優秀賞
マンゴーよりもハグ
北海道札幌国際情報高等学校 1年 吉村 咲子

私は、幼少期の三年間を、父の仕事の関係でフィリピンの首都マニラで過ごしました。それから、 はや十年が経とうとしています。

当時の幼かった私にとって、今でもずっと記憶に残っている出来事があります。それは、私が母と一緒に、市街地で売られている野菜や果物を買いに行ったときのことでした。一人の少女が、道端に座って、私と母をじっと見つめていました。少女は、当時の私と変わらない年齢のように見え ましたが、身体は栄養が足りておらず、やせ細り、洋服は何年着てきたか、わからないようなもの を身につけていました。少女の側には、少女の親にあたる大人はおらず、たった一人でそこに座っていました。私の母は、少女と目が合うと、その少女を心配し、お店で買った一つのマンゴーを手渡しました。すると、少女はマンゴーを受け取らずに、私の母に、ぎゅっときつく抱きつきました。 母は、それを受けとめ、しばらくの間、少女を優しく抱え込んでいました。少女は、目に涙をうかべながら、

「Ayokong maghiwalay」 と、タガログ語で「離れたくない」と言っていました。私にとって母がいることはあたり前のこと ですが、その少女にとってはあたり前ではない、という現実を知り、当時の私は胸が痛みました。

今、改めて振り返ると、その少女は「愛」に飢えていたのです。私は今まで、そして今も両親に愛され、祖父母に愛され、親戚に愛されて育ってきました。そしてそれを疑うことなく、この十五年間を生きてきました。しかし、その少女は「愛」を受けとることのない環境におかれ、ただ一人、 世界の中で孤独を感じて生きていたのです。もちろん、少女は食べ物にも飢え、お腹を空かしていたことでしょう。しかし、食べ物よりも何よりも、「人のあたたかさ」「愛」に飢えていました。自分の隣で一緒に話してくれる人、寄り添ってくれる人、ただ、それを必要としていたのです。自分を大切にしてくれる人や、頼ることのできる人がいない「寂しさ」とは、一体、どのようなものな のでしょう。私には、到底計り知れないものです。自分が存在することの価値や意味までもが、失われてしまいそうです。

現在、フィリピンには約二十五万人ものストリートチルドレンが、存在しています。毎日裸足で ゴミ山へ行き、食べ物を買うためのお金を集めたり、中には犯罪に手を染めたりする子どもたちも います。そうせざるを得ない状況におかれてしまっているのです。彼らには、頼りになるもの、安心して生活ができるような家はありません。日々、恐怖と不安を感じながら、生活を送っているのです。そんな彼らのために、今一番必要なことは何か、真剣に考えました。

その答えは、「心のケア」です。いつのときかマザーテレサは言いました。

「一切れのパンではなく、多くの人は愛に、小さなほほえみに飢えているのです。」 私はこの言葉を目にしたときに、フィリピンでの出来事が、思い出されました。食料や物資は、お金で買うことができますが、「愛情」は人から生まれるものであり、決してお金で買うことはできないのです。私たちに求められていることは、お金で解決されるものではなく、私たち自身が、実際 に現地に赴き、子どもたちと会話を交わしたり、一緒に遊んだり、本を読んだりすることだと思い ます。私たちは、まずはじめに、何を支援する必要があるのかを、もう一度考えることが大切です。 彼らにとって、心の支えとなるものやよりどころとなるものを提供すること、これが一番必要なこ とではないでしょうか。私がフィリピンで出会った少女のように、「愛」「人のあたたかさ」に飢え、 孤独を感じている子どもたちが、少しでも幸せを感じ、笑顔になれる日を私は心から願っています。