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優秀賞 
  「あの瞬間の、藍。」 飯野 理奈子 (山梨・甲府第一高校3年)
  「ある夏にこころの観察」 岡田 奈美(東京・東京大学教育学部附属中等教育学校5年)

 

優秀賞 「あの瞬間の、藍。」 飯野 理奈子(山梨県立甲府第一高等学校3年)

「またね」と、目と目が一直線になる
その瞬間にシャッターを切った
なんとなく、なんとなく、ね
空がぼおっと眺めていた
あの瞬間の、藍。
紺青をベタ塗りにして
街灯のオレンジを油に溶いた
嗚呼、オレンジが滲んでしまった
嗚呼、とうに忘れてしまった
ぷっくりした涙袋の目は藍色だったよね
どの藍色だったかは私だけが知っている
迷うことなく手を伸ばして
捻った目の色にテレピンを注した
溶け合った透明色は
今、この今までも透けていく
溶きすぎた藍色は頬をゆっくり伝って
ぽたんと宙に消えていった
生暖かくて悲しくて
冷たくなって寂しくなった
もう一度、もう一度、だけ
溶かせてほしい、溶かせてほしい
記憶の色もグレーズされて
藍色だけがリマインダー
嗚呼、色づくことはもうないのか
嗚呼、弾けることはもうないのか
空を見上げて目を閉じて
ぴったり合わせた手のひらと
大三角に花束を
「じゃあね」と、ファインダーを覗く
その瞬間にシャッターを切った
信じてる、信じてるから、ね
空がひしとこちらを見ていた
あの瞬間の、藍。

受賞者コメント

賞を頂けるとは思っていなかったので嬉しいです。自分の作品に少し自信がついたので良かったです。ありがとうございます。
私は、美術部にも所属していて、アートと詩を融合させた作品をつくっています。今回の作品もそのために書いたものです。詩が美術作品のパネルの上だけでなく、本来の詩の形として紙上に表現したものも評価されてみたいと思い、今回応募しました。
この作品を制作する中で、表現したいものの情景を頭にうかべて、細かな動きも想定しながら、それを一つ一つ言葉にすることを心がけました。誰かに読んでもらうことを意識し、わかりづらい文になりすぎないように何度も推敲したのが一番大変でした。
卒業後は、デザインが学べる大学に進学したいです。これからも詩をつくり続けたいです。また、本を読んで、自分の語いや表現を高めたいです。
後輩にも積極的に作品をつくっていってほしいです。

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優秀賞 「ある夏にこころの観察」 岡田 奈美(東京・東京大学教育学部附属中等教育学校5年)

髪を切って美容院を出たら
芸能人の悲しいニュースが
端末いっぱいを占めていて
線路沿いの路を踏みしめて
ぼくは彼の悲しみを考える
悲しみを量ることは難しい
……………………………………
難しい何て難しいのだろう
こころは指の間をさらさら
砂か泥のようにすり抜ける
悲しみはなかでも目立って
どろりと、暗く染め上げる
何ものも勝てない黒の色だ
毛細血管空へ伸ばした両手
何かを掴もうと伸ばした其
伸びてはひしゃげまたまた
どろりと砂を溶かして墨液
墨?液?是は首を伝う冷汗
無防備を得たばかりの項へ
風が吹いてなんだか乾いた
ああ、
髪を切っておいてよかった

受賞者コメント

優秀賞を受賞して嬉しいです。私が書いた中でもこれは特に暗い感情を込めたものです。人の負の感情には底知れぬパワーがあるなと感じます。
この作品は、とある悲しいニュースを聞いた日に、知らない感触がしたので記録を取っておこうと思い書き始めました。納得のいく形にできるまでに1ヶ月以上かかりました。
また、作品を制作する中で、明るい楽しい詩ではないので沈んだ気分にはなりましたが、苦しさはなかったと思います。印刷した時の見た目がきれいになるようにがんばりました。
今後は、文学にしろ音楽にしろ、なにか作品の糧となることがしたいです。
音にした時の印象を大事にして創作したい。音と形と言葉と、もっとたくさんの角度から表現できるのではと思います。

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