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【 最優秀賞 】

「尋常の季節」  熊谷 滋(埼玉県立大宮高等学校 1年)

夏休みが来ましたね、って、魚に言われないとわたしは気づけなかった
二時間ちょっと勉強をして、ひたすらに偉くなったわたしは
ときどき川をおよぐ およいだあとは決まって片腕をパンくずのように
ちぎっては
それに唐辛子をまぜて魚たちの泣き顔をさそうのですが(これって恋で
しょうか!)
わたしってまだ右脳派で、辞書にはなにも文字が書き込まれていません
( 蝉、じりじりと、言うね うるさいね。光って暑くって体が変形して
ゆくゆく抜け殻のように
  なって、うん それがほんとうのわたしだったんだよってかさばる言
い訳、が
  かってに足を生やして川を下っていった蝉がうるさい、季節は科学で
誤魔化すことが可能な世界です)
川をおよぐと、昔好きだった人に、会うね (唐辛子がもうない)アイ
ス をとりだして
お前も、けっきょくはこれだろうそうだ、ろうアイスを とかしたい 
のだろう と吐き捨て魚を愛でる
海馬のうえにまたがり、はしってゆくひとかげ、
あのころからずっとかわらない死体がわたしのからだにはぽつんとうか
んでいて
70%のえきたいを湛えていますが それは命の証明ではなく まだ
さみしそうで こちらもかなしく
 あの、
わたしは愛せますよ
あいせ、愛せま、愛せまメン ヘラメンヘラですがヘラってますが人並
みに
他人を愛する能力があ、
あるのですよ(おまえにはないのだろうけど)
あるのですよ(おまえにはないのだろうけど)

叫ぶと、騒音だと、もうすでに録音はしてあると、警察に突き出してこ

から追い出してやるぞと隣人に怒鳴られ、わたしはその意見をもっとも
だと思いました
とくに平日の昼間の音がうるさいそうで、
わたしはそのために学校を休み、音の出ないようずっとこの部屋を監視
していた
隣の家の人のことを思うととちゅう怖くて怖くて泣いてしまって、
そのためにこんどは水漏れがひどいと下の階から苦情がきて、わたしは
また監視を強化する
   ことば
畳の上で這いまわっていて、肌が赤くなっていく(恋でしょうか!)わ
たしは
意外と敏感肌で、アレルギーもあるのでかみさまには向いていない体質
です
ことばを吐き出そうとすると(扇風機から出るくしゃみのように!)喉
で過剰な拒絶が起きるので
3歳の時から、殴ることでしか人を傷つけられなかった
処女のままこどもうみたいな♪
わたし、れんあいが嫌だから処女のままこどもを産みたいんだけど、む
りだよって わたし
コウノトリと、タイマン勝負して、死にかけ
たすけてください、どなたか
(あいさないでいいのでなつやすみのばしてください)
のばしてください、どなたか
あー、話が長い女って、嫌ですか……(そのうえちみどろなんです)

受賞者コメント

まさか自分の作品が…と、恐れ多いながらもとても嬉しい気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました!
「尋常」という言葉は昔は「ごくありふれた様」などの意味で使われてきましたが、現代では「尋常でない」という否定形や「いざ尋常に勝負」といったタイミングでしか使われません。普段私たちが記号として扱う言葉でさえその意味は目まぐるしく変化します。今回はその「尋常」という言葉をテーマにし、「尋常」と「尋常でない」の間でさまよいつづける私たち思春期の懊悩に、それこそ「いざ尋常に勝負」という風に誠実に向き合いたいと思い制作しました。
その中で、なるべく冗長にならないように書いていくのがとても大変でした。ただ自分の作風はどうしても冗長になりがちだったので、音韻や漢字の開く/開かない、口調のどもらせ方など、無理矢理相手に読ませきるような勢いを意識して作りました。
今後の課題は、やはりもう少し切り詰められるところがあったと思います。論理と感情のバランスをとっていくことが大事なように思いました。
みんな詩をかこう!

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