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 佳作
「うらがわ」  田野 美珠稀(神奈川県立川崎高等学校2年)
「言葉と、それから」  髙橋 尚暉(群馬・東京農業大学第二高等学校2年)
「ハモニカ横丁」  髙橋 理生(東京・開成高等学校2年)
「アニモ」  浅見 亮太(東京・麻布高等学校2年)
「あなたと出会ってこの世界が少しだけ変わった。」 関野 実優(神奈川県立麻生高等学校1年)

 

佳 作 「うらがわ」  田野 美珠稀(神奈川県立川崎高等学校2年)

足もとをみると、たくさんの小石が
こつこつと黒くひかっている
いっぽまた歩けば、がりんと響く
小石をければ、カツンコツンと転がって
もいちどけろうとしたら、小石は夜にとけていった

どこかでねこが、みあぉと鳴いた
どこにいるの、と問うとまたみあぉと鳴いた
暗い道を右に曲がると
ひかる小さなビー玉が二つ
わたしはわうと鳴いたら
ビー玉もみあぉと鳴いた
もいちどわうと鳴いたら、ビー玉は夜にきえていく

玄関のよこのライトがぽんとひかる
かぎを回せば、ガチャンと大きな音がした
もういっちゃうのと風がふいた
わたしに向かって、風がふいた
わたしは風とゆびきりして
ゆびきりした風はわたしをなでて、夜にすぎていった

わたしはベットにぼすんとおちる
窓にはたくさんの星がきらめいていた
ねえ、わたしがあなただったら、そんなに輝ける
ねえ、あなたがわたしだったら、こんなに下を向ける
いまだけ、わたしも星になれた気がした
とくんと生きるむねに手をあてて、わたしは夜に目をとじた

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佳 作 「言葉と、それから」 髙橋 尚暉(群馬・東京農業大学第二高等学校2年)

言葉の際限はすぐそこにあった
誰かが吐いた悲しみの上に落ちた雪
あの人だと見立てた月の裏側
それから、ぼく

言葉の端を指で摘まみ
闘牛士のまねをする
ひらひらと薄い言葉
君は振り返らない

どうか言葉がただ言葉でありますように
死人の上に雪が降りませんように

言葉の隣には君が立っていた
少女の血脈をたどる涙
幸せが僕たちの文脈を燃やして
それから、消える

何ページもついやした独白
最後の一行は空白のままで揺れる
空を割った飛行機雲がいつまでも
僕と君の境界線だったみたい

風が運んだ午後二時のささやき
「あの鉛筆は少女の夢に湛えられた聲の塊」
言葉の羽を蘇生する未肌の衝撃と鬱くしさ
それからー

くびったけ遊戯とレファレンス
苦のオーソリティに侵食され細駅へと至る病
なまめかしく捨てられた言葉と、それから

夜のプールみたいに冷たくて
放課後の教室みたいに寂しくて
あの人と同じバス停みたいにやさしい

せめてこの詩だけは詩でありますように
死人の上に雪が降りませんように

それから、そして、それからも

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佳 作 「ハモニカ横丁」 髙橋 理生(東京・開成高等学校2年)

例えば町の隙間に挟まれた栞
よろしく17音 伝承の蛙
例えば星屑に絡みついた祈り
どこまでも静かにかわるがわる

埃を被った機械的な木漏れ日は
無意識に夏を反射して
今日も不安定に零した誘惑は
アスファルトの隙間から宇宙を形作る

あのハーメルンの伝説の如く
足元のマンホールを気配が彩る
孤独の旅路をはぐれて漂う
死に際の蝶のように踊る

確かに宇宙から滴った旋律
さながら魔法にかかった雑木林
コンクリートジャングルに抗い続けた迷路は
ドブネズミの夢の跡
隙間風の物語

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佳 作 「アニモ」 浅見 亮太(東京・麻布高等学校2年)

