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  入選
 「缶詰」 林 香澄(埼玉県立浦和第一女子高等学校1年)
 「紅い檸檬」 辻 雄斗(海外・International School of Dusseldorf3年)
 「海のわすれもの」 田口 瑛美莉(東京・田園調布学園高等部2年)
 「キャッチューの魔法」 若林 実里(海外・上海外国語大学附属外国語学校2年)
 「鉄の海」 岡田 陽(奈良・西大和学園高等学校1年)
 「花火」 豊田 隼人(東京・国際基督教大学高等学校3年)
 「輪郭」 豊田 花奈(東京・女子学院高等学校3年)
 「鳩の足、わたしの羽」 間宮 梨花(神奈川・横浜雙葉高等学校3年)
 「ガラス瓶」 杉野 迅(岡山・津山工業高等専門学校3年)
 「さがしもの」 菱沼 大生(山形県立山形南高等学校3年)

 

入選 「缶詰」  林 香澄(埼玉県立浦和第一女子高等学校1年)


あいた口は あいた窓は あいた蓋は
閉じられていって
光はとおのいていって
右も左も 上も下も 前も後ろもない
ここに ただ ただ 私

風の抜け道を見つけた
そこに 手をかけて
でも届かなくて 触れられなくて
今 ぴたりと閉じられた
これは ただ ただの 缶詰

しずくの音は さらにきめ細やかに 弾けて
不意に あふれ出た バロック調の指のはこびはやわらかで
でも このうえなく 不釣り合いだ

一緒につめられた  ビルの ひとかけも ふたかけも
空は低く 繊細に太く立てられた柱に その姿を かくす
ちらちらとみえる あの光に 手をかざして
安堵の中で 不安定なこの空間に ただ ただ 身を置く

そして そして 今 あけられた
それは 突然だった
こちらへ向かう急行電車は
光と空気にふれた線路の上をとおって

ただの たった少しの すきまから
手を伸ばして
つかみだして
窓にさす光としがみつくしずく

ただ遠く青空 ただのあけられた缶詰

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入選 「紅い檸檬」 辻 雄斗(海外・International School of Dusseldorf3年)


張り詰めた酸素
その時を待つ二酸化炭素
目に見える大気
色がある
しかし権利は与えられない
青に染まった部屋で僕は
落ちている本に
物語の、あるいは世界の
物体性を認める
ものだ、ヒットだ、黒潮だ
窓を開ける
ついにその時が来た
ガラスを伝う鋼
何を投げ込むのが良いだろう
上にも下にも無限に続く
突出した闇に向かって
ああ
そうだ
紅い檸檬

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入選 「海のわすれもの」 田口 瑛美莉(東京・田園調布学園高等部2年)


月は、海の
わすれものなんだと思う
よるのあいだ空の中に忘れていたものを、
朝になるとあわててむかえに来る、海。

貝がらは、海の
わすれものなんだと思う
きっと海の中にあるちいさな国の宝ものを、
ほんの少しだけおすそ分けしてくれる、海。

麦わらぼうしは、海の
わすれものなんだと思う
けれど
どうしてか持ち主だけを連れていってしまって、
いつまでもぼうしはむかえをまっている。

さみしそうなぼうし
さみしそうなぼく
海はわすれものを知らんぷりで、
ゆらゆら

あのときああすればよかったとか、
あの子にこう言えばよかったとか、
あれ。ぼくだってわすれものがいっぱい。
ぼくもぼうしといっしょに、ざわざわ。
のぞきこんだら海もゆがんじゃうね。

朝とよるのすきまのことも、
海の中のちいさな国も、
おもいだしていいよ、でも
きみの聲の色とかあたたかさとか、
そういうのだけは
わすれたままがいいな、海。

だからもう少し、
海がぼくを思い出すまで
この場所で
きみの麦わらぼうしをかぶる。

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入選  「キャッチューの魔法」 若林 実里(海外・上海外国語大学附属外国語学校国際部2年)


キャッチュー
そんな声がしたと思ったら、誰かに肩をぽんってされた。
とってもびっくりした。
まだ何がどこにあるのかも分からない、始めての場所。
顔をあげるとさっきまで私の前で踊っていた女の子がにこにこしていた。
なにが起きたのか、理解できずに私はまた下を向いた。

