7月1日から募集開始となる「第26回全国高校生創作コンテスト」の現代詩部門審査員を務める詩人・社会学者の水無田気流先生。「詩を書くことは特に特別なことではなく、日常」と話す水無田先生に、詩を創作する際に心がけることや、具体的な作品例をもとにしたポイントを話してもらった。

 

 

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私は速い乗り物に乗った時に詩の言葉が浮かびやすい

―水無田先生が詩を創作するようになったきっかけを教えてください。

子どものころから文章を読んだり書いたりするのが好きで、小学5年生のときには詩や小説のまねごとのような作品を書いて、友達と同人誌を作ったりしていました。気づいたらすでに書いていたので、きっかけはとくに覚えていません。

ご存じのように「現代詩」というジャンルはやや専門性が高く、最初は単純に口語自由詩を幅広くとらえて書いていました。今のようにいわゆる「現代詩」を意識するようになったのは、80年代の伊藤比呂美さんや平田俊子さんなどの作品を読むようになってからです。ちょうど私が高校生のころ、彼女たち魅力的な現代詩作品の書き手が現れて、『現代詩手帖』や『ユリイカ』を読むようになりました。自宅近所の書店では売っておらず、今のようにネット通販もない時代ですから、文芸書がたくさん置いてある書店に行くのが何よりの楽しみでした。新宿の紀伊國屋書店に詩集を探しに行ったり……。思潮社から出した第一詩集『音速平和』は、結局5回も校正をかけることになり、最後は刊行予定まで時間がなくなってしまい『現代詩手帖』編集部の片隅に机を借りて作業することになり、とても申し訳なかったですが、「ここが詩手帖編集部か〜」などと、感慨深かったですね。

―詩を書くときのシチュエーションやこだわりなどはありますか?

こだわりは、とくにありません。強いて言えば、朝起きたらこぼれる言葉は書き取るようにしています。作品に錬成して行くには時間がかかる場合もありますし、作品になり得ないものもたくさんありますが、浮かんではこぼれる言葉を、書き残して創作メモを作る……というのは、子どものころからやっています。詩を書くことは、別に特別なことではなく日常なので、何かこれをすれば浮かぶとか出来るとかいった特殊スキルの伝授のようなことがお伝えできず、こんなつまらないことしか言えないので、正直いつもこの手の質問をされると大変に申し訳なく思っております……。

ただシチュエーション的に、とくに詩の言葉が浮かびやすいのは、速い乗り物に乗っているときですね。とくに飛行機に乗っていると、体調にもよるのですが、がんがん浮かんできてうるさいです。たぶん、飛行機が苦手なので、本能的に他に集中できることに気をそらそうという意図が働くからだと思うのですが……。

説明よりも言葉の強度と振動を優先することが大切

―高校生へのアドバイスをお願いします。

私の場合、言葉を作品に錬成するのは彫刻や建築物を造るような感覚です。作品を書きに入っているときは、作品の中を歩いている夢をよく見ます。言葉を立体的に俯瞰する感覚です。ここの言葉は出っ張っているから削ろうとか、ここは逆に足りないから足すべきだ、とか、頭の中で言葉を立体的にとらえて「3DのCAD」を回しながら作品を書いているイメージです。詩を書くときは、言葉ひとつひとつが持っている色や奥行きをより拡大して、全体との細かなつながりが途切れないように、細部を磨いてつけていく必要があります。詩の言葉は短く、小説のようなアプローチとは異なり、たとえば言葉によって状況を書く、登場人物の心情を書くといったものとは別種のものです。

少し強い言い方をすれば、詩の言葉は詩人が書くというよりは、自ら立ち上がるもの、言葉によって指し示されるものをはるかに超えて伸び広がるもの、言葉それ自体の内部にある振動を増幅させるもの、そしてそれらはすべてポエジー(詩情)になっていくものです。少々のコツのようなものとしては、説明よりも言葉の強度と振動を優先すること。あえて「オチ」をつけようとすると、ポエジーがしおれてしまうことが多いです。余情を残すために、言葉を刈り取る勇気をもちましょう。

作品の題材については「今・この世界の・ポエジー」をどのように表現するかについては、書き手が百人いれば百通りあると思います。自分なりの捕まえ方を追求することが、詩の表現の探求ということなのではないかな、と思います。そのためには、とにかく色んな種類の作品を読むべきだと思います。私がどんなに言葉を尽くすよりも、「自分が」表現したい世界に近い作品に出会うのが一番でしょう。