表彰式で熱意を持って詩と向き合っている同年代の方々と交流したことで、より真剣に詩を書き続けてみたいと考えるようになり、応募を決めました。
以前から文学やメディアに見られるジェンダーやクィアの表象に関心があり、自分の詩でも表現を工夫してみたいと考えていました。ミソジニーやホモフォビアを特徴とするホモソーシャルの排他性を書いてみたいと思い、本作品が生まれました。ありふれた言葉から連想し、抽象的な概念を発見することを目指して詩を書くことが多いですが、今回は詩の中心がずれていかないよう意識して創作しました。過度に説明的な表現を切り落としつつ、安定して読みやすい詩を目指すというバランスが難しかったです。難解でない詩を創作していきたいので日常的な言葉やモチーフを詩に取り入れることが多いのですが、本作品では初めて想像上の部屋や人物を具体的に思い浮かべながら創作することができました。
創作活動は自分独自の世界を言葉で自由に表現できるところが魅力的だと感じています。頭の中が整理できずランダムな情報が溢れたままになっていることに悩んでいますが、詩を書いていると思考が研ぎ澄まされて言葉の連なりになっていくのが楽しくて書き続けています。日常をより面白く自由に歪ませてくれるレンズのようなものが詩なのではないかと考えています。
生活の隣に詩の世界があることを発見する手助けになるような詩を書いていきたいです。以前は詩に対して難解なイメージを持っていましたが、書き始めてみると詩の楽しさに気がつくことができました。書き手の価値観や世界観がそのまま反映される詩には正解は無いのだと思います。書き始めたばかりの頃は正解を求めてしまうこともありましたが、詩は自分自身を信じて自由に作り上げていくものだと思います。
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佳 作 「合唱」 西川 まい(東京・白百合学園高等学校2年生)
一斉にすだく蝉の声
あの子が指揮棒を振ったから
そして唐突に静となる
あの子が指揮棒を振ったから
嗚呼 今度は別の声
ソプラノと メゾと アルトがいて
波のように膨らむ音よ
名も知らぬ同胞たちが
たましいを震わせ 「夏」を奏でている
でも一体 誰がその曲を聞こう
雑踏に紛れる
合唱よ
煩く旋回するヘリコプター
騒がしいのは踏み切りか
何処かの工事現場より
頭上にのびる飛行機
車駕のエンジン音
室外機の唸り声
に紛れる
合唱よ
だから わたしたちは行く
あの子がいる場所へ
月はしんしんと輝き
幻のような海鳴り
あなたの衣ずれ
葉が擦れる音
風は清かに
あの子の
遠吠え
一つ
響
ただ静寂に包まれて
そっと瞳を閉じたなら
確かに聞こえる
合唱よ
受賞者コメント
この度は、このような素晴らしい賞に選出していただき本当にありがとうございます。審査員の方々、そして指導してくださった先生方に心から感謝申し上げます。初めて受賞の知らせを聞いたときは、一瞬「まさか」という感情が全身を駆け巡りましたが、すぐに喜びに変わりました。これまで、「誰かの心を動かしたい」という思いで続けてきた創作活動が、やっと一つの実を結んだようで本当に嬉しかったです。今まで私は、詩の創作に対して「よく分からないけれど難しそうだ」というイメージしか持っていませんでした。しかし、こちらのコンテストで「現代詩」という文芸ジャンルを初めて知り、過去作品を見て面白そうだしこれなら書けるかもしれない、と思って応募することにしました。
この詩の題材を思い付いたのは、夏休みに緑の多い土地に行った時のことです。そこでスマホも触らずにぼんやりしていると、蝉や他の生き物たちの声が一斉に静かになる瞬間や、うるさくなる瞬間があることに気付き、驚きました。今まで都会で生活してきて、均一に、ただ事務作業のように響いているだけだと思っていた彼らの声は、実際にはきちんと魂を持ち、合唱を産み出していたのです。そこで私は、都会の喧騒の中には本当の「夏」は存在しないのではないか、と強く感じました。そして、自然が失われていく都市と、それに対する田園地帯での自然の美しさや雄大さを伝えたい!と思いこの詩を創作しました。
