私たちの暮らしをがらりと変えたコロナ禍や、年始に起きた能登半島地震。これらの出来事は、社会学部の学びにどんな影響を与えたのだろう。一橋大学社会学部長の秋山晋吾先生に聞いた。(野口涼)

歴史からスポーツまで幅広く研究

―社会学部のゼミではどんなことを学びますか? 一橋大学を例に教えてください。

社会学部の授業やゼミは4つの分野に分かれていますが、例えば、「東ヨーロッパ史」を専門にしている私のゼミは、歴史や哲学などを扱う「歴史社会文化研究」に属しています。東ヨーロッパの移民の問題、被差別民族の問題、身分制の構造などの歴史を切り口に研究しています。高校生の皆さんに身近なところでは「ミステリー小説から見る19~20世紀のヨーロッパ社会」というテーマで卒業論文を執筆した学生もいました。

また、同じ歴史学でも「朝鮮近現代史」が専門の加藤圭木先生のゼミでは、日本の朝鮮植民地支配が現在に及ぼす影響を研究しています。韓国などでフィールドワークを行ったり、この春には、観光を通じて歴史を学べる『大学生が推す深堀りソウルガイド』(大月書店)をゼミの学生たち自身が企画出版したりしました。

加藤先生のゼミで出版した『大学生が推す深堀りソウルガイド』

スポーツ社会学を専門とする鈴木直文先生のゼミでは、スポーツを通じた社会変革について学んでいます。学生たちはさまざまな社会的困難を抱えた人たちを支援するサッカープログラムの企画・運営などに参加し、不平等や差別のない社会づくりを実践的に学んでいます。

堂免先生のゼミで行ったフィールドワーク

都市政策や地域政策を研究する堂免(どうめん)隆浩先生のゼミでは、都市の再生、コミュニティの活性化、地方創生などを研究しています。学生たちは街に出かけ、日常では見逃してしまうような問題を探すフィールドワークを行います。問題が生じる原因を考察し、克服方法について学んでいきます。

災害は社会研究にとって大きなテーマ

―コロナ禍や能登半島地震などの出来事は、社会学部の学びにどんな影響を与えましたか?

コロナ禍に対する学生たちの関心は高く、「新型コロナウイルス感染拡大への人々の反応に関する一考察」「COVID-19 が移民統合に与えた影響」といったテーマに取り組んだ授業レポートも多くありました。歴史学では、コロナ禍の体験をどう記録するかにも取り組んでいます。

今年1月には能登半島地震が発生しました。このような災害時の「集団とはどういうものなのか」「人と人とのつながりが災害時にどう機能していくのか」といった「コミュニティの問題」も、社会学部における重要な研究テーマになります。

―今後、社会学部の学びはどう変化すると思われますか。

グルーバル化が進むなか、自分の身の回りの社会が世界とつながっていることを意識した学び方がますます必要になってきます。英語をしっかり学ぶべきなのは当然ですが、大学では第二外国語の習得も期待しています。

 

 

秋山晋吾(あきやま・しんご)

一橋大学社会学部長・研究科長。1990年四日市南高校(三重)卒業、95年筑波大学第三学群国際関係学類卒業。98年千葉大学大学院文学研究科史学専攻修士課程修了。ハンガリー・デブレツェン大学大学院留学を経て、2004年千葉大学大学院社会文化科学研究科博士後期課程修了。14年から一橋大学大学院社会学研究科教授、23年4月から現職。専門はヨーロッパ史、東ヨーロッパ地域研究。