日本の科学技術の未来を支える若者を応援する「国際科学オリンピック日本開催シンポジウム」(科学技術振興機構、日本科学オリンピック委員会など主催)が8月22日、東京大学本郷キャンパスで開催された。京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授やジャーナリストの池上彰さんらが、科学に興味を持つ子どもたちに向けてエールを送った。(文・写真 福元まりあ)

父を救うため研究者に

山中教授は「iPS細胞がひらく新しい医学」と題して講演した。講演の冒頭で、「自身を医学の道に導いてくれた恩人」と呼ぶ父について語った。教授の父は町工場を営んでいたが、教授が中学生のときに輸血による肝臓の病に冒され入院した。「父を救いたいと思い臨床医になったが、救うことができなかった。その無力感から、いまの医学で治せない患者を将来救えるようにするために、研究者を目指した」

父の写真を示す山中教授

再生医療の最先端

iPS細胞を使った再生医療の分野では、これまで治療が難しかった目の難病や脳の病気を治す臨床研究が始まっている。例えば、脳の異常が原因で体の動きに障害が出るパーキンソン病に対して、iPS細胞を用いた臨床試験が行われており、昨年初めて細胞移植が行われた。

偶然は発明の父

講演の最後では、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞したiPS細胞の研究について振り返った。「『必要は発明の母』という言葉がある。私の場合は父の死を経験し、患者を治したいという必要性にかられて医者になり、iPS細胞の作製につながった。ただ、実験での予想外の偶然も、iPS細胞をつくるうえで必要だった。つまり『偶然は発明の父』だといえるだろう。偶然を大切にすることが重要だと思う」と語った。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションには、山中教授のほか、2005年に国際生物学オリンピックのメダリストとなった東京大学大学院助教の岩間亮さん、今年7月にパリで開催された国際化学オリンピックで金メダルを獲得した栄光学園高校2年の末松万宙君、アマゾンジャパン合同会社社長ジャスパー・チャンさんが登壇。モデレーターをジャーナリストの池上彰さんが務めた。

明日が豊かになるかは科学にかかっている

池上さんが科学技術の今後の発展について山中教授に問うと、どこまで研究が進むか期待しているとする一方、懸念も示した。その例としてゲノム編集を挙げ、「研究者の責任が今後さらに重くなるだろう。明日が今日より豊かになるかどうかは、イノベーション、その原動力である科学にかかっている」と述べた。また、池上さんが日本の科学研究の課題について尋ねると、岩間さんは「時代の流れが加速していて、スーパーマンのような人が求められているのではないか。じっくりと考えて研究する人も支えてくれる社会になればいいと思う」とコメントした。また末松さんは、「いまの日本の教育は、ある特定の分野を突き詰めたい人に適していないのではないか。やりたいことに専念できる社会になるといい」と話した。

最後に、科学に興味を持つ子どもたちに向けて池上さんはメッセージを送った。「自分が興味があること、好きなことやる。それが結果として世のため人のためになる可能性があるということが、科学の楽しさではないか。これほど素晴らしいことはない。皆さんもぜひそこに続いてほしいし、あるいはそういった人たちを育ててほしい。」

左から池上彰さん、末松万宙君、岩間亮さん、ジャスパー・チャンさん、山中伸弥教授

国際科学オリンピックが日本で開催

世界の高校生が科学の実力を競う「国際科学オリンピック」。2023年までに生物学、化学、物理、数学の4教科の国際大会が日本で開催されることが決定している。国際科学オリンピックへの社会的関心をさらに高めるため、今回のシンポジウムが開催された。

日本で開催される国際科学オリンピックの予定は以下の通り。

生物学

国際生物学オリンピック(IBO)(2020年長崎)

化学 

国際化学オリンピック(IChO)(2021年大阪)

物理 

国際物理オリンピック(IPhO)(2022年)

数学 

国際数学オリンピック(IMO)(2023年)