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  入選
 「咲き残るものたちのために」 照屋 アリサ(神奈川県立川崎高等学校3年)
 「いとこ」 塚越 珠雫(岡山・津山工業高等専門学校1年)
 「風船葛」 泉 まいこ(神奈川県立湘南高等学校1年)
 「私のバッタ」 處 結月香(神奈川・横浜雙葉高等学校3年)
 「苔」 豊田 隼人(東京・国際基督教大学高等学校2年)
 「旱星」 跡部 日南子(神奈川・横浜雙葉高等学校3年)
 「だから差別はいつもある」 蒋 騰(東京・海城高等学校1年)
 「夏の晴れた暑い日が非常によく似合う犬」 渡邉 瑞紀(神奈川・湘南白百合学園高等学校2年)
 「弾丸」 浪花 小槙(東京都立豊多摩高等学校1年)
 「アインシュタインに舌を出す」 薗田 希夢(奈良・西大和学園高等学校1年)

 

入選 「咲き残るものたちのために」  照屋 アリサ(神奈川県立川崎高等学校3年)

春の産声が響きわたる輝かしい天蓋だ。
雲は気怠げにたゆたい、空には無数の涙とダイヤモンドが散りばめられている。
花びらたちはその髪に編み込まれ、あるいはその手首を滑り落ちる。春の風が頬をくすぐり、耳元でささやきかける。
髪は太陽の光を黄金色に変え、紡いだ言葉は花へと零れ落ちる。
つま先で舞う花、泡雪に誘われ伸びる千枝。
春の夜明けの煌めきを超えたその先、それは唇に降り注ぐ陽の光の甘い非難だ。
春、私の胸にある全ての空洞を余すことなく埋めていく。
私は緩やかに横たわり、心は静けさに落ち着く。陽光に逆らうような瞬きは漂う柔らかい花びらを一瞥する。そうして歯と舌との間で、言葉を持たない旋律がナンセンスな戯言へと変じていくのを覚える。
この芽吹いた春のために。このそよめく風を、限りなく薄く儚い春の夢を優しく愛撫するために。
なによりも深い季節、それはあなたのその名に違いない。

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入選 「いとこ」 塚越 珠雫(岡山・津山工業高等専門学校1年)

もみじのようなあの子の手
ドキドキしながらつなぐ
始めは嫌だと拒絶され
悲しい気持ちを隠して笑う

もみじのようなあの子の手
はなれぬようにとつなぐ
戸惑いはにかんだ
つられて私もはにかんで

もみじのようなあの子の手
何にもないけど握る
ぎゅっとしっかり返された
自然な笑顔で笑いあい

大きくなってくあの子の手
そろそろ握ってくれなくて
握らなくても笑いあい
嬉しさ悲しさ混ざりあい

大きくなってくあの子の手
会うことすらも少なくなって
それでも楽しく笑いあい
悲しい気持ちは出せなくて

離れていったよ 私から
新しい友達増えたらしい
それはとっても嬉しいのに
また隣で笑って欲しくて

逞しくなったあの子
隣にきてくれて
満面の笑みで笑ってくれる
その役私のものだったのにな

同じになったの いつのまに
自然な笑顔で笑いあい
あのころがなつかしいね
大きくなってくれてありがとう

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入選 「風船葛」 泉 まいこ(神奈川県立湘南高等学校1年)

パチンッと弾ける瞬間が
僕はとっても好きでした
いえ今でも大好きです
道端で君に会えた日は
たまらずワクワクするのです

プクッと膨らむうす緑
いつも思わず手を伸ばし
ふっと優しく押してみて
これくらいじゃあ割れないか
じゃあもう少しとするのです
そしてパチンッとするときに
心がニコってするんです

