物理や化学、生物、宇宙など、地球や生命、人間に関わるさまざまなテーマについて専門知識を駆使し探究する自然科学の研究者。理化学研究所で物性物理学を専門とする研究者・今田裕さんに仕事内容を聞いた。 (小野哲史)

自分で作った世界最高性能の走査トンネル顕微鏡(STM)を使って、単一分子のエネルギー変換機能を研究中の今田裕さん

奇想天外なことをしたい

――研究内容を教えてください。

現在は、原子が見える究極の顕微鏡を使って、一つ一つ分子を動かし組み合わせて革新的なエネルギー変換機能を生み出すことがテーマです。この研究はとてもユニークで、世界でも数えるぐらいしかできる所がありません。「人が予想しない、奇想天外なことをやりたい」という目標を掲げています。

――研究者を目指したきっかけは?

父が研究者なので、「(自分も)この世界に進むかもしれない」という思いがありました。大学院の修士課程が終わる頃に、研究者の道を進むと腹をくくりました。

アイデアはすぐにメモ

――研究者として、どんなことを心掛けていますか?

研究者は、化学や物理などの分野は実験装置がなければ仕事ができません。そのため、研究室では小まめにメンテナンスをして、問題があれば原因を究明して、いつでも使えるように準備しています。個人的にはパソコンとノートは常に持つようにしています。日々、気付いたことや思い浮かんだアイデアは、忘れないようにメモしています。

結果が出ないのを楽しむ

――大変だと感じる瞬間はいつですか?

結果が出ないときですね……。ですが、理化学研究所ではボス(研究室のリーダー)が「(結果が出ないことは)気にせず、自由にやっていい」という人で、自分のやりたいようにできる恵まれた環境があります。いつどうやったら結果が出るか分からず、もんもんと悩む研究者もいますが、私は逆にそれを楽しいと感じます。

――やりがいや楽しさ、魅力は?

世界最先端の研究をできていることは楽しいです。人の役に立つかもしれない上、学術的にも面白い。研究活動では「こうやったらこんな結果が出るはず」と想定し、それを証明するにはどうしたらいいかを考えます。実際に実験して結果を出すまで作業のすべてを自分主導でできるのが好きです。

主体的に考える人向き

――どういう素質がある人が向いていますか?

「仮説を立て、それを証明する」のが研究活動です。証明方法は確立されていないので、試行錯誤を重ねることになります。誰かに指示されるのではなく、自分で主体的に考えて実践できる人が向いています。

――勤務先による違いは?

勤務先は研究所や大学、企業などに大まかに分けられ、それぞれで環境が変わります。研究所は、研究に100%集中できる環境やサポートがありますが、研究所自体の数が多くはありません。大学は研究機関であると同時に教育機関なので、学生に対して講義や教育活動も自らの研究活動と一緒に行います。企業は、人事異動で担当職務や勤務地が変わることもあるでしょう。会社の方針は千差万別で、それぞれの業界や会社によって特徴があると思います。

~研究活動をしている高校生へアドバイス~

常識にとらわれないで

 研究する際は、「自由に考える」ことを心掛けてください。「普通はこうだ」とか、「みんながそう言うから」などと、常識にとらわれて視野が狭くならないようにすることが大切です。これは日常の生活でも同じことが言えます。他の人と違うことに挑戦するのは勇気がいることですが、殻を破ることが発想の豊かさにつながっていくと思います。

理化学研究所 物理学や工学、化学、生物学、医科学などにおよぶ広い分野で研究を行う、日本で唯一の自然科学の総合研究所。大学や企業との共同研究を実施しているほか、知的財産等の産業界への技術移転を積極的に進め、研究成果を社会に普及させている。

いまだ・ひろし 1981年、米国コロラド州生まれ。小田原高校卒業。東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻博士課程修了。2010年、理研Kim表面界面科学研究室 特別研究員。17年より現職