高校生の部 優秀賞
貧困問題の解決にむけて―私にできること―
群馬県立大泉高等学校2年 小内 愛美

とある光景を見た。車や人が行き交う道ばたに、たたずむ集団。見るからにみすぼらし い服装だ。台車には、高齢の女性が寝転がっている。まだ足下もおぼつかない女の子は、 びりびりに破けたタンクトップを着ている。二歳くらいだろうか、一人、集団を離れ、人 混みへと消えていった。ここは、日本ではない。三千七百キロメートル離れたフィリピン だ。

私は、日本だけでなく、フィリピンにもルーツを持つ。祖父母の墓を訪ねて、フィリピンの地を踏んだ。ここでは、こんな光景は日常だ。自分の家はないのだろうか。経済状況はよくなっていると聞くのに。可哀想だと思った。その場では私にできることは何も思い付かなかった。ただ、その光景を見ていた。

周りを見渡すと、信号で停車している車の窓にノックしている子どもがいる。その手に は、花束、お菓子、魚......。母に聞けば、母も幼少期にはそうやってお金を稼いで、生活費を工面したと言う。そうしているうちに、私の乗る車にも少女が訪ねてきた。ドキッとした。母は、少女から花を買った。

日本でも「貧困」という言葉は、よく聞く。しかし、これほど当たり前のように子ども がお金を稼いでいる姿は見かけない。子ども達にとって、金銭を稼ぐより学業に励む方が、 有るべき姿だと私は思う。勉強をして、スキルを身につけ、多様な視点を得て、そうやって子ども達が、この先の社会を豊かにしていくものだ。この酷な状況を変えたいと私は思った。世界には、裕福な人と貧困にあえぐ人に、圧倒的な格差がある。私一人が、現状を訴えても無駄なあがきにも思える。しかし、世界にいるのは私一人ではない。この世界にいる一人一人が考えを巡らせれば、状況は変わるはずだ。

私は、看護師になりたいと考えている。国境なき医師団に入りたい。フィリピンの人々が幸せに生きていくために、まず必要なことは生命の維持だと思うからだ。フィリピンには、飢餓や栄養失調が原因で病に冒され、苦しんでいる人が多くいる。貧困にあえぐ人は、 体調より生活を優先する。自分や家族の不調には、気づかないふりをする。そんな余裕はないからだ。子どもであっても、老人であっても、その日を過ごすためのお金が第一なのだ。それを救うことができるのが、国境なき医師団だ。国境なき医師団とは、医療団体ボランティアで、貧しくて病院に行けない人を医療で助けている。独立・中立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体だ。直接的に貧困問題を解決しているわけではないが、こういった活動に参加、協力することこそが、一個人として私にもできる貧困に苦しむ人を助ける手段だと思っている。

フィリピンの貧困問題を解決するためにと思って、自分の将来を考えたとき、ふと「自分は偽善者なのではないか」という考えが頭をよぎった。しかし、フィリピンで見たあの光景を思い出せばそんな考えは、すぐに消し飛んだ。偽善でも何でも、「人の役に立ちたい」 と思って行動することは、間違いではないはずだ。

私の活動が誰かを救うかもしれないと考えたとき、私は自分を誇らしく感じた。それと 同時に、自分のやらなければならない努力を楽しみに思った。私が看護師になり、国境な き医師団を目指すためには、勉強も学校生活も、精一杯の努力が必要だと思う。それでも 目を閉じれば、フィリピンでの光景は生々しくよみがえる。そのたびに、私は自分を奮い立たせることができる。私ひとりではできないことでも、一人一人が自分にできることを考えていけば、貧困問題にも立ち向かえるはずだ。私はその一人として、フィリピンが、「貧困」という言葉と無縁になるように、自分にできることを考えていきたい。