茶色い君を見つけたら
いつも思わず手を伸ばし
ふっと優しく押してみて
するとクシャッと音を立て
ハラハラ細かく舞うのです

中から出てくる黒曜の
小さな小さな命には
知らない明日がつまってて
ハートの印を見つめたら
誰が描いたのだろうかと
思考をめぐらし立ち止まる

なんてころを思い出す
ちょっぴり冷えた昼下がり
道端でまた君に会う

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入選  「私のバッタ」 處 結月香(神奈川・横浜雙葉高等学校3年)

あたしのバッタ
緑のバッタ
学校の授業で捕まえて
河原から家にやってきた

あたしのバッタ
緑のバッタ
パパが種類を教えてくれたけど
なんだかもう忘れちゃった

あたしのバッタ
緑のバッタ
葉っぱをあげるのが私の仕事
学校の帰り道で探してくるの

あたしのバッタ
緑のバッタ
最近はママが葉っぱをあげてくれる
⼤きくなって虫かごじゃ苦しそう

あたしのバッタ
緑のバッタ
久しぶりに葉っぱをあげようとしたら
虫かごから元気よく飛び出した

あたしのバッタ
緑のバッタ
どこを探しても⾒つからない
お母さんはまだ探している

私のバッタ
茶⾊のバッタ
もうすっかり忘れてしまった頃に
テレビの後ろで死んでいた

なんだかとても恐ろしい気がして
触るのすらままならなくて
ティッシュで摘んでそっと地面に置いた

電線にとまっている鴉と目があった

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入選 「苔」 豊田 隼人(東京・国際基督教大学高等学校2年)

苔むしています
この世界は
もちろん
胞子を飛ばして
膨らんでいるのです
楽しくなって
嘘を妊娠しました
すっとぼけてはいません
気になっています
コーヒーのにおいは
ふつうなんだと
ストローで
吹きつけています
水道水は
カルキを抜くと
異常なにおいを
のばらせることに
苔むして
胞子を飛ばして
惚れこんでいます
苔は
わたしの所有です

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入選 「旱星」 跡部 日南子(神奈川・横浜雙葉高等学校3年)

また来てね、いつもの言葉
気付けなかった、気付くはずがなかった、
「また」なんてないことに・・・
小さな手に刻まれた105年の温かく深い皺

 

一向に落ちることのない食欲、
如才無い受け答え、
不死身であると言わんばかり
これぞまさに不滅の老婆

それでも、やはり自然の摂理は
彼女を例外にはしない
小さな背中はあっという間に星になった

早く迎えが来ないかねぇ、
冗談めかして言っていたけれど
八の字の眉で何を見ていたの

曾祖母が過ごした小さな世界は
一瞬にして更地になった
家々が軒を連ねる中
唯一ぽっかり空いた穴

見ず知らずの家族が
真っ白なこの更地から
新品の物語を紡ぎ始める

おばあちゃんの生は
おばあちゃんの暮らしは
おばあちゃんの愛した私は幻想か?

また来てね、その言葉
ぼわんぼわんと耳を包む

しばらくいかないよ、まだ18だよ(笑)
ぽつりと呟いてみる

純白で空っぽの体の代わりに
抱き締めるシオンの花

 

旱星がひとつ。

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入選 「だから差別はいつもある」 蒋 騰(東京・海城高等学校1年)

