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  佳作
 「燭光」 中園 光 (東京・渋谷教育学園渋谷高校3年)
 「dream」 草加 修宏 (岡山・津山工業高等専門学校3年)
 「火花と水風船」 今村 瞳子 (神奈川・湘南白百合学園高校2年)
 「世紀末と糸電話」 小島 若菜 (神奈川・相模向陽館高校1年)
 「髪素麺」 増田 涼子 (大阪・北野高校1年)

 

佳 作 「燭光」 中園 光(東京・渋谷教育学園渋谷高等学校3年)

わたしは小さく息を吐いた
窓辺の小さな月明かり
ガラス瓶に詰められた宝石の
薄ぼんやりした光が
ばらばらと床にうつっていて
あか、あお、みどり
ひそりとした夜の楽しみ
あか
ふたりで帰った夕暮れの空
ひとりで見るより何倍も綺麗で
あお
ゆれる波に体をゆだねて
きらきら弾ける笑い声
眩しいなあ
みどり
呪文のように退屈な授業
頬杖をついて窓の外
さわさわと揺れる木々のきらめき
幸せだなあ
生きてるなあ
そんなことを思った遠い日の思い出
ずっとずっと見てられる
幸福なだけの記憶
時折からんと瓶を動かし
そこにあることを確認する
ひた、ひた、ひた
つめたい足音
わたしは瓶を抱きしめて
おーい、おーい
息を殺した
ぴたり
ドンドンドンドンドン
からん、ころん
手のひらの中の確かなおもみ
からん、ころん
からん、ころん

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佳 作 「dream」 草加 修宏(岡山・津山工業高等専門学校3年)

起きたら隣で、「おはよう」て言ってくれる
僕もおはようと返す、そしたら、君はニッコ、笑う
いつも心癒されて、一日が始まる
布団からでると、コーヒーを入れてくれている
少し甘めのミルクコーヒー
それを飲みながら、朝食を食べて仕事に行く
昼食には、愛妻弁当を食べる
僕の好きな、からあげ、タコさんウインナー、焼きそば
口いっぱいに頬張る。また、午後も頑張って仕事をする
仕事が片付いて、何を買って帰ろうか
ケーキがいいかな、それとも・・・
いろんなことを考えながら、帰る
家に帰ると君が待っている
おかえりなさい・・・
ご飯を食べる
お風呂に入って
布団に入って
寝る
これは「ドリーム」だったのか
そうであるのであれば、さめないでほしい
あたたかい気分でいたい
もう dream に戻ることはできないのだろうか
もう戻ることなんて、できないのか
本当に夢に戻ることはできるのではないのか
「はっ」て目が覚める
起きてみたら、僕は青ざめた顔でいた
なぜなのかわからない
そして、「おはよう」て言うんだ、僕は

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佳 作 「火花と水風船」 今村 瞳子(神奈川・湘南白百合学園高等学校2年) 

しゃがんでうっすいビニールプールを眺める
君の耳がよく見えた
加虐性を初めて手にした君が
夏の夜の熱気に打たれて磨かれていくさまを
となりで見る時間は好きだった
浴衣着てたね、似合ってたよ
手首の水風船が間の抜けた音を立てた
それは君みたいに生ぬるくて詰めが甘い音で
なんだか昔の君の腕をつかまえたような気がした
水風船じゃなくてあたしなら
生卵をぶつけるな
あんなしゃばしゃばな中身じゃないんだ
トイレに流せないくらいじくじく熟れたたしかな生が
あたしのなかにはあるんだよな
なにしろ有精卵のくせして
だんまり決め込んでるから手がかかる
君の中に育つ激情の芽を摘み取って摘み取って
結局それはあたしの自己満足にすぎなかった
けれども
そのぶん染み込んだあたしのなかに潜むなにかが
徐々にあたしをむしばんでいくのだ
やがてくらやみの蝿を殺す君が脱皮しつつあるのを
わかっていてとなりで眺める幸福
君のえくぼの位置なんか目をつむってても
当てられるんだから
よりかかるあたしと火花を紡ぐ君の間で水風
船が爆破して
ブルーとイエロー、ピンクが夜空に咲いたなら
ふたりで終わりのこない夢をみるのさ
ぶつけた黄身が帯を伝っても
きっと君の人生にしてね
漂白したりなんかしないで
あたしと生きてよ

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佳 作 「世紀末と糸電話」 小島 若菜(神奈川県立相模向陽館高等学校1年)

君が勉強机の引き出しを開けたとき
中身は僕なんかより綺麗な二十一世紀だったので
僕はその中で死んでやりたいと思う
少し背伸びした優しさが
僕をプスプスと刺してくるけど
君はどうにもできないらしいので
やっぱり僕がタイムマシンに乗り込むのだ
あの頃はずっと一緒だと思っていたから
卒アルの寄せ書きは原始の古書店へ売ってしまいました
行き先をどうすればいいのかわからないので
土星の輪っかのお母さんに電話して
「僕ですが、お元気ですか?」
と聞いたのだけれど
「どちら様ですか?」
と心底不思議そうに返されてしまった
覚えていないのですか
そう言おうと思っていたら
既に充電が切れていたのでおしまい
二十一世紀から君が手を伸ばしてくるけど
君の手を掴みたくはないから
今から丁度数分前に戻って
君の勉強机の引き出しの中で死んでやろうと思う

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佳 作 「髪素麺」 増田 涼子(大阪府立北野高等学校1年)

呼吸がようやく整ってきた2車両目

背が痛み重い目が上がる

斜め右に座るおじさんの銀髪に、光の斜線

が整列している

わづかにきらめき、あとは白

日の光をふくんで透けるそれは、素麺

準急が河にさしかかったとき

水面ではぜる跳ねる光の粒達に向かって

素麺は流れ出したのだ!

刹那のうちにどどるるると沸いて

河を喰らいつくしてうねり

街に襲いかかってまわりこみ

私さえのみこんでくれる

強い強い、つよい白銀の中で私

背中から静かに消し溶ける・・・

準急は止まり、呆けたままの時は動き出す

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