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【 最優秀賞 】

「ねじねじおじさん」 浜田 桃実(福岡・久留米大学附設高等学校2年)

ないちゃいそうなときはね
といれのなかでなみだがぽたぽたおちるのがまんするの
あめがふっててうれしかったからままとおいかけっこしたんだ
ままにすごいとこみせたくていっしょうけんめいはしったら
ままに
みえないところまでいっちゃだめでしょ! !
っておこられたの
そんなつもりなかったのに
びっくりしてないちゃったらままはぎゅっとだきしめてくれた
でもおうちにかえったらまたかなしくなっちゃった
なかなおりしたのにまたないちゃったらだめだから
といれのなかでぽたぽたなみだをがまんするの
めのまえがぼやぼやになっちゃっててんじょうをぎゅっとにらんでたら
ねじねじおじさんがひらひらおどってたの
それをみたらうれしくなってぽたぽたなみだがぴたっととまったの
もっかいうえをみあげたら
ねじねじおじさんはただのねじとはがれかけちゃったかべがみのはしになってた

泣きそうなときは
トイレに入ってなみだがあふれそうになるのをぐっとこらえる
今日いつも仲良しのゆうちゃんがいきなり話してくれなくなった
しゃべりかけると聞こえなかったって風にすっとちがうところへ行って
そのときわざとちょっとだけほくそ笑む
わたしはくやしくてゆうちゃんの前じゃ絶対泣くもんかと思った
家に着くまでちゃんと我まんした
玄関のドアを開けたらちょっとなみだが出てきたから
ママに顔を見られないように急いでトイレに入った
トイレに入ったらすぐに目の前がぼやぼやしちゃって
ぼやぼやが流れきるまでずっと上を向いてねじねじおじさんを見つめてた
もうねじねじおじさんはネジじゃなくてクギだってことも
おどって見えるのは光のくっ折のせいだってのも知ってるけど
ねじねじおじさんを見てると心がだんだん落ち着いてくる

泣いてしまいそうなときは
トイレに籠もって涙が零れそうになるのを堪える
深夜3時まで勉強したのにテストで平均点が取れなくて
部長として頑張ってもやること成すこと空回りしている気がして
大好きな友達にそんなに大切にされていないことに気付いて
こんな私に意味などあるのだろうかと
夕飯の皿を下げているときにふと考えてしまった
慌ててトイレに駆け込んで顔に跡が付かないようにと天井を見上げる
見えたのは涙越しに揺れ動く釘と剥がれかけた壁紙の端だけ
私の意味は私が決めると涙を拭ってドアを開けた

受賞者コメント

まさか私がこのような賞を頂けるとは夢にも思ってもおらず、数日経っても未だに実感が湧きません。受賞したと聞いたときは手の震えが止まりませんでした。過去の現代詩の最優秀賞作品はどれも本当に本当に素晴らしい詩で、私の作品がそれらと同じ賞を頂けるなんて光栄の至りです。今後もさらに表現したいことを詩にできるよう精進して参ります。
部活の顧問の先生による紹介で応募しました。応募するきっかけを作ってくださった先生には感謝です。この詩は徹夜明けの朝に頭に浮かんできました。2週間くらい何を書こうかテーマを考えていてもずっと何も思い浮かばなかったのですが、思いついたら数分で大筋があっという間にでき、面白いように筆が進みました。筆が進んで詩がどんどん形作られていくことにワクワクしていました。工夫した点は表記と語尾によって成長を暗に示すことです。使う漢字もこれは何年生に習う感じだから平仮名にしておこう、と一文字一文字調べました。幼少期から思春期への美しくも苦しい葛藤、瑞々しい各々の時期特有の悩みを切り取ってそのまま表現することにこだわりました。
この詩を作ったとき、私は新型コロナに罹っていて2,3週間ほど家の一部屋に隔離されており不安に押し潰されそうでした。そんな憂鬱な気持ちを抱きつつも希望を持って前を向こうという気持ちを託したのがこの詩です。この詩はコロナになっていなければ決してできなかったもので、人生とは何が何に繋がるか分からない人間万事塞翁が馬だなあと実感しました。もしとても辛いことがあっても、もしかしたらそれが今後いいことに繋がるかもしれないと思えるようになったことがこの詩を通して最も成長したことです。
将来は、言語学に関係するお仕事に就きたいです。私は身近なテーマや自分が経験したことがあるテーマばかりを書いていて、想像して書くことを敬遠しがちで、今後はSFっぽいジャンルの詩や抽象的なテーマの詩を書いてみようと思っています。詩を書いてみたいと思っている人へのアドバイスは、独り言やツイートのような気軽な気持ちで短い文からでも何かを書いてみるといいかなと思います。そして一語一語が持つ意味、ニュアンス、与える印象を大切にすると詩を書くことがもっと楽しくなるんじゃないかな、と思っています。皆さん詩をもっと身近に感じて気軽に書いてみてください!

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