「しんかい6500」パイロットに聞く 未知の世界「深海」の謎を追う

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有人潜水調査船「しんかい6500」(JAMSTEC提供)

しんかい6500
 全長9.7メートル、幅2.8メートル、高さ4.1メートル、重量26.7トン。1989年に完成し、91年から調査潜航を始めた。巨大地震を発生させる水深6200〜6500メートルの地質構造を調べることができるように作られた。人が乗る部分はチタン合金を使い、水圧に耐える強度を持つ。潜っていられるのは1回8時間。潜航回数は1400回を超える(16年12月時点)。6000メートル以上潜れる潜水船を有するのは日本、ロシア、フランス、中国のみ。

 海洋の学術研究を行う海洋研究開発機構(JAMSTEC)が所有する有人潜水調査船「しんかい6500」。その名の通り、水深6500メートルまで潜ることができ、日本近海のみならず、大西洋やインド洋など世界中の海域で調査を行う。地球の成り立ちや生物の進化の解明など、寄せられる期待は大きい。パイロットとして活躍する大西琢磨さんに、深海での調査活動の様子について聞いた。
(中田宗孝)

大西琢磨さん
 おおにし・たくま。二等潜技士。水産大学校卒業後、日本海洋事業株式会社に入社。2007年に初潜航。09年にコパイロット(副操縦士)、14年にパイロット昇格。これまでの潜航回数は70回。

 地質や生物、岩石を調査 

──海底でどのような作業をしているのですか。

 主に、深海の生き物の生態を解明する生物調査をしたり、地形の成り立ちを探るため海底の岩石や地質の調査をしたりしています。東日本大震災の後には、日本海溝の水深約5300メートルの海底で、少なくとも約80メートル続く亀裂を発見しました。2006年の調査ではなかった亀裂です。カリブ海では、光ケーブルを使って約400度の熱水が湧く場所からの衛星生中継に成功しました。

 長期的に海底を観測するためのカメラの設置や回収作業もしています。船体の前方に取り付けた「サンプルバスケット(採集物入れ)」を使い海底に装置を運んだり持ち帰ったりできます。

 深海で生物を捕まえる時は、関節が7カ所動く「マニピュレーター」という機器(船体写真左下前方)にホースを付けて掃除機のように吸い込みますが、意外に難しい。捕まえるというより、採取するポイントを決めて待つことが多いです。

──採取技術をどのように身につけるのですか。

 陸上で実機のマニピュレーターを操作しながら、つぶれやすいペットボトルやアルミ缶をつかむ練習をします。クレーンゲームのイメージに近いと思います。ただ、陸上と海底では視界や物との距離感がまったく違うので、実践で慣れるのが上達の秘訣(ひけつ)です。

解体点検中の「しんかい6500」。白い球体の部分がコックピット(耐圧殻)

 潜るのに必要なのは信頼関係 

──チーム編成を教えてください。

 チームをまとめる司令を筆頭に、15人で活動しています。それぞれに潜航長、整備長といった役職があります。「しんかい6500」の定員は3人なので、パイロット、副パイロット、研究者で乗り込みます。信頼関係がないと潜れませんので、コミュニケーションを大切にしています。初めて会う研究者と潜ることもありますが、共に極限状態を体験するせいか、海底での調査を終えるころにはとても仲良くなるんですよ。

──船内はどうなっているのですか。

 球体のコックピット(耐圧殻)に席はありません。なるべく広範囲を観察できるように設計したため、パイロットは足を投げ出して寝転がる体勢で操縦します。研究者も寝転がり、横向きやあおむけの体勢でのぞき窓から観察をしています。ライトを消しても発光生物がキラキラと光っている光景は、毎回、感動します。なお、船内にはトイレがありません。おむつを着ける方もいるようです。

──1度の調査期間はどのくらいですか。

 「しんかい6500」は支援母船「よこすか」に搭載されて調査する海域まで移動します。調査内容によって期間が変わるのですが、移動日数も入れて、短くて1週間、海外の海で調査することもあるので長ければ2、3カ月にわたります。1度の調査で、多い時は15回潜航しました。

「しんかい6500」のコックピットの中(JAMSTEC提供)

 好奇心が恐怖に勝つ 

──潜航中の食事はどうするのですか。

 おにぎりなどを海底で食べます。観察しながら食べられるような軽食ですね。飲み物はお茶などを各自タンブラーに入れて持ち込みます。実は、下降する際に音楽を流したり、作業を終えて海底から上昇する時間に雑談や映画鑑賞をしたりしています。案外リラックスする時間もあるんですよ。

──怖いと感じることはないのですか。

 ありません。私は恐怖心よりも好奇心が勝っています(笑)。自分たちが向かうのは、まだ誰も来たことのない場所。その深海の景色に誰よりも先に立ち会える感動は、何物にも代えがたいです。それに、パイロットと整備士が分かれている飛行機とは違い、「しんかい6500」はパイロットの私も船体整備を担当します。船体の状態を十分に把握している安心感もあります。

──「しんかい6500」の今後の活動を教えてください。

 現在、海底調査を休止して年次整備工事を実施しています。今年は船体の大規模な改造に取り組んでおり、私はコックピット内部の機器の小型・軽量化を担当しています。3月の試験潜航を終えると海底での調査が始まるので待ち遠しいです。深海は何度潜っても飽きることのない、魅力にあふれた世界です。

(高校生新聞 2017年1・2月合併号から)

 

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