中学生の部 審査員特別賞
海を渡るランドセル
さいたま市立原山中学校1年 安達 夢乃

―みんなの役に立てますように

そう願いを込めて、ピカピカになるまで布で磨いた。

六年間ともに小学校へ通ったランドセル。今、その真っ赤なランドセルは海の向こうへと旅立つ準備をしている。

二年前、私は一冊の本と出会った。そこにはアフガニスタンの子どもたちに日本で不要になったランドセルを贈る活動のことが書かれていた。また、子どもたちの日常の様子の写真も載っていた。

アフガニスタンは、政治・宗教・民族などの複雑な事情が原因で、長く戦争状態が続い ている国だ。このため、誰もが学校に通うための鞄や文具を揃えられるわけではないそう だ。また、貧しい家庭では兄弟全員が学校に通えるとは限らないという。教室は無く、石 ころだらけの荒れ地に小さな黒板が一枚。机も椅子も無い。ランドセルが机の代わりだ。 決して恵まれた環境ではない。しかし、子どもたちは家族のために学びたい、人の役に立 ちたいと一生懸命だった。その姿に心が揺さぶられた。

同じ地球上で生きているのに、日本とは大きく異なる厳しい教育環境に胸が痛んだ。

学校に通うことができて、十分過ぎるくらいの文具を持っている。なのに、私は学習意欲や向上心が低く、学ぶことの意味を考えようともしなくなっていた。そんな自分を恥ずかしく思った。ここで自分が変わらなければ、この先もずっとこのままになってしまう気がした。だから、自分のためだけでなく、人々の幸せのためにも学習に努め、学んだことを活かせるようになりたい。

私が小学校三年生の時に担任だった先生は、その翌春から二年間、青年海外協力隊の隊 員となって、南アフリカ共和国で活動していた。知識と経験を生かして世の中の人のために役に立とうとしている先生は本当に素晴らしいと思った。私は、そんな先生に憧れてい る。

今の私には、先生のような大きな活動はまだできない。しかし、この真っ赤なランドセ ルを贈ることはできる。一人でも多くのアフガニスタンの子どもが学習でき、笑顔になっ てもらえたら嬉しい。

今回のことをきっかけに、これからも世界で起こっている様々な問題に目を向け、自分ができることを探し続けたい。

海の向こうへ出発の日に、私はこの真っ赤なランドセルを最後にもう一度背負ってみた。 小学校の頃の楽しかった思い出が走馬灯のように駆け巡った。肩ベルトをギュッと握りし めながら心の中で、
「行ってらっしゃい。」
と言った。
「行ってきます。」 そんな元気な声が背中から聞こえた気がした。