―過去の受賞作の中で印象に残っている句はありますか?

次の、第21回最優秀賞の山下茜莉さんの句が印象に残っています。

月涼しまだ履き慣れぬ下駄の音

読んだ時に、とても物語のある句だと思いました。句の中では履き慣れない下駄を履いて、どこにいったのかは省略されています。それはお祭りであったり、花火大会であったりすると思うんですけど、下駄の音だけでそういう場面を想像させて、なおかつ、作者の思いを載せているように思います。「履き慣れぬ下駄の音」に。それはつまり、新しい下駄ですよね。この日のために新調しておろしたのか、会う人に敬意をこめているといいますか。「まだ」というのも上手いです。この「まだ」に非常に含みがありますね。全体を通して美しいですよね。下駄の音が夏の月へ響いていくような、そういう印象を受けました。

―俳句を創る時に押さえておきたいポイントを教えてください

1)屋内・屋外どちらでも詠んでみる

俳句を作るシチュエーションを考えると机の上、要するに屋内で創るか屋外で創るかの2つに分かれると思います。屋内だったら僕はジャズが好きなのでジャズを流しながら集中して考えるということが多いです。屋外の場合は「吟行」※という言い方をするのですが、僕はどちらも実践しています。屋内では、自分の頭の中にある想像力が非常に大事になります。屋外に出たときは、自分の頭の中よりも、見たもの・触れたもの・聞いたものが俳句になっていくんです。どちらも大事だと思います。俳人によってはどちらか一方が得意だったり、「どちらもできる」という人もいると思いますが、高校生のうちはどちらも試して俳句を作ってみれば良いのではないでしょうか。

※名所旧跡を訪ねたり、近所を散歩しながらなど、外に出て俳句を創ることを吟行という。

2)推敲を重ねていく

俳句も文章と同じく推敲は重ねます。たまにできたものがそのまま推敲もせずに作品として成り立つこともありますが、たいてい推敲を重ねて仕上げるということが多いと思います。たとえば助詞ひとつとっても、「に」にするのか「の」にするのかとか微妙なニュアンスの推敲があり、それがとても大事。17音という短い中で一文字たりとも無駄にできません。一文字にそこまで気を遣うのは俳句が一番なのでは? 一文字でも粗があると、それが目立ちますから。助詞以外にも、語順をどうするか。5・7・5のなかで何度も語順を入れ替えたり、もちろん季語も大切です。1つの句に対していろいろな推敲の観点があります。僕も審査員をさせていただいている中で、推敲を重ねた句はわかります。日々俳句を見ることが多いので、だいたい見抜けるようになってきています。

3)たくさん創ってたくさん捨てる

俳句の世界でよく言われるのですが、「多作多捨」という言葉があるんです。たくさん詠んだなかで素晴らしい出来の句は1つあるかどうか。初心者のうちはとにかくたくさん創って、その中で推敲もしながら、良いものを拾い出すというのが力になっていくと思います。そのときの選び方は自己判断しかありません。「これはできたな」と自分で思えるような作品に気づいて発見していく。自分でたくさん創る中で良いものができたなと思ったときは、コンテストに出したり、投稿したりして真価を問いましょう。そうすると「自分の見立て通りだった」とか「まだどこか足りなかった」と分かるようになっていきます。だから、コンテストや投稿は、自分の実力をみるうえで大切な物差しになると思います。

そのときに、同世代の他の作品を見ることはとても大事です。落選して「落ちちゃった」だけで済ませると進歩がないので、「なんで落ちたのか」ということを自分なりに考えることが大切です。そういう自分も何度も落選してきていますから。そのたびにどこがだめだったのかを自分で分析して、同時に入選した作品を読んで、入選作品はやっぱり素晴らしいな、立派だなと、素直に鑑賞しましょう。これは、勉強と同じで、テストで間違ったところをそのまま置いておくとそれ止まりですよね? 答え合わせをして自分なりに分析をして、「だから間違ったんだな」と正しい答えを導き出して納得すると、学力って付いていきますよね。俳句も同じなんです。

―初めて俳句に挑戦するときは何を心がければ良いでしょうか?

俳句を始めるなら「俳句歳時記」という季語辞典と友達になるというのが近道だと思います。俳句歳時記には、季語に対する説明があって、さらに例句が載っています。季語を覚えることができるし、例句も目に入ってくるので、俳句が親しくなっていく。だから、まずは俳句歳時記を開いてみて鑑賞すると良いでしょう。いきなり創るのは大変だから、まず読むことからスタートしていってもいいんじゃないかなと思います。

また、松尾芭蕉などの古典で俳句の知識が止まっている人は多いと思いますが、俳句というのは現代の人もたくさん詠んでいて、いろいろな事象が17音で詠まれているということに気づいてほしいです。俳句歳時記にはそういった句もたくさん収録されているので、まずは触れてみてください。

ー最後に、高校生にメッセージをお願いします。

高校時代に、宮本輝さんの『螢川』『泥の河』という作品に出合いました。高校の前に古書店があって、その前に自販機があったんです。100円でジュース買おうかと思ったんだけど、なぜかそれをやめて古書店で『螢川』と『泥の河』が収録された文庫本を買ったんです。その日の夜に一気に読んで、すごく感動したんです。涙を流しながら読んでいました。なかでも、螢の美しい描写に感動して目を開かれた感じがしました。「言葉でここまで人を感動させることができるんだ」ということを体感したんです。

この話には続きがあって、それ以来宮本輝さんの作品はずっと読み続けてきました。僕にとって宮本さんは本当に雲の上のような存在であり、本当に尊敬する小説家です。それで、20年以上経ってから、ひょんなことに宮本さんの新刊の書評を書かせていただく仕事があり、さらに雑誌で「宮本輝の10冊」ということで、宮本さんの10作品の書評をしたんです。それをご本人が読んでくださって、そこではじめて宮本さんとつながるわけですよ。そして、お手紙をいただいて、そのあと『螢川』の舞台となった富山県で実際に宮本さんとお会いして対談することになったんです。

高校時代の夏に、ジュースを買わずにふとした拍子で宮本さんの文庫本を買った。あの日の出会いが、20年以上経って、作者ご本人と対談することにつながるわけです。これって不思議なことだと思うし、自分にとって奇跡的なこと。将来作者に会ってお話しすることができるなんて思いもしなかったけど、ずっと読み続けて、俳人として言葉に携わってきた。それが呼び寄せた奇跡だと思っています。

だからみなさんには、高校時代に出合う本の大事さを伝えたいですね。何十年経ったときにあなたの人生を変えることもありますよと、そういうことを伝えたいです。

 

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【ほりもと・ゆうき】
1974年和歌山県生まれ。國學院大学卒。俳句結社「蒼海」主宰。俳人協会幹事。第2回北斗賞、第36回俳人協会新人賞を受賞。2022年度「NHK俳句」選者。二松学舎大学非常勤講師。著作に、句集『熊野曼陀羅』(文學の森)、芸人・又吉直樹との共著『芸人と俳人』(集英社文庫)、『俳句の図書室』(角川文庫)、『NHK俳句 ひぐらし先生、俳句おしえてください。』(NHK出版)、『桜木杏、俳句はじめてみました』(幻冬舎文庫)、『散歩が楽しくなる 俳句手帳』(東京書籍)などがある。公式サイトはこちらから。