3月の全国高校選抜バドミントンで、学校対抗の団体戦、個人対抗のダブルス、シングルスの3冠を達成した沖本優大(埼玉・埼玉栄3年)。6月に臨んだ総体県予選でも団体戦、シングルス、ダブルスすべてで1位に輝き、「インターハイ3冠」への道を歩み始めた。(文・写真 小野哲史)

名門エースの覚悟

全国高校選抜3冠の後も、沖本が歩みを止めることはなかった。「インターハイで3冠を遂げたい」という思いが強かったからだ。選抜では「攻撃力をもっとつけないといけない」と感じ、スマッシュ強化など課題の克服に積極的に取り組んだ。「気を抜くことなく、全部を全力でやって1位で通過したい」と語っていた6月中旬の県予選は、その成果を発揮し、全く隙を見せなかった。

埼玉栄のエースとして、全国選抜に続く学校対抗、シングルス、ダブルスでのインターハイ3冠を目指す沖本

小学校でも中学校でも全国優勝を果たした。常に世代のトップレベルをひた走ってきた沖本だが、インターハイでは一昨年が団体戦準優勝。昨年は団体戦4強、シングルスとダブルスはともに8強と、まだ頂点に立てていない。

「団体戦で使ってもらった1年生の時は、先輩たちの思いも背負っていたので、すごく緊張しました。その経験があって去年は落ち着いて自分のプレーができましたが、大会終盤の試合中に脚がつってしまい、ほとんどコートに立っているだけで負けてしまった心残りがあります」

個人戦も団体戦も同じように重要だが、「みんなが何より団体戦で勝ちたいと思っている」と話す沖本。最後のインターハイでは、名門・埼玉栄のエースとして役割を果たすつもりだ。その覚悟は、「自分が負けたらチームはピンチ」「自分がみんなを引っ張っていきたい」といった言葉の端々からうかがえる。

身長差があっても勝てる

身長164.5センチの沖本は、試合では自分より大きな相手と対戦することが少なくない。しかし、それを不利に感じたことはないという。

「ネットの高さやコートの広さは相手と同じなので、身長が高い方が有利なのは間違いありません。でも、やり方次第では小さい選手が高身長の選手に勝てる。そこがバドミントンをやっていて楽しいと感じる部分です」

全国高校選抜3冠後も偉業達成の喜びに浸る間もなく、さらなる進化を続けてきた

実際、バドミントンの世界ランキングでは、アジアの選手たちが上位に名を連ね、一般的に体格で勝るとされる欧米勢を圧倒している。沖本も全国選抜前の3月上旬、遠征したオランダとドイツでの国際大会で、各国の同世代のライバルを次々と破っていった。貫いたのは、「ラリーで粘って、相手がミスするまで球を拾い続けるのが得意」というプレースタイル。シングルスで2大会連続優勝を飾り、そこで深めた自信を全国選抜3冠につなげた。「実業団の練習に参加させてもらい、シニア選手の球を受けたりしている」ことも大きかった。

顧問の大屋貴司監督は、沖本について、俊敏なフットワークだけでなく、「ラケットワークの良さが高校生離れしていて、しかもミスが少ない」という点を高く評価している。

日々の練習は試合形式

日頃の練習は試合形式が多い。沖本は「試合を想定してやっているので、実際の試合でも練習通りのプレーを出せる」ところに埼玉栄の強さがあるという。課題が見つかれば、全体練習後に各自で克服や改善にも取り組む。そうした選手の自主性が、全国でも屈指の実績を誇る埼玉栄の伝統を作ってきた。

ダブルスでペアを組む角田洸介(3年)とは、「普段から仲が良くて、何でも言い合える間柄」(沖本)だという

ただ、必ずしも競技だけにすべてを注いでいるわけでない。「土曜日は練習が14時頃終わることが多いので、みんなで近くの温泉に行ったりします」。小学校の頃、バドミントンとともに熱中していた野球は今でも大好きで、「広島カープの試合結果はこまめにチェックしています。帰省した時はマツダスタジアムに観戦にも行っています」と笑顔で語る。オンオフの切り替えが、競技中の集中力に良い効果をもたらしているかもしれない。

「将来はオリンピックで金メダルをとりたい」という夢を描く沖本は、7月にアジアジュニア選手権を終え、インターハイ後の9月には世界ジュニア選手権と大きな大会が続く。日本代表として戦う舞台は、これから何度も用意されているはずだが、高校生として仲間と戦えるインターハイは、この夏限りだ。だからこそ「悔いを残したくない」。

北の大地で3冠を目指す沖本のチャレンジは、間もなく幕を開ける。

<プロフィール>

おきもと・ゆうだい 2005年5月28日、広島県生まれ。埼玉栄中卒。兄の影響で5歳からバドミントンクラブの原ジュニアで競技を始め、全国小学生大会3連覇。中学3年次には全中の代替大会となった日本中学生バドミントンフェスティバル~Remember2020シングルスで優勝。谷岡大后(福島・ふたば未来学園3年)とのペアで2023年男子ダブルスの日本B代表に選出された。164.5センチ、62キロ。