運動部の主将には独特の使命がある。チームをまとめ、強くするために、主将たちは何に悩み、道を切り開いていくのか。シリーズ1回目は、県浦和(埼玉)ラグビー部の主将・柴田尚輝(3年)=埼玉・内谷中出身=を紹介する。 (文・写真 東憲吾)

3年生が引退した昨年11月。柴田は1、2年生による投票で、全員一致で新主将に選ばれた。選手として輝かしい実績があるわけではない。むしろ、試合の出場機会は少なかった。それでも全員一致で主将に選ばれたのは、柴田が「言葉」で部員を引っ張る、一番熱い男だからだ。

水石啓太(2年)=同・大原中出身=は「いつでも声を出してくれる。体を張ったプレーもいとわない。頼りになる存在」と話す。柴田は「みんながそういう目で見てくれていたことがうれしかった。チームを絶対に強くする」。そう意気込み、冬の花園(全国高校ラグビー大会)出場を目標に、部員を鼓舞し続けている。

グラウンドでは厳しい表情で声を張り上げるが、普段は人懐こく、優しい。「口げんかしたらすぐに負ける。言い合いなんか絶対にできない」と、温厚な性格を自分でも認める。後輩たちも「話しやすい」と言う。誰からも好かれる柴田だが、今そんな自分に葛藤を感じている。

チームを強くするためには、部員に対して嫌なことでもはっきりと言い、時には怒ることも必要だ。柴田もそれを分かっているが、本当に言いたいことをなかなか口に出せない。「そこまで言っていいのか」と、人の良さから、ためらってしまう。「嫌われるのが怖いのではなく、人に強く言うのが苦手」。ここぞという場面で、あと一歩が踏み出せない。

プレーに自信がないことも、柴田の課題だ。「自分はうまい選手ではない」。昨年まで控えだった自分が、レギュラーで活躍している同級生を前に「偉そうなことを言ってよいのか」と、尻込みしてしまうのだ。9月には花園予選が始まる。「今の自分では、チームを花園に連れていけない」。焦る柴田は「まずは自分のプレーを磨いて自信を付けること。堂々と話せるようになりたい」と、苦手なディフェンスを強化するため、ひたすらタックルの練習に励んでいる。

全体練習後には仲間を誘い、自主練習に汗を流す。「今の良かった」「もっと低く」。照明がともるグラウンドに、柴田の力強い声が響く。部員たちは、がむしゃらにボールを追い、柴田も激しく、何度もタックルを繰り返す。「やるしかない」。そんな気迫に満ちていた。 「鬼になりたい」。柴田は何度も口にした。部員に対する遠慮は無用だ。遠慮すればするだけ花園は遠のく。夢の舞台へ立てるかどうかは、優しい柴田がどこまで鬼になれるかにかかっている。

 
しばた・なおき
 1995 年6月7日、岐阜県生まれ。小学校では野球と水泳を習い、中学校はバレーボール部に所属。高校入学後、中学時代の先輩に誘われてラグビーを始めた。ポジションはHO(フッカー)。176㌢、76㌔。