それは喩えるならば、街の隕石となって雲が巨体を落とすような日に、
僕は君との間に壁があるのだと気づいた
いや僕の五感に壁はないんだけど、でも確かに指先と目先には冷たく濡れた壁があるだろう
それはおそらく君にはくっきり見えていて
壁の向こうは眼に怒りが宿るような重たい暗黒なんだろうね──そして邪悪だ
僕の目には胸全体がきゅうっと澄んでいくくらいの群青世界が広がるけれど
君にはそれが憎たらしくてたまらない──例えば僕なんてさぞ、劣悪非道な悪魔にでも見えるのだろう
その向こうを破壊したくてたまらない──例えば僕なんてきっと、格好の敵だろう
見ている世界が違うんだから──真実が一つなわけが無いし!
そりゃ君は僕を殴るし、僕も訳もわからずも応戦したよ
足元を流れる血は匂いも味もしない気持ち悪いものだった
でも君には壁が見えているらしいから
恨むわけにはいかないな
端から見ている人はみんな僕の味方をしているけど
僕は君の味方をするよ──悪魔が君の敵だったらば、悪魔はさらに悪魔だろうし
だから殴らないでよお願い
結構こっちも痛いんだ
みんなは君の目が囚われてばっかで不自由だとか言うけれど僕は僕の目もまた不自由だと知っている
でも壁に区切られた君の側からは僕すらまともに見えないだろう
僕はそれが苦しいし恨めしいけど
君が壁の向こう側の悪魔と戦わなくてはいけないと知って
どうすればいいか分からなくなったよ
君は「僕」という壁の向こうの怪物と戦っていて
実に正義漢らしい声を張りあげている
でも僕からは君との間に澄んだ空気しかないように感じられて
もっと近づこうだなんて思ったよ
──しかしどこに居ても壁はあるし、それらは僕と君にはどうしようもできない壁だ。君にしか見えない悪夢なのだから
いっそどこかの雲が
隕石となって僕ら全員を
壁ごと吹き飛ばしてくれないか
清々しい青空だけを見せてくれないか
そうも思うけど壁はいつも君の目の前にあって僕らを隔たり、
僕の目の前にはいつも──── 
   何も見えない

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入選 「夏の晴れた暑い日が非常によく似合う犬」 渡邉 瑞紀(神奈川・湘南白百合学園高等学校2年)

黒光りするアスファルト
ぺらぺらの草
その横に犬

ジリジリビービーいう蝉の音
太陽の熱烈な視線
その先に犬

のっぺりした水色の空
立体構造の雲
その下に犬

ボロボロのオゾン層
青く燃える地球
その中に犬

冷たくてでかくて寂しい銀河
その真ん中に1匹
わくわくしている犬

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入選 「弾丸」 浪花 小槙(東京都立豊多摩高等学校1年)

恋愛の、好きの気持ちは弾丸だから
ガトリング銃に詰めて
あなたに打ち込んでる
いくらぶっ放しても犯罪にはならなくない?

恋愛の、好きの気持ちは弾丸だから
告白は発砲みたいなものだと、思う危険が伴うし
どちらが怪我をするかは分からないよね

恋愛の、好きの気持ちは弾丸だから
いつも満身創痍だ、望んじゃいない言葉で
あいつもこいつも自分勝手で
人の気持ちを考えちゃいない!

恋愛の、好きの気持ちは弾丸だから
自分自身が鉄砲玉になってる
全身で君が好きだから
発砲されたら捨て身でいくよ

恋愛の、好きの気持ちは弾丸だから
両思いも
パートナーの存在も含めて
恋の成立は何かのバグでしょ

恋愛の、好きの気持ちは弾丸だから
好きって言われると
どこか裏切られた気持ちになる
友達だと思ってたのに

恋愛の、好きの気持ちは弾丸だから
好きな気持ちが増えないかぎり
打てば打つほど残りは減ってく
いつまでも狙われてると思うなよ

恋愛の、好きの気持ちは弾丸だから?

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入選 「アインシュタインに舌を出す」 薗田 希夢(奈良・西大和学園高等学校1年)

3分早く目を覚ます

目覚まし時計はまだ後で
二度寝するには短いし
3分早く起き上がる

天気予報はしてないけど
3分早く飯を食う

早く行く用事はないけれど
3分早く支度をし
3分早く家をでる

いつもの人には会わないし
いつもの電車じゃないけれど
3分早い電車に乗る

3分早い僕が
3分早いここにいる

3分早い
世界が、時が
僕を包み込み、抱く

3分未来を生きてるし
3分過去を生きている僕は
時のあたたかさのまどろみのなかで
気づくが遅く、とうの昔に
小学生になっていた

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