優秀賞
絵本が繋ぐ架け橋

宮崎県立宮崎西高等学校 1年 大城 冴和

日本の絵本にクメール語のシールを貼る。そして出来上がった絵本に自分の名前を書く。これは夏休みの我が家の恒例行事だ。私は今年もカンボジアに思いを馳せる。

シャンティ国際ボランティア会が、本を知らないアジアの子どもたちの為に始めた「絵本を届ける運動」。私がこの運動に初めて参加したのは小学校一年生の時だ。母から「カンボジアのお友だちに絵本を届けるの。いつかこの絵本を読んでくれたお友だちと会えますようにって思いながら、心を込めて作ろうね。」と一冊の絵本を手渡された。自分もよく知っている絵本にクメール語の文字を貼り付ける作業は楽しく、完成した時は達成感と嬉しさを感じた。そして自分の作った絵本が遠い国で読まれることに、とてもワクワクしたことを覚えている。

私の成長に合わせて、両親は絵本を届ける運動の持つ意味や、カンボジアが抱えている問題について少しずつ話してくれた。カンボジアでは、長く続いた内戦で多くの地雷が埋められ、知識人の大量虐殺や焚書が行われたそうだ。そしてその過去が原因で、現在も多くの人が命の危機に晒されている。識字率が低い為に、地雷原の看板が読めずに地雷を踏んでしまったり、薬の処方箋が読めずに薬を誤用してしまうことがあるのだ。読み書きがこれ程大切な役割を果たしているとは考えたこともなかった。私はこの悲しい現状に衝撃を受け、自分が作った絵本が少しでも彼らの役に立つようにと心から願った。友だちにもこの状況を知って欲しいと思い、自分で調べた内容をまとめて学校で発表したこともある。このように、絵本に込める願いは、私の視野の広がりと共に年々変化していった。

クメール語のシールを貼りながら、私は絵本の持つ力について毎年考える。幼い頃、毎日のように絵本を読んでもらっていた。好きな絵本は何度も何度も読んでもらい、物語の世界に存分に身を置く。そして読み聞かせの真似をしているうちに、文字も読めるようになっていた。絵本は様々な学びと心の成長を私に与えてくれていた。高校生になった今でも、絵本を開くと何度も読み返していた幼い頃の気持ちが甦り、温かな気持ちになる。日本から届けた絵本が、カンボジアの誰かを笑顔にし、命を守り未来を切り拓く力に繋がるのであれば、これ程嬉しいことはない。 絵本は互いの心を繋ぐ架け橋だと私は思う。

「いつかこの絵本を読んだお友だちに会えますように。」幼い私に母が言った言葉。カンボジアを訪れる時は、私がこれまで考え行動してきたことの答え合わせをする時だ。近年カンボジアは経済発展を遂げている一方で、貧困や伸び悩む教育の質、そして未だに低い識字率等、挑戦すべき課題は多いそうだ。私は確かな知識を持って彼らに寄り添い、共に考えることのできる自分でありたい。そして好きな絵本について語り合い、彼らと本当の友になりたい。「宇宙空間にいると、私は地球の見え方が変わったことに気付いた。地球には国、民族を分ける線はどこにもない。地球はひとつの世界であり、私たちはひとつの人間なのだ。」これは、私の尊敬する宇宙飛 行士エリソン・オニヅカ氏の言葉である。もし彼のように俯瞰して物事を捉えることができたら、 私たちは国を越えて手を取り合い、持続可能な優しい未来を創造していくことができるのではないだろうか。視野を広げることでみえる世界が変わる。知識や技術は未来を切り拓く。思いやりの心は国を越え世界を繋ぐ架け橋になる。「絵本が切り拓く彼らの未来が素晴しいものでありますように。」そう願いながら、私はこれからも心を込めてクメール語の絵本を作っていこう。