ここからは「全国高校生創作コンテスト」の短篇小説部門に応募を考えている高校生に向けて、小説が上達する3つのポイントを教えてもらおう。

【ポイント1】好きな作家の好きな作品を写本する

一度、自分の好きな作家さんの文章を、そのまま書いてみてほしいです。自分で実際に書いてみると、読むだけではわからないことがわかってきます。分量は、小説の出だし部分だけとか、原稿用紙で5枚~10枚程度。やってみると、「なんでここに句読点が打ってあるんだろう?」という風に、いろいろな気づきが出てきて、自分の筆力がちょっとアップするんです。これが基礎力を付けるための一番の方法だと思います。

【ポイント2】誰かに読んでもらって意見を聞いてみる

ものづくりには主観と客観の両方が必要です。作者自身がどう思っているか、という主観はもちろん大事だけど、同時に客観性もないといけません。自分が文章を届けなければいけないのは他人ですから。とくに小説の場合、読む人の頭の中に絵を描いてあげないといけません。たとえば主人公の行動を描くにしても、「今この人はここにいる」と自分は思っていても、読む人からみると逆側になっていたり。そういうことを一生懸命考えないといけないんですね。だけど、自分一人だと客観視するのは難しい。これまでの創作コンテストでも、客観性を獲得している小説が上位に来ていると思います。

手っ取り早いのは、誰かと話すことです。僕の場合も、人と相談しているときってアイデアが出やすいんです。だから出版社の編集者がいて助かることがあります。自分一人で考えることはもちろんだけど、会話の中で思いついたり。相手の意見に刺激を受けて、さらに相手も刺激を受けて、という連鎖があるので、自分で書いた作品についてもいろんな意見を聞いたりしています。

主人公の性別や年齢を、自分と離してみるのも良いかもしれません。女子高校生が主人公の「バンドリ!」もそうですが、僕はけっこう幅広くて女性主人公の恋愛ものも書きます。女の子の作者が男子主人公で描くとか、その逆とか。やってみると意外と客観性が得られるかもしれません。自分が興味があって、「それだったらこういう風に書けるな」と思えるなら試してみてください。あと、いつも「僕は」と書いているのだったら「中村は」と三人称に変えることによっても客観性が得られると思います。人によっては急に上手くなったり、書きやすくなったりする可能性があると思います。

【ポイント3】タイトルは重要。何度も考え直す

ずっと審査員として関わっていますが、毎年1つはすごく心に残る作品があります。なかでも、印象に残りやすいのはタイトルですよね。わりとタイトルっておざなりにつけがちなんですが、僕らはすごく考えます。それはなぜかというと、作品の看板だから。たとえば映画なら、ちょっとシーンを短くまとめて紹介することができたりします。本の場合もあらすじ紹介はできるけど、タイトルが一番なんです。多くの人は、まず一番最初の1行目にタイトルを書く。それで本文を書き始める。そういう書き方だと思うんです。最初にすごく良いタイトルを思いついて、タイトルありきで書くならそれでいいかもしれない。だけど、書き終わってから、「このタイトルで本当にいいのかな?」と考え直すことは少ないんじゃないでしょうか。

もちろん内容が素晴らしい作品は覚えていますが、さらにタイトルが素晴らしいと、すごくよく覚えている。タイトルを聞いたら中身も自動的に思い出すということもあります。僕の場合は、決まらない時はずっと考えてタイトルを付けるようにしています。

 

ー最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。

僕は「好奇心」こそが人間を動かす元となる感情で、すごく大事だと思っています。好奇心が個人の成長の源だし、好奇心こそが世界を動かすんだ、と。小説は、作者が知っていることを書いていると思われがちなんですが、そんなことはなくて、自分が知りたいことを書いているんです。「こういう状況になったらこの二人はどうなるんだろう?」とか。「この人はどんなことを感じるんだろう」とか。書いている自分が知りたいから書くんですよね。そして、そういう風に書かれた小説は面白いと思う。もちろん自分が一回経験したことをそのまま書くということもあるんですけど。「知りたい」とか「考えたい」とか「もっと深く理解したい」とか、そういうものを小説化する、という気持ちでやってみると良い作品になるし、自分のためにもなるし、選考する僕らも面白いと思っています。自分自身が知りたいことや理解したいこと、そういうことをぜひ物語として書いてみてほしいです。

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【中村航】
小説家。2002年『リレキショ』にて第39回文藝賞を受賞しデビュー。続く『夏休み』『ぐるぐるまわるすべり台』は芥川賞候補となる。ベストセラーとなった『100回泣くこと』ほか、『トリガール!』等、映像化作品多数。メディアミックスプロジェクト『BanG Dream!』のストーリー原案・作詞等幅広く手掛けている。