国際協力特別賞

発信することの大切さ

在フィリピン日本国大使館附属 マニラ日本人学校 2年 今野 颯南

「Money please.」

初めてそう声をかけられたのは、父の駐在のためにフィリピンに来た小学五年生の時だった。はだしでがりがりにやせ細った体、サイズの合っていない着古したTシャツ。そして、私を覗き込むまっすぐな瞳。家族と車に乗っている時、そんな子どもに窓をノックされたのだ。物乞いの経験など一度もなかった私は、その時とても驚いたことをよく覚えている。私よりも小さいその子は、しばらくすると車から離れていった。

その出来事から数か月の間、私は何度か物乞いにあうことになる。車に人が近づいてきてもいつも無視していたが、どうしても彼らをかわいそうに思う気持ちが芽生えていく。物乞いをする彼らに応えるとどうなるのだろうという好奇心もあり、一度百ペソだけお金を渡してみようと考えたことがあった。しかし、親や学校の先生の「一度お金をあげるときりがなく、たくさんの人が集まってきてしまうからやめた方が良い」という言葉を思い出し、結局お金は渡せなかった。

それから月日が流れ、物乞いをする彼らをたくさん見過ぎてしまったためか、この光景は私にとって当たり前になっていった。昔と変わらず「かわいそう」「自分は恵まれている」とは感じるが、お金を渡そうとはもう思わないし、今はあえて目を合わせないようにしている。だが私の気持ちは晴れず、モヤモヤしたままだ。これで良いのだろうか。私の対応は間違っているのではないだろうか。

そんな中、コロナウイルスが流行し、フィリピンでは世界一厳しいと言われるロックダウンが始まった。一年以上も外出禁止が続き私が物乞いをされる機会は減ったが、職を失う人が増え、もともと貧しかった人々の生活は更に苦しくなっているような状況だ。

そんな時私は、フィリピンに拠点をおくNPO主催の「SDGs アカデミア」という勉強会に参加した。貧困、ゴミ、ジェンダーなど、フィリピンが抱える問題について、日本に住む参加者と意見を交わすことができた。そこで私は、多種多様な意見と問題解決のための様々なアイデアに触れ、自分の価値観のみに縛られた考えがいかに危険で、ちっぽけなものだったかを学ぶことができた。このことがきっかけで、私は物乞いについての意見も聞いてみたいと思うようになった。

その後私は、別のNGOが主催するインターンに参加し、日本の学生に向けて物乞いについてのワークショップを企画した。一緒に企画した仲間は、日本の大学生や留学生。様々な経験を積んだ彼らの話はとても勉強になり、ハッとさせられることも多くある。

物乞いに対しての意見は多種多様だ。お金を渡すか渡さないか。それはとても難しい問題で、正解なんてないのかもしれない。しかし貧困の現状を日本の人に知ってもらうことで、考えるきっかけとなる。私はこれからも、たくさんの人に課題を発信していきたい。