工夫したこと、苦労したこと、そして楽しかったことは、言葉選びです。この詩のイメージに合うように、様々な言い回しを調べて取捨選択を行いました。また、読んでも見ても楽しんでもらえるような詩を作ろうと思い、文字の置き方についても工夫しました。特に楽しかったことは、詩にリズムを付ける作業です。読む時にある程度リズム感があった方が楽しいし読みやすいだろうと思い、何度も詩を読み返しながらリズムを作りました。今まで趣味として創作してきた作品が、世間に評価していただけるようなものに成長していたことに気づき、自分の作品に自信を持つことができるようになりました。また、今回頂いた賞を励みにこれからも創作活動に尽力しようと思いました。
創作活動の魅力は自分の新たな発見や感動、考え方を創作物として残すことで、未来で読み返して何度もその発見や感動を追体験できるところです。また、創作物を通して自分の思いを語ることで、希に自分自身も気づいていなかった思いの深層にたどり着いて、新たな自分知ることができるところも魅力です。
ルーティーンと呼べるほどのものはありませんが、とにかく自分が気づいたこと、ハッとしたことや良いなと感じた表現などをメモするようにしています。私自身「創作活動」の定義は曖昧ですが、ポエムでも日記でも何でも良いのでとにかく自分の言葉で文字を連ねることができれば、それはもう創作活動だと思います。ですから、日常でふと感じたことなどを取り零さずに、何か書けそうだと思ったらポエムでも詩でも短歌でも俳句でも川柳でも、ただの一言メモでも残していったら良いと思います。それらがいつか融合して、きっと大きな爆発を起こします。
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佳 作 「空色の夢」 馬場 瑛大(京都府立西城陽高等学校2年生)
六月の朝霧は春の残り香を連れてようよう消えゆく。
缶詰が開かれ、水田鏡に夢を流して孤城へと至る。
壇上の不信。落ちた瞳。薄味の読経。
初夏の熱病にも似た頭痛を抱えたまま緩やかに瞳を閉じる。
さざなみの向こう、無辜のあなたが沈潜している。
あぶくを吐いて、眼を剥いて、うなぞこのあなたへ手を伸ばす。
ただ一面の青。空に気づいてようやく見えた
藍色のしじまに取り残された。私は太陽へ緑色の視線を贈る。
秘事はただ空であった。ひとえに。
近づけば融け堕ちてしまうから。
離れれば凍え飢えてしまうから。
ただ空であった。ひとえに。
二重瞼に想いを馳せつつも、あなたを揮発させる。
うなぞこは泪の色をしていた。
泪はただ空であった。ひとえに。
ただひとつのこった。この景色を。
この星の砂浜と、波うつ向こうの横顔。
このおもいでを、たった一握の記憶を。
私はひとえに噛みしめよう。
ふと、呼び声がした。緩やかに瞳を開ける。
「ああ、全部ゆめだったみたい。
いと切に希えど、ただ空であった。
あおい、あおい、空の空」
この手に残されたものは、空だけだった。
受賞者コメント
文芸関連で賞を頂戴するという経験は初めて故、未だ実感が湧きません。しかし、普段から難解だのなんだのと言われてきた私の作品を評価していただけたと考えれば、喜ばしいと言わざるを得ないでしょう。感謝いたします。
このコンクールには、所属している文芸部の活動実績が悲惨だったが故に応募しました。このまま細々と少ない部費と部員で続けていくこともできましたが、やはりかつての活気ある文芸部の方が好きですので、再興への第一歩を踏み出したというわけでございます。
この詩では誰かを愛することができず、恋すること自体を夢に見ては、空しさに苛まれる学生の心象風景を描いたつもりです。私を投影したというよりも、私が美しいと感じた概念を肉付けして私好みの言葉で飾り付けた詩と言った方が正確でしょう。文芸部の友人の作風に影響を受けて、私にしては珍しく言葉遊びを色々盛り込んでみました。心地よい語感と言葉遊びとの両立には少々苦労しましたが、その試行錯誤の時間はとても楽しく、また一歩私の美的感覚が成長したように感じます。
創作活動の魅力は、自分の美的感覚をより高められる点と、普段見ている世界がより美しく感じられる点です。また、より美しい表現や言葉を求めて知識を探求することにつながる点も、魅力の一つと言えるでしょう。私が創作活動をする際は、観測した心象風景をメモに書き留めておき、それを材料に作品の世界を美しく飾り付けるようにしています。
また、言葉選びにこだわっています。漢字ではなくひらがなで表現した方がより美しく感じる場合もあるので、その際は古語を取り入れたりもしています。余談ですが、古語はひらがな表記が一番美しいと考えています。
これから創作活動を始めてみようとしている方へ、どうか自分の美的感覚は大切にしてください。誰がなんと言おうと、自分が美しいと思うならそれで良いのです。