保科宇里(うり)さん(東京・新渡戸文化高校3年)は、動物が大好きな高校生。「動物実験について考えるきっかけを作りたい」という思いで絵本を作り、親子を始め広い世代に向けた活動を行っている。(文・黒澤真紀、写真・学校提供)

動物実験の実態を知ってショック

「実験動物は、外の光を一度も浴びることなく、生涯を終えていきます」

高校1年の5月、学校の探究学習で動物に関する社会課題について調べるため、動物実験をコンピューターシミュレーションや人工的に培養した細胞を使うなど、別の方法に置き換える「代替法」に関わる団体に取材。もともと動物が好きだった保科さんは、取材時にこの言葉を聞いて大きなショックを受けた。

「動物実験について考えてほしい」と話す保科宇里さん

「動物実験はシャンプーや化粧品など、日用品の開発でも行われていたのだと初めて知りました。周りに聞いても、誰も知りません。きっと、私たちと同じようにこの問題について知らない人がたくさんいるのではないかと思ったんです」

絵本を自作「親子で話すきっかけに」

保科さんが初めて見た実験動物たちの画像はグロテスクなものが多かったという。だからこそやわらかく伝わる方法を選びたいという考えから、絵本『そらってなあに?おひさまってなあに?』を自作した。絵本では、動物実験で使われる動物が外の光を一度も浴びることなく生涯を終える事実を、うさぎのかわいらしいイラストで表現した。

高校1年の夏に完成。高校3年の8月には、アマゾンの電子書籍「キンドル」にて1冊100円で販売を始めた。現在は絵本をもとに、ワークショップや体験型展示を行っている。

「グロテスクな画像を見せるだけでは、多くの人が動物実験の問題から目を背けてしまう。きちんと向き合ってほしいから伝え方を工夫したい」

保科さんオリジナルの絵本『そらってなあに?おひさまってなあに?』

現状、代替法だと製品や薬品の安全性を証明しきれないこともある。医薬品の研究開発には、動物実験が欠かせない。保科さん自身も、動物実験に反対だと主張したいわけではない。「賛成、反対どちらの立場なのかと言われると難しい。例えば、化粧品の開発は代替法でできることもあるけれど、医療の研究になるとどうしても動物実験をしなければならない場面もあります」

だから保科さんは、動物実験という「社会課題」について考えるきっかけづくりをしたいという思いで活動を始めた。「賛成、反対の二択で考えるのではなく、実験動物に対する問題意識を持ってほしい。絵本なら親子でコミュニケーションをとりながら話ができるのではないかと思ったんです」

伝える工夫凝らした体験型展示を企画

「手作りの絵本をみんなに読んでほしい」と、高校1年の文化祭では、友人らに手伝ってもらいダンボールドームを作った。絵本をアニメーションで見られるようにプロジェクターを使って投影し、好評を博した。

文化祭で設営したダンボールドーム。多くの来場者がアニメーションを見に来てくれた

環境問題や社会問題について考えるイベント「アースデイ東京」(アースデイ東京実行委員会)に参加。高校2年の時は絵本のページをのれんのように飾り、それを歩いてくぐりながら読み進めていく「くぐる絵本」を展示。高校3年の時は、絵本を抜粋した小冊子を100部作成し、無料で配布した。

「子どもの印象に残る」工夫を

心がけているのは、「イベントに参加してくれた子どもたちが大人になったとき、どう記憶に残っているか」という視点で企画を考えること。くぐる絵本やダンボールドームも「子どもの印象に残ってほしい」という思いから生まれた。

学校の課題図書になる絵本を作りたい

イベントにはリピーターも多い。「子どもが絵本を読み聞かせしてくれた」と母親から声をかけられることもある。「もともと私は人前で話すのが苦手で、グループ発表でも泣きそうになるくらい緊張していた。それが、伝えたいことができて、強くなれた。こんな風に声をかけられるのが本当にうれしい」

一人の力ではなく、背中を押してくれる先生方、協力してくれる友人、イベントに足を運んでくれる人への感謝も忘れない。大学では福祉系の学部に進み、引き続きさまざまな社会課題に取り組んでいく予定だ。