キャッチュー
また肩をぽんってされた。
びっくりしたふりをしたけど、実はそうじゃない。
今週もぽんってされるかなって、下を向いているふりをしながら座っていたから。
顔をあげると、やっぱりあの子だった。
それ、どういう意味?そう聞きたかったけど、言葉が出なかった。

キャッチュー
やっぱり肩をぽんってされた。
深呼吸をして、顔をあげる。
今日言われたら、絶対反応しようって決めていたから。
キャッチュー、私もまねしてその子の肩をぽんってしてみた。
そのあとなにか言われた気がしたけど、聞き取れなかった。

キャッチュー
今日も肩をぽんってされる。
やっとわかった、みんな鬼ごっこをしているんだ。
今日あの子は私をタッチした後、にこにこしながら走っていった。
鬼ごっこのルールは知っている。日本にいたときもやっていたから。
私はあの子を追いかけて走り出した。

Catch you!!
今日も私は鬼ごっこに参加する。
それしか聞き取れない。みんなが話しているのは英語だから。
でも、それだけは聞き取れる。Catch youは私にとって魔法の言葉。
知らない土地での、初めての習い事で、緊張していた私にあの子がくれた初めての言葉。
あれから私はあの子と一緒に遊ぶのが楽しみで、ここに来るようになった。
今の私の目標は、今日も一人で座っている子に、Catch youってすること。

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入選 「鉄の海」 岡田 陽(奈良・西大和学園高等学校1年)


半世紀降らない春の雪
理性が廃する夏祭り
投げられたボールはバットをかすり
ファール判定で塵カスに

明日のため死ぬバカばかり
腰ばかり痛む子どもたち
無数に敷かれた罠かかり
フツーになっちゃうあなた達

その頃我らは神がかり
輝かしき情熱を盾に
慌ただしき世の中をバサリ
お遊びフェス天幕にハサミ
これを聞いたってことはアタリ

当たり前を壊す奔馬
本格的に始まってる降下
あの日したミスは時効だから
もうどっかいけよ利口なバカは

押すだけでいい
お手頃な快感を味わってる怠惰な大半に
相反する音楽を抱いた
愚か者に未来はあるのか

まだあと半分暁の寺
彼が恋したあの人の
未だ健在な鼻筋を照らす
雲ひとつ無い夕焼けの空
至るところに現れるコラ
怒る檻から放たれたトラ
彼は本当に生きていたのか

なぜ在る
のかわからずに
汗かき佇むアセファル
無頭人
力尽きるまで行使
され過労死する前に
蕩尽しよう

お願い助けてシーフー老師
心の底からすがる法人
中毒になった戯れは無意味
はんから始まるこの詩が契機
押すだけでいい
お手頃な快感を味わってる怠惰な大半に
相反する音楽を抱いた
愚か者に未来はあるのか

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入選 「花火」 豊田 隼人(東京・国際基督教大学高等学校3年)


打ち上げられる前の花火をあなたは見ていた。夕立を泳いでいるのは、温暖湿潤の人々、白く纏った死が、羨望の声を愛で満たす。店仕舞いを終え、この世の終わりはこの店にあったと言わんばかりにカメラを交換した、初老の男性が、昔撮った川の写真を回顧していた。

窓ガラスを掃除した、夜、雨の白さで、暖色の灯は失語した。イマージュを左右していたのは、花火師の食んでいた丹、人形のような触覚をもつ蜃気楼の奥行きは、少しばかり喧騒を抱えていた。便箋を酒に漬ける。白日夢は、暖かな雨と、欲で満たされていた。

川辺に、光が散っている。仄とした、回送電車の吸い寄せた雨を、ひとりの美男が、老いのために、掠めた。青白く、反射した水溜りを、下水にさんざめく、生物の群れを、川面に置いてきた。光を削いだ写真は、無心で泳ぐように暖かく、暗い花火だった。

「このひとは死んだほうがよかったのかもしれない
  
  花     
    、         
         火             
             。 降るか、 ら  。」  ね、 。

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入選 「輪郭」 豊田 花奈(東京・女子学院高等学校3年)


先生の声が浮遊している。
プリントのインクは
不自然なほど精細に在る。
斜め前の彼女のシャープペンシルの
そのしずかな摩擦音に
焦りを感じようとするのだけれど
どうやら逆効果みたい。
その不規則なリズム感に
やすやすと呑みこまれてしまう。

どこかで蝉が鳴いていたような気がしたけれど
気のせいだったのかもしれない。
特別なことのようなのに
そこまで興味はないということ?
去年を思い出そうとしても、わからない。
日常が不連続であることの非有用性とは。

先生の冗談でふと笑い声が起こり
或る現実に感覚が収束する。
彼女の笑い声が耳にくすぐったくて
境界の倫理を妙に意識してしまって。
これが恋、なのだろうか。
自分をぐるぐると舐め回す論理を
無価値であると評価したくて。
これが恋!

