時代の急速な変化は、経済学部の学びにも大きな影響を与えている。慶應義塾大学経済学部長の駒形哲哉先生に、時代の波を捉えた最先端の経済学部の学びについて教えてもらった。(野口涼)

デジタル化やグローバル化に対応

時代の変化を汲み、経済学部はどう変化していますか?

慶應義塾大学経済学部では、2022年には「DEEP (Data-driven Economics and Econometrics Programme)」「FACTS(Fieldwork for Active Comprehension of Targeted Subjects)」という二つのプログラムが創設されました。これは、現代社会で活躍していくための素養を培うために、1年次から4年次まで系統的に履修するコースのようなものです。

ビッグデータが急速に蓄積・利用されはじめ、従来の経済学教育ではカバーされてこなかったデータを分析し、背後にあるロジックを理解する「データサイエンス」の知識が求められるようになりました。「DEEP」ではデータサイエンスを学ぶことで、デジタル技術を活用して社会により良い変化をもたらす、「デジタルトランスフォーメーション」を担う人材を養成しています。銀行から提供されたデータを分析し、改善点を提案するといった実践的な学びを経験できます。

―では、「FACTS」ではどんなことを学びますか?

グローバル化が進み、さまざまな課題解決方法が必要とされる社会になりつつあります。現場で得られた知見から論理的に経済を把握する能力を養うのが「FACTS」です。限られた情報から論理を組み立て、答えを探していく学びのプロセスは、社会に出てからも非常に役立つ経験になるでしょう。

どちらのコースも経済学部のカリキュラムの中から必要な科目群を履修し、学習の集大成として成果物または論文を提出した学生に修了証が授与されます。

AI発展も学びの根幹は同じ

―コロナ禍やAIの発達で経済学部での学びは変わりましたか?

リモートの活用による教育の効率化が進み、対面授業の密度が濃くなったことが成果として挙げられます。またChatGPTなどAIの出現により、教育や評価における重点が「人でなければできないこと」に集約されつつあります。

とはいえ学びの根幹というのは変わりません。先人たちが積み上げてきた学問の蓄積に敬意を払い、根気よく調べ、深くしっかりと考えること。そして教員や仲間との議論によって思考を深め、言葉や文字で適切に表現していくこと(適切な表現を選んで使えること)―こういった学びの重要性はむしろ高まっていると考えています。

 

駒形哲哉(こまがた・てつや) 1988年慶應義塾大学経済学部卒業、97年同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学、1989年~1990年南開大学(中国)留学、(財)霞山会職員、獨協大学専任講師を経て、2000年慶應義塾大学経済学部専任講師、03年より助教授(07年より准教授)、11年より教授、21年10月より経済学部長。専攻分野は中国経済論(特に中小企業)・地域経済論。