近年トレンドに挙がるデータサイエンスは、具体的にどんな場で活用されているのか。2017年に全国で初めてデータサイエンス学部を創設した滋賀大学の椎名洋学部長に聞いた。(野口涼)

ビッグデータを活用して課題解決

―そもそも、「データサイエンス」とは何でしょうか?

高校生の皆さんなら「ビッグデータ」という言葉を聞いたことがあるでしょう。文字通り、圧倒的な量のデータ(実験や観察などによって得られたもので、数字・文字・音・映像など様々な形がある)のことをいいます。

近年、情報通信技術の発展によって、世界中のさまざまな場所で日々生み出されるデータを集め、保存し、分析することが容易になりました。そのことを利用して今ある課題を解決したり、新たな価値を生み出だしたりする学問が「データサイエンス」です。

―社会ではどう活用されているのでしょうか。

身近な例を紹介しましょう。皆さんがスマホで検索したワードは、Googleなどの検索エンジンを運営している企業がデータとして集積しています。Googleはこれをもとに「あなたと同じような興味・関心を持っている人が見ているが、あなたはまだ見ていない情報」を抽出してあなたのスマホに表示します。こういった仕組みをデータサイエンスでは「レコメンデーション」といいます。

工場で蓄積された音や振動のデータから機械の異常を検知し、不良品の大量発生を防ぐ「異常検知」もデータサイエンスの活用例の一つです。列車など人命に関わる分野への応用も期待されています。

データを使って新たな価値を生む

—これから、データサイエンスによって社会はどう発展するのでしょうか。

日本の課題の一つが、先進国の中でも「中小企業の労働生産性が低い」こと。

そんな日本において、データサイエンスの活用は非常に大きなテーマです。それにもかかわらず、デジタル技術の活用によってビジネスを変革する「DX」を推進する部門がある大手企業とは違って、中小企業にはまだハードルが高い。企業から大学に寄せられる相談も「こんなデータがあるけど、何かに活用できませんか?」といった漠然としたものが多いです。

データサイエンスとは

データサイエンスの中でもデータを収集・加工・処理する「情報学」、データを分析する「統計学」の領域は、AIの進化によって現在すさまじい勢いで自動化されつつあります。しかし、「どう問題を解決するか」「どんな新しいサービスを生むか」といった「価値創造」の部分は、まだAIに頼ることはできません。そんな「価値創造」の部分に重きを置くのがデータサイエンスなんです。

食品ロス防止に役立てる

―滋賀大学ではさまざまな企業と連携して、データサイエンスの共同研究を行っていますね。

例えば2021年には、「カネテツデリカフーズ」という、かまぼこ等の魚肉練り製品を製造・販売する企業から「商品の廃棄ロスを減らしたい」という相談がありました。魚肉練り製品は受注生産が難しいので、売れ行きを予測して生産を行います。

しかし、天候をはじめとするさまざまな要因で余剰分が出てしまい、廃棄につながることが課題でした。このケースでは、企業から提供されたさまざまなデータを分析・活用することで商品の需要予測ができるようになっています。

なお、滋賀大学のデータサイエンス学部が現在連携している企業は約60社。これまでに延べ300社の企業と共同研究を行ってきました。連携する企業のなかには、大きな経営の効率化・合理化や新しいサービス創造に結びついた例もあります。

 

椎名洋(しいな・よう)

1986年東京大学法学部卒業、92年同大学経済学研究科博士課程単位取得満期退学。経済学博士。信州大学経法学部教授を経て、2020年から滋賀大学データサイエンス学部教授。研究分野は多変量解析、情報幾何、統計的決定理論。