国際協力特別賞

無知な私へ

奈良県立畝傍高等学校 1年 岸本 彩伽

「子ども達が作っているかもしれないから、チョコレートは食べないんだ。」

授業中、いつもの雑談で先生がこぼしたこの一言が、私の胸にずっと引っかかっている。

私はチョコレートが大好きだ。だが、その原料であるカカオの生産に子どもが関わっていること、適正な賃金が払われていないことを知っている。知っているのに、ずっと目を背けてきた。見ぬふりばかりしてきた。

先生の言葉を受け、やっと現実と向き合おうと思った。夏休みを利用して、児童労働について 調べできることを探してみた。

児童労働とは、義務教育を妨げる労働や法律で禁止されている十八歳未満の危険・有害な労働のことだ。今年、ILOとユニセフが出した報告書によると、世界には児童労働に従事している子どもが一億六千万人いるという。世界の子どもの十人に一人だ。

なぜ子どもが働かなくてはならないのか。主な原因は貧困だと思うが、環境問題、人口問題、紛争、身分制、教育、子どもを働かせる伝統や親の意識、企業や消費者などの問題が複雑に絡み合っている。学校がない、あっても教師がいないから働くしかない、内戦や経済危機で親が失業したり亡くなったりして子どもが家計を支えなければいけない、学校教育が今の生活に直接役に立つという確信が親に持てない、等々……。色々なウェブサイトや本を読んだが、児童労働の背景には様々な問題があり、一概に「これ」とは言えないと気付いた。

そこで私は、児童労働をなくすため、それぞれの視点から同時にアプローチしていくべきだと思う。国際機関や政府は法規制したり、教育のための予算を増やす。NGOなどと協力して、現場で働かされている子どもを救出する。啓発や広報を行う。紛争や環境問題への対処は他の社会 問題ともつながってくる。企業や消費者も動かなくてはならない。

しかし、具体的に何をするか、ということは、私には難しかった。なぜなら、よかれと思ってした支援が「余計なお世話」になることもあると知ったからだ。児童労働による商品の輸入を禁止しようとしたことで、子ども達が大量に解雇され、より条件の悪い仕事に就くことになってしまった例がある。また、古着の寄付は、現地の繊維産業に打撃を与える。

「何が解決に本当につながるのか」、それは簡単ではない。私は児童労働について調べて、自分は何をするか、夏休み中に結論を出そうと思っていた。けれど、夏休みに本やネットで調べただけでは、知識が足りず判断できない。私は無知すぎる。現状も、何が必要とされるのかも、まだまだ知らないことばかりだ。

私がこの夏休みに出した結論は「もっと勉強すること」。知らなければ動けない。私が今知っていることは、現実のごく一部にすぎない。見えていないところが沢山ある。もっと沢山の現実を、色々な角度から知っていきたい。当事者の話を聞き、様々な本を読み、NGOのイベントにも参加したい。そして、本当に役に立つ、みんなが幸せになる、私にできることは何か探していきたい。

私達の身の回りには大量の製品があふれているが、例えばポテトチップスに使われるパーム油、携帯電話に使われるレアメタルなど至るところで児童労働と関わっている。私達はこの現実に立ち向かわなければならない。

世界中に広がった原水爆禁止運動、実は数人の主婦の読書会から始まったそうだ。私達一人ひとりの力は小さい。けれど、無力なわけじゃない。できることは必ずある。私にも、世界の未来を変えられる。 だから私は、現実を学び、考えることをやめないと決めたのだ。