なんて。
逃れようとする意志は
冷房の風にかき消える。

刹那的な時間に弄ばれる
金曜日の五限目の
セーラー服の袖からのぞく
あなたの細い腕。
その白さから、ゆくりなく夏を知る。

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入選 「鳩の足、わたしの羽」 間宮 梨花(神奈川・横浜雙葉高等学校3年)


夏の終わりのおはなしです
というか今朝のおはなしです

横断歩道のまんなかで
とある出会いがありました

ちかちか点滅しているのに
彼女はぽてぽて歩いているの
ヒトはせかせか走っているのに
彼女は澄まして渡っているの
「だってワタシに関係ないわ」
いや、轢かれたら嫌でしょう?
「だってワタシは飛べるもの」



そうか、忘れていたわ
そう、彼女は飛べるのです
ぴっちり両腕閉じているけれど
その羽どうして使わないの?
「ふふ、どうしてだと思う?」



ええと、どうしてでしょう
羽が痛いの?大丈夫?
「ちがう、ちがう、そうじゃない」
「のんびり歩くの好きなのよ」
無事向こう岸についてから
彼女はふわりと飛びさりました

――わたしはふと、思ったのです
急がなくても、いいのです

何かに追われるのじゃなしに
点滅気にしなくてもいい…
…彼女はそれを言いたかった?

そうではないかもしれません
わたし、わかった気がします

彼女にとって、歩くことは
世界を味わうことなのです

いつもと違う景色を見て
のんびりゆったり楽しむの

彼女にとって、歩くことは
ヒトが飛び立つことと同じ

わたしも広げてみようかなあ
縮こまっているわたしの羽

ばさばさ羽ばたかなくていい
のんびりゆったり頑張るの

(なんだかキレイゴトみたい
恥ずかしいけどまあいいか…)

ふわりと残る、彼女のかげ
気づけばセミも、鳴きやんでいます

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入選 「ガラス瓶」 杉野 迅(岡山・津山工業高等専門学校3年)


先人たちが一体どれほど考えただろう
食事中にもんもんと一人で思う
先割れスプーンて天才的だなあ

ひじは抓ってもいたくない
最初に気づいたのは誰だろう
僕だったら愉快だな

ガラス瓶にふうって息をかけるとぼおって音がするのは
固有振動数を解いた人がいた証

大概先人が見つけてくれた答えで十分だ
でもいくら考えても見つからない答えはたまにある
部長もう辞めたい
ひと月以上ずっと考えてるな

部員が減ってきたのは
他部と関係が悪いのは
どうして
いくら考えても考えても見えないのだ

物体が、½gt2+v0t+x0で物が落ちることも
天然のたい焼きが一番うまいことも
当然のように知っている

不正解だけを消せる消しゴムがあればいいのに
本音が聞ける虫眼鏡があればいいのに

全知全能の神は誰にも解けない問題を作れるのか
過去に戻って親を殺すとどうなるのか
リーマンゼータ関数の非自明な零点の実部は½なのか
P ≠NPなのか

長い問の末に大きな得点が得られる受験生は幸せだ
用意された解はまるでガラス瓶
吹けば音がするのだ。

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入選 「さがしもの」 菱沼 大生(山形県立山形南高等学校3年)


ただ歩いた
川と海の境目を探しに

飛べずにいたアオサギの一羽
羽を縫い合わせてあげようと近づいても
対岸へと駆け足で溶けてゆく

イーゼルと水面とを行き来する年老いた眼
「綺麗ですね」と近づいても
そっぽを向いて画に沈んでゆく

僕の血管を流れる川は
果てない海へなんて行かなかった
どんな長雨が続いても
滲み出すだけですぐに堰き止められ
カサブタになって消えてゆく
きっといつまでも
黒みがかった赤色のままひたすらに
独りよがりに僕の中を廻っている

僕の体温で温めてあげられるものなんて
きっとどこにもないのだ

海なんてなかった
ただ歩いた

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