あの子の名前はアニモ
血に汚れた足は弱々しく
上半身を運んでいる
痛々しいあの子の腹部からは
なまめかしく存在する臓器が顔を覗かせ
太陽に反射して魚鱗のように光っている
石ころに躓き、あの子は前に倒れた
ごつごつしたアスファルトの上に
あの子の血液が染みわたる
誰かがアニモに言った
「そこにいるのはあぶない
 車が来たら轢かれてしまう
 ほら、どこかへお行き」
笑顔でその人は去っていった
アニモは立ち上がらなかった
この子は耳をどこかに忘れて来ていた
「そうか、あの子は腹を痛めているから
 立ち上がることが出来ないんだ
 仕方ない、私が助けてあげよう」
私はアニモに近寄った
そしてこの子の両手を持って
ぐいっと身体を引き上げた
再びこの子の臓器が露出する
煌びやかに光り輝くそれらには
誰もが羨む美しさがあった
夕立が降れば、何もかも流れ去るだろう
この子はまたどこかへ進んでいける
私は安心して、アニモのそばを離れて
一般人の群れへと戻った
そこではみんなが笑顔で
アニモが無事でよかった、よかったって
なかには涙を流す人もいるものだから
私、照れ臭くなって頬を赤らめました
アニモを助けてくれてありがとうって言われて
嬉しい気分になって、ああ、やっぱり
人助けっていいものだなって、感じました
アニモはきっとまたどこかへ進んでいきます
私、アニモの行く先が心配なので
見守っていてあげようと思います
光る画面を通していつまでも……

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佳 作 「あなたと出会ってこの世界が少しだけ変わった。」関野 実優(神奈川県立麻生高等学校1年)

先生と話した日の帰り。

あんまり行ったことのないコンビニに寄った。
いつも食べてるお菓子も、新作のを買った。
いつもと違う味を買った。

食べたかったハッシュドポテトがなかったから、チキンを買った。
美味しかった。
一人で食べながら歩くなんて、変かな。
肉汁が溢れて火傷をした。
でも美味しかった。
一口が大きすぎたかな、
ちょっと見られた。
あなたも食べたくなったのかしら。

ご時世でつけてるマスクをすると、吐く息がチキンの香り。
それよりも暖かくて、なんだか心地よくなった。

バスを逃した。
思いっきり横を通過して行った。
走っても間に合う気がしなかったので、いや、初めから諦めてた。気にしない。
あと十分もすれば来る。
ゆっくり食べれたんだからいい。

夕暮れなんてものじゃない。
とっくに辺りは暗い。
あなたは遅くなっちゃって平気かな、
でもたまには暗い中帰るのもいいよね。
車のライトが眩しいほど光っている。

アルバムに入っていたあまり聴かない曲をかけた。
案外気に入った。

買った飴、コーラだと思ってたら
&レモンだった。
でも美味しかった。
普段レモンなんて食べないけれど、案外美味しいのかもしれない。
唐揚げにかけるレモンを思い出した。

バスに乗って座ろうとしたら、空のペットボトルが落ちた。
拾おうとしたら、阻止するように避けられた。
なぜか別の人の方には転がっていく。
全く!
座っていた人が拾おうとしてくれた。

駅に着くと人が案外居た。
すっかり暗くなった駅。
五分後発の各駅停車に乗った。
こっから、あと一時間か。

今日はスーパームーン。
次回はその先、十何年後。
んー。見れたらみよう。観れたら。

涼しい風の吹く宵。
うとうと眠くなってくる瞼。

今日ぐらいはスカートを短くして帰ろうか。
やっぱ辞めておこう。
似合わないことはしない方がいいわね。
でもたまにはこういう日も、いいかな。

「はあー、喉乾いた。」

と疲れたように一人で話したけれど、今日だけは独りじゃない気がした。

お茶会は長くて早いよう、
喝采でも聴いて帰ろう。

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